第30話 人形
____ムシャムシャムシャ。
「……おいしー!」
口の中でお餅とあんこが、とろけています。嫌なヤツらがいなくなると、私はお腹が減った。
そんなときに見つけた、あんこが乗ったお餅。露店で売ってた。
ヤマトにねだるとすぐに買ってくれた。
うむ、苦しゅうないぞヤマト!
____ムシャムシャムシャ。
「うめー!」
なんだ、このあんこ。おいしー! お餅もモチモチですよ。もっちもち。
「おかわりー!」
ネズミの店員さんが直ぐに持ってきてくれる。
「……あの、お嬢ちゃん。お代は大丈夫かい?」
品物を置きながらそんなことを言う。ちょっと申し訳なさそうに言う所が可愛い。
「ヤマト! お代!」
私はお金持ってないけど、ヤマトは持ってる。
「……ああ」
ヤマトは何だかぼんやりとしている。
懐から巾着袋を取り出して店員に小判を渡した。
「お、お客さん。小判は困りますよ、もっと小さいヤツでお願いします!」
「……ああ」
それを聞いてヤマトは、銀色の小さなコインみたいな物を渡した。
「どうも、どうも。ではお釣もって参ります」
「ああ……いや待てヒナミがどれほど食うかわからん、食い終わった後で良い」
「さいですか、では失礼します」
____ムシャムシャムシャ。
うめーうめー。
私はさらに二回お代わりした。
お腹ぽんぽんになりました。なんかもう眠たいな。帰って寝ようかな?
「げぷぅ……あー、美味しかった。ごちそうさまヤマト」
「……ああ」
ヤマトの生返事。
「んー、ヤマトなんか元気ない? どうかした?」
「……ああ、いや、少し考え事をしていた」
「考え事?」
「うむ」
「なに考えていたの?」
「……んむ、何と言えば良いか。強さについて、己自身について、かな」
ヤマトは眉間にシワを寄せながら言う。
「ふーん」
私は力になれそうにないな。男の人はよく分かんない事で悩むもんなんだなぁ。
「けぷっう……ところでヤマト?」
「なんだ」
「私眠くなっちゃた、そろそろ帰らない?」
「……あれほど餅を食うからだ、まったく」
「うう、眠いよー」
「買い物はどうするのだ、石も換金しなくてはいけないのだぞ?」
「眠いー眠いー」
目を擦りながら言う。
今日ヤマトは私に甘い気がするので、トコトン攻めてみる。
さあ、ヤマトはどれだけ私のワガママを聞いてくれるのでしょうか! わくわくします。
「……まったく、では帰るか?」
ヤマトが言う。
よし、何か勝った。私は心の中でガッツポーズした。
「おんぶしてー」
私はすごく眠たそうな声を出す。まあ眠たいのは本当なので良い感じの声が出ました。
「……ほれ」
ヤマトが背中を向けてしゃがむ。
ヤッホーい。このドキドキを悟られないようにゆっくりとおんぶされる。
むふー、ヤマトの背中は広い。腕も、がっちりしてるので良い感じです。
ヤマトの背中で、ウトウトする。本当に寝そうだ。
んー。でも今日はちょっとワガママ言い過ぎたな、反省反省。今度はもっと良い子にしよう。ヤマトに迷惑かけすぎてもいけないし。
ウトウトしながら、露店通りを眺める。
このまま帰って寝るか、むしろこのままヤマトの背中で寝るかと言った所で……それが目に入った。
「ヤマト、ストップストップ!」
「ん、どうかしたか?」
ヤマトは止まらず歩き続ける。
そうだ、ヤマトは全然英語出来ないんだった。
「とまってとまって!」
私はヤマトの背中から降りて、一軒の露店に走る。
「お、おいヒナミ?」
「ヤマト、この子買って!」
何だかおどろおどろしい露店に飾られていた、一体の日本人形。
大きさはヤマトより少し大きいくらい。
長い黒髪と、黒い瞳。
赤色の着物を着ているこの子を指差して私は言った。
「ヒナミ、それはやめ……」
「ほほぉ、お客さんお目が高い!」
ヤマトがなにか言おうとするのを遮って、中から店員さんが出てくる。
「わわ」
私はびっくりした。
店員さんは見た目がヤバイ。
ヘビだ。
でっかいヘビ。まんまでっかいヘビにカラフルな布が巻き付いている。
手なんか当然ない。それがスルスルと店から出て
「これは良いですよぉ。戦術呪物兵器の中でもピカイチでしてな。連隊を組ませた場合は街を落とすことも不可能ではないでしょう。まあそれ相応の人身御供も、金子も必要ですがね。フシャシャシャシャ」
ヘビさんが舌をチロチロさせながら言う。
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