いつかキミに届いて
第26話「ガンダムの地に立つ!!」
ゴールデンウィークで遊び呆けていた
なにより、
もうすぐ
「いづる君! あれよ、あれ! ……なんてことかしら、本当に実物大なのね!」
青空に立つ巨大なガンダムは、遠くからでもよく見える。
それを指さし笑顔を零す玲奈は、いづるの手を引きグイグイと歩き出した。後に続く真也や翔子が笑う中、いづるは
今日は四人で、お台場のガンダムフロント東京に来ているのだった。
「うわ、本当に実物大だ……どれくらいあるんですか? 阿室さん」
「全高18m、自重43.4t、全備重量は60t。RX-78-2、ガンダム……ガンダムよ、ガンダム! ガンダムはここにいるわ!」
「あ、阿室さん、落ち着いてください」
実物大ガンダムを見上げる場所まで来て、その圧巻のスケールに玲奈が目を輝かせている。
いづるにとっては、子供みたいにはしゃぐ玲奈の姿のほうが、実物大ガンダムの何倍も
周囲は親子連れやカップルで混雑していたが、歓声をあげる玲奈はやはり目立つ。
誰もが
玲奈はいづるの手を引き実物大ガンダムの周囲を一周すると、矢継ぎ早に喋り続ける。
「ガンダムは
「え、ええ」
「鎧武者をモチーフにしてるとも言われ、企画段階での名前はガンボーイ・フリーダム……それが、放送時にガンダムという、ガキーン! と格好いい名前になったの!」
「そ、そうなんですか」
「ガンボーイの名は後に、フォー・ザ・バレルで使われて脚光を浴びたわ。あの小説は
正直、玲奈の話は半分もいづるには理解できない。
ガンダムの物語や用語すら知らないことばかりなのに、制作した人間のこととなるとチンプンカンプンだ。だが、玲奈は既に極度の興奮状態で、ガノタ属性の解放が止まらない。
真也や翔子の前まで戻ってきたいづるを、さらに玲奈は実物大ガンダムの前へ押し出す。
「こうして見ると、本当に大きいわ……18mですものね」
「あ、はい。その、阿室さん……手、手が」
「手? そうよ、あの手を見て! ガンダムの手には本来、ビームサーベルへのコネクターがついてるの。それはちょっと見えないわね……握ってるものね!」
「いや、そうじゃなくてですね。あの、阿室さん。僕の手を、その……」
「ガンプラでも、私はできれば平手のパーツが左右に欲しいわ。一部のキットには
駄目だ、早く何とかしないと……!
玲奈は先程から、いづるの手を握り締めて喋り続けている。じんわりと温かな玲奈の体温が、いづるの手の中に圧縮されて浸透してくる。その柔らかさにドギマギしつつも、いづるはそっと玲奈の手を握り返していた。
ちらりといづるは視線を友人たちへ逃がしたが、真也も翔子も笑っている。
あっちはあっちで、なんだか話が盛り上がっているようだ。
そうこうしていると、ようやく玲奈が手を放してくれた。彼女はかわいらしいポーチから携帯電話を取り出すと、それを開いてなにやら操作を始めた。こういう時は自然と、機械音痴な彼女の手元を覗き込んでしまういづるだった。
「阿室さん? どうしたんですか」
「写真よ、いづる君! このガンダム、写真に撮らなきゃ……だって、アニメじゃない! アニメじゃないもの……本当のことだもの!」
「お、落ち着いてください、阿室さん。操作、わかりますか?」
「大丈夫よ、いづる君。私が……私が携帯電話を一番上手に扱えるんですもの!」
だが、玲奈の宣言も虚しく、彼女のガラケーはメールボックスを確認したり着信履歴を表示するだけだった。
玲奈は観念したのか、ちらりといづるを上目遣いに見詰めてくる。
「……写真、撮りましょうか」
「そ、そうね! いづる君、写真を撮るの上手だものね。お願いするわ」
玲奈から携帯電話を受け取り、少し下がっていづるはガラケーの画面を覗き込む。丁度よくガンダムが映る位置に立って、彼はシャッターを押した。
そうこうしていると、ガンダムの足元に立つ玲奈が手を振り声を張り上げる。
「いづる君! 私とガンダムを写真に撮ってちょうだい! いいこと? 上手に撮るのよっ!」
「あ、はい。……いやあ、富尾先輩。翔子も。見てよ、阿室さんったらさっきからもう……あれ?」
近くに来た真也と翔子に、いづるは微笑ましさから首を巡らす。
だが、二人を見て絶句。
真也はスマホを構えて無心にガンダムへとシャッターを切り、翔子も一生懸命写真を撮っている。いまだ一般人でしかないいづるにとっては、そのテンションがまだ理解不明……しかし、はしゃいでしまう気持ちがわからないでもない。
そうこうしていると、向こうで手を振る玲奈がポーズを決めた。
ポーズ、だと思う……いづるはそれを携帯のカメラ越しに見て首を捻る。
「なんだろう、あれ……富尾先輩。阿室さんが、なんか……変なポーズを」
玲奈は今、ガンダムを見上げる足元に立っている。すらりと見心地のいい、スタイルの良さが際立つその姿。彼女はピンと背筋を伸ばして、まるで天へと跳躍するかのように空へと右手を伸ばしている。
大きく伸びをして、右腕を上へと突き出しているのだ。
そのことを隣の真也に聞いたら、逆に
「知らんのか、いづる少年っ! あれは、あれこそがガンダム的なポーズ!
