第4話 奴隷商
「はぁー騙されたー、騙されたよー」
「おい、ヒナミ。人聞きの悪いことを言うな」
私を連れて歩く、変態鬼畜三つ目がなにか文句を言ってくるが、気にしてはいけない。
「私は事実を言ってるだけですけどー」
「俺は何も騙してない」
「私は奴隷にされるなんて聞いてないよー」
「ふ。そうでもしなくては、お前はこの街を出歩けんぞ。ノコノコ出歩いてみろ、攫われるか。食われるかだ」
ヤマトはいつの間にか、額の三つ目を鉢巻きで隠していた。
「鼻で笑うなー。失礼なやつ」
カエル男と会った場所からだいぶ塔の方へ近づいてきた、近づくにつれて建物も増えてくる。露店みたいのもいっぱい出てる。ただ、私みたいな人間はいない。何ていえばいいのか? そうだ、妖怪だ。妖怪みたい。カエルだったり、牛だったり、鬼だったり。えーと、ヤマトみたいな三つ目もいる。あ。妖精みたいのも飛んでる。
「ここには人間はいないの?」
「ニンゲン? なんだそれは」
「……えーと、私みたいのはいないの?」
「ふむ。そうかお前は物を知らないのだったな。どういったらいいか。……ヒナミ。お前はヒトであろう? ヒトはわかるか?」
「私のことでしょ?」
「そうだ。俺のことでもある」
「えぇー?」
ヤマトは絶対に人ではないと思うけど。
「何だその不満そうな声は。俺はヒトだ。お前もな。ここにいるモノは全部ヒトである」
「じゃあ。百歩譲ってヤマトは人だとするとー。人じゃない人はいるの?」
「……モノを知らんやつに教えるのは疲れるな。……まず、俺の説明を聞け。質問は後にしろ。ここにいるモノは元を正せば、全部ヒトだ。我らに違いがあるとすれば、志だ」
「こころざしって?」
「……話を最後まで聞けというに。まぁ、いい。志とは目的だ。言ったであろう? われらは月を目指す。月を目指してるのは正当な月照街のヒトである。しかし、な。中には半端物もでてくる」
「はんぱものって?」
「……月に挑むのを諦めた者たちだ。ならず者ともいう」
「月に挑むってどういうこと?」
「まさか。……それも知らんとは。度し難いほど無知だな」
「馬鹿にされているってのはわかるよ? 変態さん」
「俺は変態ではない」
「ロリコンさんでしょう? 私みたいな女の子に手を出す人って変態さんだよ?」
「なるほど。ヒナミの、言わんとすることは分かる。流石に、俺も今のヒナミを孕ませようとは思わない。もうしばらく成長するのを待つ。当然だろう?」
「じゃあ何で、今の私に子供を産めとかいうのー!?」
「お前は特別だ。今のうちに唾をつけておいた」
……なんだろう。お前は特別だとか言われたら、ちょっとうれしい。いやいや! 騙されてはいけない。ヤマトが言ってることは、間違いなく変態的なのだから。
「話を戻すか。月に至る方法は知っているな?」
「ロケットで飛んでいく」
「……そうか。何も知らんか」
ヤマトは悲しそうに目を閉じた。鉢巻きで分からないけど、たぶん額にある三つ目も。
「あの塔が見えるな。月に至るにはあの塔を登らなければならない。あれが五番塔。まさに試練の塔だ」
そう説明しながらヤマトは五つの塔の方を指さした。
「えぇー。あれは確かにおっきいよ。月に届きそうなくらい。でも、あれじゃあ月に届かないよ? 絶対に無理だと思う」
地上からどんなに高い建物を作っても、月に届かないんじゃないかな。間に宇宙とかあるはずだし。うーん、どうだろ? よくわかんない。もしかしたら届くのかな? でも、この街の塔では無理だよ。大きいけど、宇宙に出るほどは大きくない。
「頂上に至れば、月に到達しうる。それが、理だ」
ことわり? 理科とかの理? のことかな。
「ことわりねえー。じゃあじゃあ、どの塔でも大丈夫なの。5つあるけど」
「そうだ。どの塔でも頂上にさえ至ればいい。しかし、この街の塔は5つ。それぞれ複雑に入り組んでいる。よく見よ。塔と塔の間に、無数の細い橋が掛かっているだろう」
