第14話 カラスの威を借りるヒナミ

 __じー、と。

 私は白いカラスさんを見つめる。

 カラスさんも私を見つめてくる、でっかい瞳で。

 __ジー。


 __じー。

 私も見つめ返す。こういうのは先に目をそらした方が負けだ! 私は負けない!


 __ジーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 __じーーーーーーーーーーーーーーーーー、チラ。

 私は負けた。


 も、もう一回、死んだフリしようかな?

 私はどうすれば良いか分からなかったので、もっかい死体になることにした。よし、前に倒れよう。


 体を前に倒そうとすると、地面に着く前に

 __ポス

 と、カラスさんのクチバシに体を支えられた。

 え? なんか今の私ってとっても間抜けな状態になってないかな?


 そのまま体を起こされる。私は間抜け状態から直立状態になった。


「ん? あれ、襲わないの?」

 私は思わずカラスさんに聞いた。カラスさんは返事をしない、なんだか興味深そうに私を見つめてくるだけ。


「んー。ま、いっか」

 このカラスさん、とても強そうだけど私を襲ってくる様子はない。だったら大丈夫かな。無視して出口を探そう。ついでに迷子のヤマトを見つけてあげなくては。

 私はカラスさんに背を向けて歩き出す。


「おーい。ヤマトーででおいでー?」

 ヤマトを呼ぶけど、返事はない。まったく! 私を置いて迷子になるなんて、やっぱり変態は信用できません。


 ここまでの道は覚えてない。しょうがないから、出口と思う方向に歩いていく。


 __テクテクテクテク。

 __テクテクテクテクテクテク。


 しばらく歩いて、後ろを振り返る。

 そんな気はしてたけど、カラスさんが私に付いてきていた。


 __テクテクテクテク。

 __テクテクテクテクテクテク。


 また歩いてみる。

 カラスさんは付いてくる。このカラスさん、外見も変わっているけど歩き方も変わってる。

 私が普段見慣れている黒いカラスは、両足でピョンピョンと跳ねる様にして移動するけど。この白いカラスさんは、三本足を使ってとても優雅に歩く。

 上半身? が全く動かなくて、足をゆっくり動かす気品のある歩き方だ。 

 私が今まで見た鳥では、鶴の歩き方に一番近い。


「綺麗に歩くねー」

 私も見習いたいものだ。私が、カラスさんの歩き方をほめると、カラスさんは心なしか嬉しそうに頭を動かした。


「でも出口分からないなー。ねーねー、カラスさん? 出口知らない?」

 カラスさんは相変わらず何も言わない。でも、私の前にスッ、と出るとそのままゆっくり歩き出す。

 私がぼーと立っていたら、カラスさんが振り向いた。


「付いて来いってこと?」

 カラスさんは、「そうだ」と言わんばかりに頭を一回上下に振る。


「おー! やったー」

 話が分かるカラスさんだ。私はカラスさんについて行く。


__テクテクテクテクテクテク。 

 __テクテクテクテク。

   __テクテクテクテクテクテク。

    __テクテクテクテク。

 

 道中は全然、魔物に襲われなかった。側にカラスさんがいたからかもしれない。


 カラスさんは、石でできている鳥居がある場所まで案内してくれた。

 鳥居は大きい。どれくらい大きいかと言うと、でかいカラスさんが、鳥居の中に入れるくらいの大きさ。

 そして。その鳥居の下には、階段があった。


「んん?」

 出口は出口かもしれないけど、ここじゃあないなー。私が入ってきたところは階段なんてなかったし。

 やっぱり、迷子のヤマトを見つけて家まで案内させないといけない。

 私が、がっかりしていると、カラスさんが首をかしげながら私を見てくる。


「うーんとねー。カラスさん? 変態ヤマト……じゃあなくて、三つ目の変態さんを見なかった? そいつ、私とはぐれちゃってるの。どっかにいないかな?」

 私が聞くと、カラスさんは翼を広げてスッと飛び立つ。羽ばたく音はしない。ただカラスさんは、真っ白な体で夜闇を切り裂くようにして飛んで行った。飛び方も綺麗なカラスさんだ。


「あー……いっちゃった」

 カラスさんは何処かへ飛んで行ってしまった。

 どうしようかなー。ここで待ってればヤマト来るかな?

 私は鳥居の根元に腰を下ろす。


 一人になると、また不安になってくる。

 ん? そもそも、どうして私一人になったんだっけ?

