二階層 死霊の谷
第20話 死霊の谷
____ビュービュー ビュー。
寒い? いや、生暖かいような、それでいて背筋がゾクッとするような風が吹く。
変な風。
ゴツゴツとした山あいの谷、草も生えてない場所。
____ビュービュー ビュー。
「ねーねー、ヤマト。ここなんかヤな感じ!」
ヤマトの後について行くのも大変。
谷底は暗く、底が見えない。もし落ちたら確実に死んじゃう。
「そうか」
「そうかじゃあなくて! なんなのここ? なんか、モンスター的なモノでるの?」
「もんすたーとは、何だ?」
ヤマトが腕を振りながら言う。
「モンスターはモンスターだよ! ゲームの敵!」
「……げーむ、とは?」
ヤマトが、さっさと二回腕を振る。手には刀をを握っているのでとても危ない。
さっきからコイツは、何してるんだろ?
「ゲームはゲームだよ、もうぉ!」
まったく私の分かりやすい説明でわからないとは、ヤマトにも困ったものです。
そもそも、ヤマトには常識ってものがない。付き合う私は大変です。
どう言えばわかってくれるのかな?
私は考えた。
バカなヤマトでもわかるように考えた。
「ほら、さっきのスズメさんとか、コウモリさんみたいなのはココにいるの?」
「……当然だろ、うっと!」
ヤマトは回りを見渡し、またさっと腕を振るう。
「ふーん」
そうかぁ、やっぱりココにもいるのかぁ。
ヤマトがシリョウとか言ってた奴かな。
……なんだろ、シリョウって?
「ところで、ヒナミ?」
気づくと、ヤマトが真剣な顔で私を見ている。
「んー、なにー?」
「……今、どんな感じだ?」
「んあー、何が?」
「……肩が重いとか、悪寒がするとか。死にたくなるとか……絶望的な気分にならないか?」
「は?」
いきなりこの変態は何を言うのか?
この風の音を聞いていると、なんかゾクッとするけど。それだけです。
「……体調は良いか?」
「まーまぁーかな」
「……そうか、体に痛いところは?」
「無いよ、それがどうかしたの?」
「いや良い。……ところでヒナミ。後ろを見てみろ、ヒナミの後ろだ。ナニが居る?」
「え! 私の後ろになんかいるの!?」
私は慌てて振り返った。
……ナニもいない。
風がビュービューと吹いてるだけだ。
「もう! ちょっとビ……いや何でもない!! ドッキリ、ドッキリなの? ヤマトのばぁーか、そんなのに引っ掛からないもんねー!」
ちょっとビビったのは秘密です。
「……そうか」
そう言いながらヤマトは、私の頭の上あたりを刀で切った。
私がドッキリに引っ掛からなかったから、八つ当たりでもしたのだろう。大人げない。
「ねーねー、さっさと行こうよー。そんな腕ブンブンさせてないでさぁ。危ないよ?」
「これをせねば、俺が危うい」
ヤマトが腕をブンブンする。
まるで目の前に見えない敵がいるみたいに、真剣な様子。
……準備体操でもしてるのかな?
うん、そうかもしれない。
準備体操は大切だ。学校の先生が言ってた。
よし、私もやろう。
「うぉー」
腕をグルグル回す。
ヤマトのように片腕だけだとバランスが悪い。賢い私は両腕をグルグルする。
「……ヒナミ、何をしている?」
「準備体操! あぁー、なんか肩が良い感じ!」
暖まってきた。
今なら良い球が投げれそう。
「…………」
ヤマトも集中しているのか、何も言わなくなった。
二人で、腕をブンブンさせながら谷を進む。
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