第4話「如月沙菜&如月白夜」

 羅仙界の首都・霊京から東方に離れた地域に広がる黒狼こくろう森林しんりんにて。

戦士「見つけたぞ、如月きさらぎ白夜びゃくや! てめえの首を取ってオレこそが最強だって証明してやる!」

白夜「それは構わぬが……、策はあるのか?」

戦士「余裕のつもりかよ。後悔するぜ!」

 深く暗い森の中で向かい合う羅刹。

 一方は、辺境の村で生まれ育ち剣の腕を磨いてきた猛々しい雰囲気の青年。

 他方は、霊京の出身だが武の極致を追求する為、戦いを求め放浪の旅を続ける青年――名を如月白夜。高い位置で括られた銀髪は鮮やかに揺れ、武人とは思えないほど優美な風貌だった。

戦士「はッ!」

 辺境の戦士が先制して斬りかかった。

 白夜は腰の刀を抜き放ち、それを受け止める。

 刀剣同士が放つ霊気のせめぎ合い。

白夜「私のことを知っているようだが、能力についてはどうか?」

戦士「羅仙界最強の力だってんだろ。それがどうした、こっちはそんなもん分かった上で戦ってんだ」

 白夜の刀が戦士を剣ごと弾き飛ばす。

白夜「察しの通り。我が能力は『力そのものを司る』。それは攻撃能力、防御能力を限界まで上昇させるものだ。ただし――速力は含まれていない」

戦士「わざわざ弱点を教えるのか? ナメやがって。それとも防御が堅いからどんなに速くても斬れないってか?」

白夜「そなたを侮るつもりはない。そなたが私の弱点を突く時、私もまた自らの弱さに気付くということだ」

 戦域のすぐ近く、木の上に立って二人の戦いぶりを眺める少女が一人。

沙菜「白夜びゃくやにいは相変わらずか。しかしまあ、最強の称号ってのは箔を付けたい連中を釣るには格好の餌かねえ」

 如月沙菜、白夜の異父妹だ。

 ポニーテールの黒髪は長さこそ短いが、白夜の髪型とシルエットが被っているようにも見える。

戦士「どうせ勝つに決まってるってことだろ。それがナメてるってんだ」

 戦士の振るう剣を流れるような動きでかわす白夜。

白夜「私が教えられるのは、自ら把握している能力の穴のみ。そなたの目をって真の弱点を看破するがいい」

戦士「弱点なんざ知ったこったねえ! 要はオレがてめえより強くなりゃいいだけの話だ!」

 森の中を見下ろす沙菜は戦士の言葉を聞いて、滑稽とばかりに笑いをこぼす。

沙菜「ああ、やっぱりはき違えてるなぁ。どいつもこいつも。白夜兄の能力――『絶対強度』は最強の力じゃなくて力だっての」

 そして、聞こえていないのは承知の上で戦士に忠告する。

沙菜「白夜兄が最強だと確定している以上――あなたが白夜を超えた時、白夜の力も同等まで引き上がるんですよ? といっても、攻撃と防御に関しては白夜の力が羅刹にとっての限界値。むしろ、白夜が強くなって羅刹が持てる力の上限が引き上がることの方が多い訳ですが――」

 戦士は力任せに白夜の身体へと刃を振り下ろした。

 その刃は白夜の肉体どころか装束の表面すら裂くことができない。

白夜「残念だ……」

 失望した様子の白夜は、片手で持った刀を軽く一振り。

白夜「霊刀れいとう残月ざんげつ

 戦士はその手の剣を両断されると共に、胴体も袈裟斬りにされ地に伏した。

沙菜「本気でこんな雑魚に期待してたんですか?」

 沙菜が白夜の前に飛び降りてくる。

白夜「沙菜か――。誰がどれほどの力を有しているかなど分からぬものだ。彼が死に瀕して生き残るに足るだけの力を発揮するやもしれぬ」

沙菜「可能性は無限大ってことですか。ま、道理っちゃ道理ですけど」

白夜「して、何用か?」

沙菜「耳寄りな情報がありまして」

白夜「そちらの要求はなんだ?」

沙菜「――情報を聞くことです」

白夜「ふっ、相変わらず食えないな、そなたも」

 暗き森の静寂に包まれ、異父兄妹は互いに不敵な笑みを浮かべた。

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