第31話 月ちゃん
「これは姉妹番を、月の壱番と言いましてな。ああ当店では姉妹番号が花鳥風月、四連ありまして、その内の一つにございます。月番は防御力に秀でておりまして、ご覧のとおり呪物性能も宜しいですよ。フシャシャシャシャ」
ヘビさんが、人形さんの説明をしてくれる。
「ヒナミ、やめておけ」
ヤマトが言う。
「えー、何で。この子可愛いよ? ヤマトー買って買って」
ヤマトにねだってみる。
「いや、これはだ……」
「ほう!? 貴方様がヤマト様でございますか!」
ヘビさんがヤマトの言葉を遮ってきた。
「……そうだが?」
あ、ヤマトがとても不機嫌そうになった。私にはわかる。
「お噂はかねがね伺っております」
ヘビさんはとても嬉しそうにヤマトにすり寄っていく。
「……どんな噂だ?」
「フシャシャシャシャ、勿論良い噂でございます。ヤマト様ならきっと私の店にいらして下さると!」
「……そうか」
「そうですそうです……ほほう、ワタクし、ピーンと来ました。この幼子を生け贄に商品をお使い下さるのですネ!」
ヘビさんが私を見下ろす。
「ねーねーヤマトー、買って買ってー?」
でも私は難しい話はどうでも良くて、ただこの子が欲しいのだ。可愛いし。
「ほほう、ほほう……素晴らしいですな。月番を見て何も感じないとは。だいぶ、弄ったのですか? それともこう見えて狂っているのですか?」
「……」
ヤマトは無言。
どうしたんだろうと、私はヤマトの顔を見た。
……あ、ヤバイ!
ヤマトがキレそうだ。なんか分かる。
私がワガママ言い過ぎたからかな?
「かなり呪耐性はありそうですが、他に使い道は無さそうですな。使い潰すのなら最適でございますネ。まあ、これでも月番なら二番までなら接続出来るのでは? おそらく半日なら持つでしょう」
ほぁあああああ! ヤマトがどんどん不機嫌に!
もしかして、ヘビさんがヤマトを怒らせてるのかも。
「どうですか? 他ならぬヤマト様だ、お安くしておきますよ。ヤマト様がどう商品をお使い頂こうとも、決して他言致しません。勿論、生け贄の後始末も致しましょう。ただ今後も御贔屓のほど宜しく願いたいのですが?」
「……そうだな」
ヤマトが低い声で言う。
アカン、これはアカンやつです!
「やまとー!」
私はヤマトの腰にしがみついた。
具体的に言うと左腰辺りにしがみついて刀を抜けないようにした。
「何だヒナミ? 邪魔なのだが」
おおう、やっぱりヤバかった。
ヤマトはヘビさんを切るつもりだ。
「これこれ、奴隷の身の上でご主人様の邪魔をしてはいけませんヨ。ヤマト様と私は今大切な話をしているのですから」
ヘビさんに怒られた。
でも、私が邪魔しなきゃヘビさんは真っ二つにされてると思う。
「そうだ、ヒナミ。離れていろ、すぐ済む」
ひぃいい。ヤマトがヤル気だ。
「ちょっとちょっとタイム!」
「たいむ、とはなんだヒナミ?」
「ちょっとこっち来て!」
私はヤマトを引っ張る。取り合えずヘビさんから引き離す方向で。
「むう、店主暫し待っておれ。話をつけてくる」
「ええ、ええ。お待ちしております」
ヘビさんは全て心得ております的な返事をする。
「……そろそろ良いかヒナミ?」
店から少し離れた。ここなら私たちの話は聞こえないだろう。
「うん、えっと……ヤマト、あのヘビさん切ろうとした?」
「ああ」
ヤマトは当然のように答える。
「何で!?」
「不快だった」
「そんだけ!?」
「……まあ生かしておいて良いことはなかろう、という考えもある」
「ええと、ヘビさん切っても問題ないの?」
「問題はあるだろう」
「じゃあなんで切るの!?」
「カッとなったのかもしれん」
「そんな理由!?」
私はびっくりした。ヤマトは意外とおバカさんかもしれない。私は頭を抱える。
「……ヒナミをバカにしたからな」
ヤマトがボソッと何か言った。
「ん? ヤマト、何か言った?」
「言っておらん」
「んー、そう。でもねーヤマト、ヘビさん切るのは良くないと思うよー」
「そうか?」
「うん、私はただあの子が欲しいだけだし」
私は店先の人形、月ちゃんを指差す。
ヘビさんが言っていた名前だけは覚えたのだ。
「ヒナミ、あれは良くない。外見は人形に見えるが兵器だぞ」
「へ? 爆発するの?」
「……いや、爆発はせんだろうが。使い手が呪われる」
「ん? 呪われるとどうなるの?」
「死ぬ」
「死ぬの!?」
「ああ、当然だろう。だから使い道としては奴隷に強制的に使わせるか、自爆覚悟で自ら使うかだ」
なんと、そんなに危ない子だったのですか月ちゃんは!
ん? でも私はふと思う。
「私だったら使えるんじゃない? ヤマトの呪いも効かないし」
「……かもしれんが、危険すぎる。使わせたくはないな」
ヤタトが言う。
「ん? もしかして私の心配してくれてるの?」
「……当然だろう」
ほほう! なんかヤマトが優しい!
「ええー、だいじょうぶだよー、買って買ってー?」
私はニマニマした。
とても良い気持ちです。
「……だか」
「ねね、ヤマト今日、私の好きなもの買ってくれるって言ったよねー?」
「……ぬ」
「私、月ちゃんが欲しいなー」
「……なんだその月ちゃんとやらは?」
「あの子」
私は店先の月ちゃんを指差す。
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