真也もかなり興奮しているようで、いづるにスマホを押し付けると走り出す。彼はすぐに玲奈の隣にならんで、アレコレ言葉を交わしていた。
やがて二人は「いづる少年、俺も写真だ!」「二人で撮るわ、いづる君!」と声をあげるや……やはり並んで妙なポーズを決める。二人は何故か揃って身体を広げるように、右手を突き出すポーズだ。なんだろうあれはと思いつつ、いづるは二人の携帯にそれぞれ姿を収める。
そうこうしていると、翔子がハスハスと鼻息も荒くいづるに詰め寄ってきた。
「いづちゃん、わたしも! わたしも阿室先輩と写真撮る! これね、これ! はい携帯!」
翔子は真也と入れ違いに、玲奈の隣へとぽてぽて走ってゆく。
戻ってきた真也は興奮を抑えきれないのか、いづるから返却された自分のスマホで写真を確認して頷く。酷く満足そうで、普段の真也ならば見せないような緩んだ笑みが浮かんでいた。
そして彼は、不思議そうにカメラマン役をずっとこなすいづるに語りかける。
「富野監督のアニメならば、オープニングの歌に沿って流れる絵は……こう! こうなのだよ、いづる少年! 右手をかざして、こう!」
「は、はあ……そういうもんですか」
「流石に阿室はわかっているようだな……よし、いづる少年。今度は俺がシャッターを押そう。いづる少年も、阿室と写真でも撮りなさいよ!」
「え、えっ!? い、いいんですか?」
意外な申し出に、正直いづるは嬉しい。そうこうしている間にも、翔子と並んだ玲奈は手を振ってくる。翔子のスマホを通して見る景色の中で、二人は互いに握った拳と拳、その手首同士を並んでぶつけあっていた。なんだか、どっちが
でも、なんか二人共左右別々の方向を向いてるが、いいのだろうか?
あれもまた、ガンダム的なポーズなのかと思いつついづるはシャッターを押した。
「阿室っ! 次はいづる少年と写真を取れ……ええい、楞川! そこを早くどけよやーっ!」
「えーっ、次はヒイロのポーズで写真撮りたいよぉ。ほら、こうして……じゃすわいびー♪ のポーズッ! ほら、阿室先輩も一緒にですよぉ」
「任務了解……そう、ガンダムを見たものは生かして帰さないわ!」
結局、二人が (・ω⊂) って感じのポーズでキメたので、いづるは黙って写真を撮る。
そのあとで真也に押し出されるまま、いづるは玲奈とガンダムの足元に並んだ。
ウキウキと弾んだ気持ちのままに、玲奈はガンダムを見上げている。その横顔を見ると、やはりいづるの中で
「さ、いづる君! 写真を撮るわよ……私の携帯は」
「富尾先輩が写真撮ってくれるので、渡してきましたよ」
「そう! ……あとで、その……待ち受け画面ってのの設定を、教えてほしいわ。その、わ、私……今日の写真は、待受にするから」
「え? 別に、いいですけど」
やはり実物大のガンダムに大興奮の大感動なのだろう……玲奈は心なしか顔が赤い。それでも二人で、やっぱり空へと右手を伸べるポーズで、それをいづるもやらされ写真を撮る。向こうで真也と翔子がオッケーだと手を振ると、玲奈は満足気にうんうんと頷いた。
だが、彼女はポンと手を叩くと、歩いてくる真也や翔子を呼ぶ。
「せっかくだもの、四人でも写真を撮らなくては。そう、
「はあ……や、阿室さん。テクニックという程のことでも」
「富尾君、いづる君に携帯を返してあげて! いづる君、トリガーをキミに……ほら、翔子さんもこっちに来て」
玲奈は張り切って友人一同をガンダムの足元に並ばせ、横でカメラを自分に向けて手を伸ばすいづるに密着してくる。いづるが一瞬息を詰まらせた、その時にはもう頬と頬が触れ合う距離に玲奈の横顔がある。
「ほら、富尾君! もっとこっちに来て。翔子さんも」
「ええい、阿室っ! ひっつく? くっつくのか!」
「いづちゃん、もっとそっち詰めて……ほらほらぁ、もっと阿室先輩とくっついてぇ~」
玲奈は遠慮なく、いづるへと起伏の豊かな身体を密着させてくる。
いづるはしどろもどろになりながら、カメラの中に四人が収まる角度を探して手を上下させた。ローアングルでガンダムを見上げながら、四人は並んで一枚の写真に収まる。
いづるはこの写真を待ち受けにしたり、永久保存版にしようと心に決めるのだった。
後ほど他の仲間たちにもメールでくばる、それが青春の一ページ……大事な思い出へと変わるのであった。
こうして実物大ガンダムを堪能したいづるは、玲奈に腕を引っ張られるままガンプラを見たり、ガンダムカフェでの食事にと引きずり回される。それはとても楽しい休日で、改めていづるの中の玲奈への想いを膨らませてゆくのだった。
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