第16話 暗いとこで

「ばいばーい。カラスさーん」


 カラスさんは飛んで行った。

 夜空でも飛んでいる姿がはっきりと分かるのは、カラスさんの色が白いだけじゃない。体自体が淡く光っているからと気づく。


 私はカラスさんに向かって手を振っているけど、ヤマトはずっと正座して頭を下げている。

 相変わらずの農民さんだ。

 でも、元気になってよかった。ヤマトが治って本当に助かる。


「ヤマトー。カラスさん、もう飛んで行っちゃたよ?」

「……そうか」

 ヤマトがスッと頭をあげる。


「助かった、か。……命拾いをしたな」

 ヤマトは夜空を見上げながら、呟く。

「よかったねー」

「ヒナミにも礼を言わなければな。お前のおかげで助かった」


 改めてお礼を言われると照れる。

「いやーそれほどでもー。えへへへ」


「……さて、では行くか」

「うん? 行くって階段下りるの?」

 私は鳥居の下にある階段を見る。階段は下に向かって続いているけど。


「ねーねー。私たちって塔を登っていくんでしょう? ほら、ヤマトは月を目指すには、塔を登る必要があるとか言ってたよね? 降りてどうするの?」

「……この塔の空間は歪んでいるとも言ったはずだ。登り続ければたどり着くわけではない。だから、今回は下りればいい」

「ふーん。変なの」

 まあ道を知っているのはヤマトだ。言う通りにしよう。


 鳥居の下の階段を二人で降りる。

 階段は暗い。上の階の月明りが届かなくなると、完全に真っ暗だ。

「ヤマトー。階段暗いよ?」

「なら、俺の手に摑まれ。俺は夜目が効くから心配するな」

「はーい」

 

 仕方ないから、ヤマトの手を握ってあげた。

 うん。暗くて転んじゃいそうだから仕方ないのだ。


 暗い階段を二人で進む。

 でもヤマトと手を握っていると安心する。なんでだろ? さっきヤマトが死んじゃいそうだったから、かも。やっぱり知らない場所で一人になるのは嫌だ。

 この常夜の街に来た時も、実は少し、心細かった。

 ヤマトとすぐに会えてよかった。もし、今まで一人だったら私はどうなっていたかな。直ぐに死んでたかも。カエルさんに食べられそうだったし。

 ヤマトがいてくれてよかった。

 うん、危険な場所ではヤマトとはぐれないように注意しよっと。


 ……うん? ヤマトとはぐれる?

 あれ、なんか私、言わなくちゃいけないことがあったような?


「あーーーー!?」

「ど、どうした。ヒナミ?」

 思い出した!


「ヤマトー! 私を一人にしたでしょう!?」

 ヤマトに文句言うの忘れてた。カラスさんにボコボコにされたので、蹴りは勘弁してやる。


「何のことだ?」

「しらばっくれてもダメだからね! えーと、ほら私が、その。……ヤマトに術を撃った後のことだよ!」

「……なんだ、そんな事か」

「そんな事!?」

 酷い言い草だ。私がどれだけ不安だったか、この変態は分かってない。


「そもそも、ヒナミ。お前は俺に風術を撃ってきたよな?」


「……う」

 それを言われると痛いな。

「でもでも! ヤマトも私に術を撃ったでしょう? えーと、違った。ヤマトがじゃなくて。そうよ、ヒツジさんとかコウモリさんに術を撃たせたじゃない! 私を的にして」

「あれはヒナミの特性を見極める為だ。ヒナミが俺に術を撃った時のように遊び半分ではない」

「遊び半分じゃあないもん! 私はふくしゅうの為に。……そう、インガオウホウのために、ヤマトにハンキをひるがえしたの!」


「……ほう。なるほど、反旗を翻すか。と言うことは、ヒナミ。ヒナミは俺と敵対するということか?」

「へ? 敵たい? えーと、えーと」

 敵たいってことは、ヤマトと敵になるってことかな?

 う。それは困るというか、そうじゃないというか。


「いやいや、そこまでじゃあなくてね。ヤマトに私の不満な気持ちを、術の的にされて、ぎゃー、というこの気持ちを知ってもらいたくてね?」

 私はヤマトの手を強く握りながら言う。


「だから、俺に術を撃ったと?」

 うん? あれ、暗くて見えないけどヤマトのやつ、笑ってないか? 

 声が楽しそうだ。


「おーい、ヤマトー? 笑ってない?」 

「……笑っていないぞ」

「ホントに?」 

「本当だ」

 怪しいけど、暗くてヤマトの顔がわからない。もし、笑っていたら蹴りを入れてやるつもりだったのに。


「じゃあじゃあ、なんで私を一人にしたのー?」

「お前が逃げるからだ。少し懲らしめてやろうとしてな。まあ、何か危険があれば助けるつもりだった」

「そうなんだー」

 じゃあ、許してあげようかな。あれ? でも。


「カラスさんが来たときは何処にいたの? 助けてくれなかったじゃん」

 そうだ。私はカラスさんに食べられるかもしれないと不安だった。

 あの時ヤマトは私を助けてくれなかった。


「御前様が降臨されたのだ。……俺は崇めていた」

「あがめていた?」

 正座して、農民状態だったのかな?


 …………ホント、使えないヤマトだ。

 私の中のヤマトありがとうゲージが、減った。



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