第6話「八条英利&八条瑠璃」

 霊京・五番街、八条家にて。

英利「あら、珍しく帰ってたのね。瑠璃るり

 英利が帰宅すると、リビングで紅茶をすすりながら霊子端末の画面を凝視する妹の姿が。

瑠璃「帰ってちゃ悪い? どこにいようと私の勝手でしょ」

英利「なんでそう、ぶっきらぼうな言い方しかできないのよ」

 瑠璃は、画面から目も離さず冷たい返事しかしない。

 顔立ちや体型はよく似ているものの、性格は対照的な姉妹である。

英利「――何見てるの?」

 のぞき込もうとすると、端末ごと顔をらされた。

瑠璃「如月沙菜を監視してるのよ。あの女、そのうち何かやらかすわよ」

 『あなたも大概じゃない』という言葉は飲み込む英利。

英利「監視自体どうかと思うけど、いつもは研究室で堂々とやってるらしいじゃない。なんで家に帰ってまで――」

瑠璃「今いいとこだから邪魔しないで」

英利「……? いいとこ?」

 質問を途中でさえぎられたのだが、そもそも怪しい者を見張っていて『いい場面』が出てくるだろうか。

 しばらく食い入るように画面を見つめたのち、瑠璃は端末をしまって椅子から立ち上がった。

 そしてカップは置いたまま玄関に向かう。――姉に片付けさせるつもりらしい。

英利「反抗期って十年も続くものだったかしら……」

 残されたカップを見て、ふと思い出す。

英利「あの子、前はコーヒーばっかり飲んでたのに……、最近は紅茶?」

 それこそ『何を飲もうが私の勝手でしょ』と返されるのが分かり切っている為、本人にはかない。

 どうでもいい疑問をいだいていたところ、玄関先から話し声が聞こえてきた。

瑞穂「あ、瑠璃さん」

瑠璃「馴れ馴れしく名前を呼ばないでくれる? 副隊長だかなんだか知らないけど、所詮しょせんは大した学もない、直接戦闘の担当でしょ」

 妹の暴言に、英利は慌てて飛び出していく。

英利「瑠璃! あなたね――‼」

 姉の声にも聞く耳を持たず、そのまま立ち去ってしまう瑠璃。

瑠璃「せいぜい、馬鹿同士仲良くやってなさい」

 血を分けた妹の傲慢ごうまんな態度にため息が出た。

瑞穂「……相変わらずですね。あの人は……」

英利「ごめんなさいね。昔――相当昔のことだけど、小さい頃は真面目でいい子だったのよ……。あれでも」

 英利は第五霊隊隊長で、瑞穂は同隊副隊長だ。妹より副官の方が余程親しく感じられる。

英利「そういえば、何かあったの?」

瑞穂「ああ、そうでした。藤森副隊長が食事会を開いてくれるそうなんで隊長もどうかと」

英利「あら、いいわね。色々愚痴ぐちるかもだけど」

瑞穂「あはは、みんなそのために参加しますから大丈夫です。十勝とかちさんは好きな人が振り向いてくれないとか、相模さがみ副隊長のとこは男性隊員の待遇が悪いだとか、……うちは借金の返済が終わらないだとか……。それはもう色々と……」

英利「みんな大変なのは一緒ね。特に瑞穂のところは……」

瑞穂「はい……。なので、ちょっとでも食費を浮かせるためにも参加しない訳にいかないんです」

 藤森明日菜は旧家きゅうかの令嬢。

 お金はあるということで、費用は全額負担してもらえるのだ。

英利「いっそ明日菜ちゃんが借金も返してくれたらいいのにねー。副隊長のよしみで」

瑞穂「駄目元で言ってみたら、『公私混同はしませんわ』って断られました」

英利「あ、ほんとに言ったんだ。――あとは誰か来る?」

瑞穂「東雲しののめさんとおおとりくんが来るんで、二人には聞き役をやってもらいます」

英利「あの子たちの恋は順風満帆じゅんぷうまんぱんだものね」

 そんな会話を交わしながら歩き出す。

瑞穂「あ、穂高も連れてっていいですか? あたしより食べるんで、なおさら食費が……」

 穂高は瑞穂の妹でまだ学生。食費と学費がかかる一方、収入はない。

英利「もちろんよ。穂高ちゃんは可愛いし素直で――、正直うらやましいわ。瑠璃と交換してくれない……?」

瑞穂「……後ろ向きに検討しておきます」

英利「せめて前向きにして……」

 妹はどこまでも尊大なのに対し、英利は副隊長やその他の隊員からも親しまれる隊長だった。

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