第3話 ヤマトとヒナミ
「はあ。はあ、はあ。はあ」
変態から必死に逃げる。
捕まったら、今度こそヤバい。お母さん、こんな時どうすればいいの!?
私の心の中のお母さんは「ガンバ」と言いながら親指を立てた。うう、役に立たない。
とりあえず走ろう。全力で走る。
「あいたー!!」
すぐに転んだ。盛大にすっころんだ。私は悪くない。足に何かが引っかかったのだ。
カラン、カランと音がする。
音の方向を見ると、……なんだろうあれ? 木の棒? いやあれは……刀のサヤの様な? あれが私の足に引っかかったんだ。
「おい、小娘」
変態の声がする。地面から身を起こそうとすると、私にまたがるようにして変態が立っていた。
剥き身の刀を、私の顔に突き付けてくる。
もう逃げられない。私は覚悟を決めた。どうせなら、徹底的に抵抗してやる。戦うのだ。
「なんですか? 変態さん」
「……俺は変態じゃない。ヤマトという、お前の名は?」
「……ヒナミ」
「ヒナミか。……おい、ヒナミ、俺の子を産め」
「絶対いやー!?」
やはり変態だ。変態が、小学生女児を襲うつもりだ。防犯ブザーを持ってないのが悔やまれる。
「待て、待て。話は最後まで聞け。ヒナミ。見たところお前は金を持っていないな? 帰る場所はあるのか? ないだろう、あるならこんな場所をうろつかん。だから、俺の子を産め。その代り、きちんと養ってやる。飯も食わせてやる。家も俺の家を使え、どうだ?」
「帰る場所ならあるもん! お母さんもお父さんもいるもん!」
「ほう。親がいるのか……それで、何処に帰る?」
「えーと」
困った。私の家はこんな街にない。そもそもどこだろうココ。
「やはりないのだろう?」
「違う違う。えーと。家はあるの。でもここ何処?」
「此処は月照街。五番塔の街だ」
「げっしょうがい? 何それ?」
「哀れな、そんなことも知らんのか」
ヤマトはそういって刀を持っていない左手で自分の目を押さえる。ちゃんと指を三本立てて三つ目を押さえているところが気に入らない。そもそも、哀れむな。失礼なやつ。
「まあいい。ヒナミ、今いるこの場所がわからぬのに、帰り道は分かるのか? 帰る場所は分かるのか? ……わかるまい。それでどうするつもりだ?」
帰り道。帰る場所。思い出せ。私は何処からこの変な場所へ来たのか。……あ、そうだ。思い出した!
「帰り道くらいわかるもん! えーと、私は。あの! あの月から来たの! あそこから落ちてきたんだよ!」
月を指さして説明してやる。そうだよ、実感がある。確かに私はアソコから落ちてきた。だから月に行けば帰れる。
「くっくくくく。面白い娘だ。そうだな。確かに、俺たち月照街のモノはすべてあの月を目指している」
「え? なにそれ」
あれ? 確かに私はあの月から来たけど、目の前のヤマトが月を目指しているとか聞いたら、何それ馬鹿じゃないとか思ってしまう。月に行ける筈なんてないのに。いや、でもロケットでもあるかな?
「それも知らんのか。……全く何も知らんな。とにかくだ。そんなままでどうする? 愚か者は長生きできん。特にこの月照街ではそうだ。おい、これが最後だ。俺の子供を生め。そうすれば、養ってやるし、いろいろ教えてやる。どうする、ヒナミ?」
ううう。どうしよう。この街、お巡りさんいないかな? いなさそうだ。公衆電話もないみたい。携帯持ってないしなー。とりあえず、不本意だけど、この変態の言う通りにしてみようかな? どうしてもイヤになったら隙を見て逃げ出してもいいし。そもそも、ヤマトはまだ私の目の前に刀を突きつけている。これって絶対に脅しだ。断ったら……何されるか分からない。
「ううう。わかったよー」
「よし。では行くぞ」
そう言いながら、ヤマトは転がっている鞘を拾って刀を納めた。
「どこ行くの?」
「奴隷商だ」
「どれいしょう? そこ行ってなにするの?」
「お前に奴隷の首輪をつける。誰のモノかキチンと分かるようにしておかなければな」
なんですとー。なんかいろいろ、騙された気がする!!!
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