第17話 狂鳥の餌場 奥の院 

 

 暗い階段を下りていると徐々に明るくなってくる。

 もうすぐ出口かな?


 私の右側にいるヤマトは迷いのない足取りで階段を降りていく。

 うん、ありがとうゲージは多少減ったけど、やっぱりヤマトは頼もしいところがある。

 とりあえずヤマトについて行ってあげよう。


 階段を降り切って、真っ暗な場所から出た。



「あれ、さっきの場所とあんまり変わらないね?」

 降りた先は、何とかのエサ場とか言う場所と同じで開けた草原。

 空に月もあるし、前の場所と違いがあるとすれば……ここには、建物が全然ないくらいかな?


「ここは奥の院だ。この先の門をくぐれば次の階層へ出る」

「ふーん」


 __コケーコッコココ! 


「問題は試練の門だが」

「……うん」


 __コケーコッコココ! 

 __コケーコッコココ! 


「この門番をどうやって突破するかが問題となってくる」

 __コケーコッコココ! 

 __コケーコッコココ! 

 __コケーコッコココ! 

 __コケーコッコココ! 


「……ねえねえ、ヤマトー。さっきからニワトリさんが煩いんだけどー? ……ってあのニワトリ大きくない!?」

 コケコケ煩いと思ったら、草原に大量のニワトリがいた。えーと、数はたぶん50匹くらい。

 しかもデカい。

 背丈はヤマトくらいある。


「ああ。アイツらは襲ってこない、心配するな。それよりヒナミ、アイツらの名前をよく知っていたな?」

 ヤマトはビックなニワトリさん達を見ながら、のんびりとした様子で言う。

 ニワトリさんはここでもニワトリさんかー。


「だが、念のため移動しておいたほうが良いな」

「え!? やっぱり襲ってくるの?」

「違う、上で言ったであろう? この場所で襲ってくるような魔物は一種類だけだと」

「……そうだっけ?」

「……俺が死にそうになりながら教えてやったことを、こうも簡単に忘れるとは」

「あーあー、思い出した思い出した。確か、そんなこと言ってたような気がするねー」

 カラスさんに半殺しにされていたヤマトが、確かにそんな事を言っていた。


「ヤマトが死んじゃいそうだったり、急に元気になったりするからびっくりして忘れてたの」

「……まあいい。ここで襲って来る魔物は一種類。この階層の名の由来になった魔物で、その名を狂鳥という」

「確かこの場所が、キョウチョウの餌場で。えーと、襲ってくる魔物がキョウチョウ? んんん?」

「そうだ。つまりアイツらが狂鳥の餌だ。餌が多い場所にいれば狂鳥がやって来る」

 あの大きいニワトリさんが餌?

「……なるほど、じゃあ早く移動しよ?」


 __コケーコッコココ! 

 __コケーコッコココ! 


 ビックなニワトリさん達から少しずつ離れていく。

 ニワトリさん達は私たちを見ても気にならないみたい。地面をずっとつついている。

 形は普通のニワトリさんだ。でも、あのビックなニワトリさん達は一体何を食べてあんなに大きくなったのか。

 あの大きいニワトリさんを食べるキョウチョウって一体どれくらい大きいのとか、いろいろ考えると怖くなってきた。

 私は警戒して周りをきょろきょろと見渡した。

 そんなに大きいものが近づいて来れば見通しもいいし直ぐにわかるはず。


「ヒナミ、そう心配するな。狂鳥など、会う機会は滅多にない。この階層を10回通って1回会うかどうかだ」

「そうなんだー」

 じゃあ、安心かな。

 

 ヤマトと一緒にてくてく歩いて行く。


「ああ、話の途中だったな? この先問題になるのは試練の門だ。……時にヒナミ、お前は何を恐れている?」

「へ?」

 急にヤマトが変なことを聞いてきた。

「試練の門には、門番がいる。その門番は、試練に挑むヒトによって姿を変えることがある。この階層の門番もその類だ、ヒトの恐れるモノに近い姿を取る」


「何を恐れているかって言われても、うーん」

 そんなこと聞かれても困るなー。私が恐れているものかー何だろ、何だろう?

 あ、そうだ。


「お母さんがいなくなることとか?」

「……参考にならん」

「ええー? 折角答えてあげたのにー。じゃあじゃあ、ヤマトはー? ヤマトは何を恐れているの?」

「俺は良い。既にこの試練は突破しているからな。出てくるとすれば、お前が恐れているモノに近い姿の門番だ」

「んん? 試練って一度合格してればもう出てこないの?」

「そうだ」

「じゃあ、合格してるヤマトがいれば門をくぐれるんじゃないの?」

「そんな筈なかろう。突破していないヒナミがいるのだ。当然、門番は出てくる」

「ふーん? でも、でも一度合格してるヤマトがいれば、ヨユーじゃない? 同じ試練でしょ?」

「……違う。挑むヒトの数に応じて、試練は厳しくなる」

「へ?」


 よくわかんないな。一度合格してればもう出てこない。でも、合格したヤマトと一緒でも私がいれば出てくる? それも門番さんは私がいる分強くなって出てくる。


「えーと。つまりヤマト一人なら、この先に苦労せず進んでいけるってことだよね?」

「……そうだが。俺一人では突破できない、門があるのだ。……ヒナミに協力してほしい」

 ヤマトは私を見ながら、言う。

 顔をしかめているヤマトは、少し悔しそうに見える。試練を突破できないことが悔しいのかもしれない。

 正直、ヤマト一人で突破できないなら、私がいても合格できるとは思えない。


 でも、だけど。


「よっし! わかった! 手伝ってあげるよー」

 なんだかヤマトに頼られると嬉しい。

 私は協力することにした。


  __ドシーン! ドシーン!


「んん?」

 何かすごい音がする。


「む」

 ヤマトが素早い動きで後ろを振り向いた。

 ……嫌な予感。


 __ドシーン! ドシーン!


 私もヤマトが見ている方を見る。


「むむ、運が悪いな。……狂鳥だ」


 それは大きかった。二本足で立ってこちらに歩いてくる、歩くたびにドシドシという重低音が響く。

 口には鋭い歯が沢山生えている。

 見た目はでかいトカゲ。

 でも鱗のピカピカ具合が半端ない。

 二つの目は真ん丸だけど、全然かわいくない。むしろすごい怖い感じだ。


 てか、あれって……。


「あれって、恐竜じゃあぁああん!?」


 ジュラシック的なパークで見た気がする。あれだ、あのティラノサウルスとか言う種類のヤツだ!!!


「きょうりゅう? いや、ヒナミ。あれは、狂鳥だぞ」

「名前なんてどうでも良いよ! 逃げよう逃げよう!」

「無理だな」

「えええ! どうして?」

「ヤツは鼻がいい。一度狙わせたらどこまでも追ってくるぞ」

「早く次の階層に行けばいいんじゃない?」

「……試練の門で門番と挟み内を食らうぞ?」



「うううう。じゃあどうするの?」

 だめだ。なんか涙が出てきた。……私、ここで死んでしまうのかもしれない。


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