第2話 カエル男と変態と

 

 __夢から覚めた。

 どこだろう、ここは?

 私は今、草原にいる。


 空には大きなお月様。

 その、お月様を囲むように塔が5つ。

 まるで見覚えのない場所だった。


 どうしよう、どうすればいいのか。周囲を見渡してみた。

 草原には何もない。夜の冷たい風を肌に感じる。


 とりあえず、あの塔に行ってみようか?

 塔のインパクトが強くて気づくのが遅れたけど、あの塔の足元には街がある。

 あそこまで行けば何とかなるだろう。場所もそんなに遠くない。


 歩き出す。……あれ? 私、靴を履いていない。

 服を見るとパジャマのまま。こんな格好で出歩くとお母さんに叱られてしまう。

 でも、着替えもないし。仕方ないよね。

 知らない場所で夜歩く、そんなに不安じゃない。だって月の光がとても綺麗だから。月って、こんなにも優しい光だったかな?


 __街に着いた。

 古い街。なんだか一昔前のテレビの風景みたいだ。家は全部、木造で瓦屋根。コンクリートを使っている家なんてない。

 道も石を敷いている。まだ家は疎らだ。もっと塔の方に近づいてみようと歩き出すと。


「おーい、お嬢ちゃん、そんな格好でどうしたんだい?」

 低い男の人の声。私は声のした方向に振り向いた。


「え!?」

 カエルがいた。人くらいの大きさのカエルがいた。そのカエルは人間の服も着ている。

「うん? どうした?」 

「カ、カエルが喋った!?」 

「……おう、お嬢ちゃん。ご挨拶だねぇ。せっかくヒトが心配してやってるのに、まったく無礼なやつだよ。……さてはお前、ならず者かぁ? げへぇ、げへぇ、げへぇ。まあ、いいか。見たところ一人のようだな。街ハズレを独りでうろつくなんてアホなやつだ。丁度、小腹が空いてたところだしなぁ」

「えと、カエルさん? 何言って……」

「見れば見るほど美味そうだなあ、げへぇ、げへぇ、げへぇ」


 ゾッと、悪寒がした。私は咄嗟に横に倒れこんだ。 

 私のすぐ横を何かが通った。

 舌だ。カエル男の舌が伸びている。……もしあのままだったら、私アレに捕まってた?


「チィ。逃げるなよなあ」

「い、いや。やめて」

 カエル男はこちらに顔を向けた。またあの舌が来る。このままじゃあ、食べられちゃう。

 私は素早く起き上がって、必死に走った、走ろうとしたけど。


「きゃあああ!?」

 右足に何かがくっ付いた。すごくネバネバして取れない。足にくっ付いていたのは、カエル男の舌だった。そのままカエル男に引き寄せられる。カエル男は口を大きく開けている。ダメだ、このまま食べられちゃう。私は目を閉じた。


 __お母さん、お父さん。助けて。


「ぐげえええ!?」


「ふぎゅ」

 地面に体が当たった。

 ……あれ? 私食べられてない? 


「ぎゃあああ!? ぼれのじだっがああああ」

 目を開けると、私を捕まえていたカエル男の舌が切られていた。



「……ああ、都合がいいな。ゆっくりと殺してやる」  

 気が付くとカエル男の横には知らない人がいる。いや、人だろうか? あれは、あの人は三つ目だ。目が三つ。両目は普通の黒色だけど。額の所にはとても綺麗な、お月様のような色の瞳が一つある。

「ビヒィイイイ」

 刀を手にした三つ目の人は、泣きわめくカエル男に近づく。 

 

「あ、あの! もういいですよ」

「ん?」

 あ。つい、三つ目の人を呼び止めてしまった。だって放っておいたらカエル男を殺しちゃいそうだったから。

「ひびぃいい!? ひいひいひい!」

 カエル男はその隙に、泣きわめきながら走っていった。とても素早い動きだ。

  

「ち。……おい、貴様が邪魔をするから逃してしまったじゃないか。……まあいい、……もういいか。おい、俺を見ろ」

「え、はい」

 言われた通りに三つ目さんを見る。三つ目さんは着物を着ている、結構、男前だ。……三つ目だけど。

 

「ん? おい、お前は……女だろう? いや、女か?」

「……え、女ですけど」

 失礼な三つ目さんだ。私は髪も長いし、……そんなに女の子っぽくないかな。着ているパジャマが悪いのかな。いや、でもパジャマもピンクの花柄だし。……やっぱり失礼な人だ。


「いや、いや、そんな馬鹿な。……おい、嘘をつくな!!」

 いきなり怒鳴られた。でも、そんなことを言われて私も腹が立つ。

「う、嘘じゃないもん!!」

「愚か者、俺の目を見て無事な女などいない、この嘘つきめ。確かめてやる」

 そう言うと、三つ目は私の胸を掴んだ!?


「うぇ!? へ、へんたーい!? お、おまわりさーん。助けて―!?」

「何? 気のせいか、胸が膨らんでいる? 馬鹿な」

 バカはアンタだ! 掴むな、離せ!

「むむ、下は……」

 さらに目の前の変態は私のズボンを触りだす。


「いやあああああ!?」

 こんなことされてお嫁にいけません。カエル男に食べられそうになったと思ったら、今度は変態に襲われるなんて! とんだ悪夢だ。夢なら早く覚めて。


「あ、ありえん。女だと、これは夢か」 

「いやああああああ!」

 私は、何故か呆然としている変態三つ目男の目玉を狙って拳を突き出す。

 よし。隙だらけだ、私の拳は額の大きい目玉に当たった。


「ぐぎゃああああ。目が。俺の目がああ」

 私の攻撃で変態はひるんだ。逃げよう。とにかくコイツから離れなければ。

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