第7話「穂高&如月怜唯」

 霊京・五番街。羅刹たちが通う『聖羅学院せいらがくいん』。

 放課後、高等部の教室にて。

穂高「ねーねー、レイちゃん。これどこが間違ってるのー?」

 他の生徒が帰ったあと、小テストの復習をすることになった穂高。

 ほんわかした雰囲気で、頭の切れるタイプとは言いがたいが、『復習するように』と言い付けられれば、ちゃんとやってみようとするいい子である。

怜唯「あ、間違われるかたの多い問題ですね」

 相談相手は、学年二位の成績を誇る同級生・如月怜唯。

 清楚で可憐――この形容に最も相応しい気品を備えた女性だ。

 身分も学力も大きく違っている二人だが、おっとりとした性分は共通している。

 穂高が指差している問題の内容は――。

『次の選択肢のうち、攻撃系の能力と相性が良いとされる属性はどれか。最も適当なものを選び記号で答えなさい』

 そして、その選択肢。

『一、流水属性 二、活水かっすい属性 三、海水属性 四、死水しすい属性』

 穂高は四番と解答していた。

 さすがに、『適当』の意味を取り違えていい加減に答えたなどということはない。

穂高「攻撃したら死んじゃうよね? 死水属性じゃないの?」

 不思議そうに首をかしげる。

怜唯「死水というのは死に至らしめる水ではなくて、止まっている水。つまり静けさをイメージして名付けられた属性なんです」

穂高「ん~~。あっ!」

 しばらく考え込んで、何か思い出した様子。

穂高「レイちゃんの『しすいかいせー』も?」

怜唯「はい。その死水です。――死水属性と相性がいいのは回復や防御といった能力とされていますね」

 怜唯の能力――『死水回生しすいかいせい』。聖なる泉で傷ついた者を癒すじゅつだ。

穂高「そっかー。レイちゃん優しいもんね~。じゃあ、一番か二番かなぁ~」

 止まった水が回復に適した属性を指しているなら、攻撃は動いている水というぐらいの予想はできた。

穂高「活水はどんなの?」

怜唯「流れ動いている水ですから、流水とあまり変わりませんね……」

 単語の意味自体はほとんど同じなので、知識があるかどうかの問題でしかない。

穂高「う~ん。流水はときどき聞くけど、死水と活水はあんまり聞かないから――。二番?」

怜唯「あ、良かった。正解してくれましたね。基本的に属性名は覚えるしかありませんので、どなたかその属性をお持ちのかたを思い出していただくのがいいかもしれません」

 怜唯はそんな調子で穂高の勉強に付き合った。


 学院からの帰り道。

 家の規模こそ違うが、穂高と怜唯は二人共も五番街に住んでいる為、途中までは一緒だ。

 穂高は歩く姿もほわほわしていて、転ばないかとよく心配されている。

 対して怜唯のほうはというと、背筋がすらりと伸びていて、その所作しょさには一糸いっしの乱れもない。

穂高「レイちゃん、今日はありがと~」

怜唯「いえ、お力になれたなら何よりです」

 終始ニコニコしていた穂高だが、ふと物憂ものうげにも見える目で怜唯を見つめた。

穂高「……レイちゃん」

怜唯「どうかされましたか?」

 普段ならば、憂いをたたえるのは怜唯の専売特許。

 穂高が同じことをすれば、それは普段と違う表情ということだ。

穂高「最近、惟月さまの様子、いつもと違わない……?」

怜唯「……! 確かに……そうかもしれません……」

穂高「悲しいのかな……? 嬉しいのかな……? 何か気になってるのかな……?」

 喜怒哀楽、いずれの感情かも判別しづらい複雑な雰囲気にも関わらず、それをなんとなく感じ取っている。

 穂高の感性は決してにぶいものではない。

穂高「嬉しいことがあるんだったらいいな……」

 怜唯はそっと目を伏せて答える。

怜唯「……きっと嬉しいことはあると思います。それに、もし悲しいことがあるとしても、惟月様なら乗り越えて――、いえ、受け入れることができるのではないかと……」

 断言できることは何もなかったが、穂高は納得したようだ。

穂高「そうだよね。うん。ありがとー、レイちゃん!」

 穂高に朗らかな笑顔が戻り、怜唯は胸を撫で下ろす。

 確かなことが分からない以上、未来に希望を持った上で、万が一、失われたとしても取り戻そうと考えておくしかなかった。




 羅刹伝 雪華0-人物紹介編- 完


 続 羅刹伝 雪華Ⅰ-人羅戦争編-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羅刹伝 雪華 体験版 平井昂太 @hirai57

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