「うん」
「いずれかが正解……ということはないが、ヒトに合った答えはあると言われている」
「意味わかんないよー」
「まあ、いずれにせよ。我らヒトは、あの試練の塔を攻略しなければならぬのだ。ヒナミも自らの定めを理解しておけ」
そんなヤマトの変な話を聞きいていると、一件の店の前についた。
木製の看板に、なにか難しい漢字が書いてある。一番後ろの「商」だけは読める。店の周囲にはピンク色の煙が充満していた。甘い匂いもする。
「ついたな。ここだ」
「うぇー。ここで首輪されるのー」
私は不満を表してみたけど、ヤマトは無視して店に入っていく。
どうしようか。逃げるなら、ここが、最後のチャンスかもしれない。うーうー。首輪とか絶対嫌だけど、逃げても、行くところがない。それにさっきヤマトは、私が成長するまでは変なことしないと言っていた。あれを信じてみようかな。うう、それしか希望はない。
私は仕方なく、ヤマトの後について店に入った。
店の中は薄暗かった。壁に掛かったろうそくの光が、ゆらゆらと辺りを照らしているだけ。ピンク色の煙は店の中から漏れていたようで、ろうそくの揺らめきと合わさって気持ち悪い。
正面の木の机には、フクロウがいた。人間並みに大きい奴だけど。
「おやおや、いらっしゃい。悪名高き女殺し。初めに言っておきますがね。貴方に紹介できる女の商品はありませんよ? こちらも商売だ、わざわざ品物を壊したくないのでね」
やっぱり、このフクロウも喋るんだ。
「……違う。この娘に奴隷の首輪を」
「はい? 娘? ああ、貴方の陰に隠れているその子ですか。……うん? 娘? 女? ……あ、貴方が?」
フクロウは、大きな瞳で私をじっと見てスンスンスンと鼻を鳴らすような仕草をした。
「うーむ。娘の、女の匂いだ」
この街の連中は全員、変態さんに違いない。明らかに人じゃないし、もうまともな人に会うのは諦めよう。
「早くしろ。金はある」
そういって、ヤマトは金色のモノを机に置く。あれは、……時代劇とかで見る小判みたい。いや、小判そのものだ。ここって江戸時代だったのか。
「いやいやいや、暫し、お待ちを。お代は大丈夫ですが、それより、まずですね。その子だ、その子。興味深い。貴方の側にいても、どうにもならないんですか? ちょっと鉢巻きを外してみていただけないでしょうか?」
「外してもいいが、外したまま店の奥に行ってやろうか?」
「いやいやいや! それは、お待ちを。どうぞご勘弁ください。失礼しました、お客様の事情に立ち入らないのが私たちに決まりでしたが、つい好奇心が。ホォーホォーホォー。では、用意します」
フクロウは机の後ろに置いてある、箪笥の引き出しを開ける。
不思議だ。あの翼でどうやって掴んだんだろう?
「はい。これですね。じゃあ、着けますので。主人はヤマト様でよろしいですね?」
フクロウが犬の首輪みたいなモノを出してきた。色は黒い。うう、これからアレをつけられるのかー。
「当然だ」
「えーと、お嬢ちゃん。お名前は?」
「……ヒナミって言います」
「ヒナミちゃんね。ヒナミちゃんはヤマト様を主人として認めますか?」
「ふほんい、ながらー」
「認めますか?」
「ふほんいながらー、……認めます」
「では、失礼して」
でかいフクロウが私の首に首輪をつける。ホントに失礼なやつらだよー。
「では、これが契約の術印書です。どうされます? ここで、最終契約いたしますか?」
「いや、家でする。世話になったな」
ヤマトはフクロウから一枚の紙を受け取った。
「もう、ここには用はない。ヒナミ帰るぞ」
「ふぁーい」
「またのご利用をお待ちしております」
私たちはフクロウの陽気な声に送られて店を出た。
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