FIRST IMPRESSION
第21話「黄金の朝」
楽しい時間は
彼はこの連休で
「なんだか、一人だとイマイチよくわからないアニメだな。……学校始まったら、阿室さんに色々聞かなきゃ」
満腹感も手伝って、朝日の差し込む一階の居間はぽかぽか温かい。二度寝の睡魔が迫る中で、自然といづるの
このまま眠りに落ちるかと思われたいづるは、眠気が見せる
腰に手を当て、自分を見下ろす
「あれ……阿室、さん……!? えっ、ま、待って、あれ!? 阿室さんっ!」
一気に目が覚めた。
瞳を見開けば、鮮明になってゆく世界の中心に玲奈が立っていた。
今日の彼女は、膝上のプリーツスカートに薄いカーディガンだ。
自然といづるの視点はフォーカスを移して、自分を覗き込む玲奈のスカートの中へと
「……白い! 白い、モビルスーツ!? ガンダム!」
「こら、駄目だぞ? そうやってスカートの中なんか見るより、早くお立ちなさいな」
普段から黙っていれば大人びた印象もあって、
それでびっくりしていると、玲奈はじとりと半目でいづるを
間違いない、本物の阿室玲奈が目の前に立っていた。
「阿室さんっ! なんで僕んちに……え、あれ?」
「あら、約束したじゃない。一緒にガンプラ作りましょう、って。連休も終わりだし、翔子さんに昨夜メールしたんだけど……」
「ええーっ! ちょ、ちょっと待っててください!」
「翔子さん、いづる君にも伝えてくれると言ってたわ」
慌てていづるが周囲を見渡すと、翔子は呑気に庭で洗濯物を干していた。
サッシを開いていづるは身を乗り出し、思わず発する声を大きくしてしまう。
「翔子、お前さ! なんか、阿室さんが遊びに来てるって!」
「あ、もう着いたんだぁ。じゃ、お茶の準備するねぇ……あ! エヘヘ、いづちゃんに言うの忘れてたあ。メンゴメンゴ~」
「お前なあ……早く言えよ、そういうことは」
「アムロセンパイガアソビニクルヨー!!」
「早口言葉で言えってんじゃなくてさ!」
呆れるいづるから目を逸らす翔子、十年以上も続いてきた二人の日常の風景だ。だが、そんなやりとりが面白いのか、後ろで玲奈はクスクスと笑っていた。
そして、玄関でインターホンの電子音が響く。
「あっ、
「こら、待て翔子! 富尾先輩も呼んでたのか。全員集合じゃないか、まったく」
洗濯物を干し終えた翔子は、庭から外を経由して玄関の方へと駆けていった。その背中を見送り、いづるは頭をかきながら振り返る。
「なんか、バタバタしちゃってすみません、阿室さん。で、でも……嬉しい、です」
「友達ですもの、遊びに来たり行ったりするものだわ。そうじゃなくて?」
「え、ええ……じゃあ、今日は色々とガンプラのこと、僕に……ん、ふ、ふぁーっ、はぁ」
「あら、あくび? 眠いのかしら」
じっと玲奈は顔を寄せてきて、真っ直ぐ真正面でいづるを見詰めてくる。
互いの呼吸が相手の皮膚を
「その、夜は遅くまでガンダムを……昨晩もキリがいいとこまで見ようと思ってたら、真夜中になっちゃって」
「あら、いづる君はなにをみてるのかしら?」
「えと、
「いいわね、テレビ版。衝撃の最終回に、キミは
そう言ってニッコリと表情を崩す玲奈。ここ最近、いづるや親しい者たちにだけ見せる
そこには、本当にただガンダムが好きなだけの、いづるの好きな玲奈がいてくれた。
彼女は小さなかわいいナップサックを下ろすと、中からガンプラの箱と工具を数点取り出す。いづると秋葉原で買った、お
それを居間の広いテーブルに玲奈が広げるので、いづるは慌てて
玲奈はピンと背筋を伸ばして座布団の上に膝を折った。
惚れ惚れする程に見心地の良い、すらりとしたスタイルの良さが際立つ。
「あれ、阿室さん……このペン、なんです? ニッパーとかはわかるんですけど」
「ああ、これ。これはコピックのスミ入れ用のペンよ。0.8mmという脅威の細さなの……どんなモールドも、
「なるほど……その、スミ入れってのは」
「ほら、ガンダムって細かい部品のミゾとか
「ふむふむ。でも阿室さん、今日のそのガンプラ、真っ黒ですけど」
箱のイラストには、金のたてがみを
「……いづる君のは白いんだから、スミ入れのしがいがあるわよ。貸してあげるわ!」
「あ、ありがとうございます」
グイと玲奈が突き出してくるので、スミ入れとやらをするための細いペンを手に取る。その時、自然と肌がふれあい、手に手が重なった。
玲奈の手はすべやかで柔らかく、そして温かかった。
思わずいづるも玲奈も、互いに一本のペンを握って硬直する。
自然と目と目が合えば、大きな玲奈の
ずっとこのまま、こうしていたい……そう願ういづるの中の永遠は、幼馴染の声で終わった。
「いづちゃーん! 富尾先輩も来たよ……
「邪魔するぞ、いづる少年! 茶菓子など買ってきた、昼はピザを取るのはどうだろう……なに、休日とは常に二手三手先を読んで遊ぶものだ。ン、お前ら……?」
慌てていづるは玲奈から離れた。
玲奈もペンをいづるに押し付け、パッと手を離す。
だが、真也と翔子はニヤニヤと互いを横目に見て笑った。
「富尾先輩、見ましたぁ? もお、いづちゃんてば
「こ、これは違うわ、違うのよ翔子さん。隅に置けないというか、スミ入れ用というか……もぉ、本当に違うの。……死ぬほど、恥ずかしいぞ?」
「ハッハッハ、阿室っ! いい女になるのだな」
「ちちち、違うんですよ、富尾先輩っ!」
こうして、奇妙な雰囲気の中でゴールデンウィーク最後の休日が幕を開けた。
玲奈は耳まで真っ赤になっていたが、不思議と嫌悪や迷惑を感じさせる表情ではない。それどころか、参ったわねと照れ笑いにいづるを振り返る。
いづるもうつむき加減に頷いたが、自分でも
「さ、それじゃあみんなでガンプラ、作りましょう? いづる君、ガンプラしながら一緒にガンダムを……Zガンダムの続き、最後までみましょ。ガンダムをみるチャンスは最大限に生かす、それが私の主義ですもの」
玲奈の言葉に誰もが頷き、この間買ったガンプラがテーブルの上に並んだ。
いづるも部屋から先日の買い物を取ってくると、紙袋の中から玲奈とお揃いのユニコーンガンダムを取り出す。白いプラスチックに真っ赤なクリアパーツが、自然とおめでたい色合いでいづるを祝福しているかのようだった。
いづるからDVDを受け取った玲奈は早速居間のテレビをいじりだし、翔子が助け舟を出して再生機へとセットする。最近いづるが聴き慣れてきた、
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