 えーと、ヤマトが私を盾にして……私がヤマトにカマイタチさんをぶっ飛ばして、私がお尻ぺんぺんから逃げて……ああ!?


 そうだ。そうだよ! 

 ヤマトが私を一人にしたんだ!

 よく考えてみると、ヤマトは逃げる私なんて簡単に捕まえられたはず。……それを放置してた。こんな危険な場所で私を一人にしたな。さすが変態、やることがエグイ。

 考えると腹が立ってきた。今度会ったら、ヤマトに蹴りを入れてやる。ヤマトが泣いて謝るまで私は許してやらない。うん、私は心に決めた。

 


 そんなふうに、私が考え事をしていると。

 __キイキイキイイイイ キイキイ__キイキイキイイイイ キイキイ


 ん? この声ってどっかで聞いたような?

 上を見る。


「ふぁ!」

 コウモリさんが団体行動していた。そして、私に突っ込んでくる!?


「カマイタチさん! お願い!!」

 着物の袖から術印書を二枚取り出して、カマイタチさんにコウモリさん達を切ってもらうようにお願いする。

 私は頑張った。カマイタチさんも頑張ってくれた、半分くらいのコウモリさんが真っ二つに切れた。……でも、コウモリさんは数が多い。


 残りのコウモリさん達が襲ってくる。


「わあああー。助けてヤマトー!?」

 頭を抱えて蹲る。

 私は、体を丸めて亀みたいになった。

 今度こそ、死んじゃうかも……。私が泣きそうになってると。


 __キイキイキイイイ!?


 __ポトポトボト


「へ?」 

 私の周りにコウモリさん達が落ちていた……白い火に燃やされて。

 訳が分からないまま、ボーとしていると、私の前に白いカラスさんが降りてきた。何と、カラスさんはクチバシにヤマトをくわえている。


「ヤマトが助けてくれたの? わああーい、ありがとー!」

 私はヤマトが助けてくれたんだと思った。だから、カラスさんにくらえられてプラプラしているヤマトにお礼を言う。でも、ヤマトは目を、三つ目も全部閉じてプルプルと小刻みに震えているだけ。


「ん?」

 あ、察し。もしかして、もしかして。

「助けてくれたのカラスさん?」


 私の質問に、カラスさんは頭を上下に動かす。

「わああ。カラスさん、ありがとーございます!」

 カラスさんの大きい足に抱き着く。なんて良い人、いや良いカラスさんだ。私を助けてくれたし、ついでに役立たずの変態も連れてきてくれた。

 それにしてもヤマトは役立たずだなー。私がピンチなのに、くわえられてプラプラしてるだけだなんて。

 あ、そうだ。蹴りを入れるのを忘れていた。


「カラスさん、カラスさん。もうちょっとヤマトくわえててね?」

「ヒナミ! お前、弥美切り御前やみきりごぜん様になんという暴言を___ごばああああ!?」

 ヤマトが私に怒鳴り返していると、


 __ドゴーーン!


 カラスさんは頭を下に振った。それは大きく振った。クチバシの先にいるヤマトが地面にめり込むほど振った。

 カラスさんが頭を上げると地面から血まみれのヤマトが出てきた。


「わああああああ! ヤマトー!?」

「……が、がはっ。……な、なぜ?」 

 よかった、ヤマトは生きてた。でも、血だらけだ。流石に、このヤマトに蹴りを入れるのはためらわれる。

「ねーねー? ヤマト……だいじょぶ?」

「……か、辛うじて」 

 なんか大丈夫じゃあなさそう。


「だめだよー? カラスさん、それがいくら変態だからってそんなに乱暴しちゃあ」

 私はカラスさんを注意する。


「こ、この愚か者がああ!」

「いたあああ!?」

 突然、ヤマトが足で私を蹴った! 私は倒れて、膝を少しすりむいてしまった。ひどい。


「ひどーい! 急に何すん……の?」 


 __ドゴーーン! __ドゴーーン! __ドゴーーン!


 ヤマトに文句を言おうとすると、……カラスさんがすごく、頭を振っていた。

 クチバシの先っぽにくっ付いている変態が、どんどん赤くなっていく。


「ちょ、ちょっとちょっと! カラスさん、ストップストップ!? ヤマトが死んじゃうー!?」

 カラスさんは止まった。

 でも、ヤマトの息も止まってるかもしれない。


「や、やまとー? だいじょうぶ?」

「…………」


 返事がない、ただの屍のよう「……うう」あ! 息がある。

 

 ヤマトって丈夫!



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