第2話「天堂優月&日向龍次」

 高校の授業中、睡魔に襲われ完全に眠ってしまっていた優月。

 誰かに肩を揺さぶられている気がする。

優月(ん……? なんだろう……?)

龍次「優月さん、次体育だよ」

優月「あっ……」

 次の授業は男女合同の体育で、着替えてグラウンドへ向かわなければならない為、龍次が起こしてくれたらしい。

優月「す、すみません。昨日あまり寝てなくて……」

龍次「それはいいんだけど、その……早く更衣室行ったほうがいいんじゃないかな?」

優月「……はっ……!」

 基本的に男子が教室、女子は更衣室で着替えるようになっているのだが、周囲の状況を見て思わず息をんだ。

龍次「もうみんな着替え始めてるし」

 大抵の者は優月が残っていることなど気にも留めず服を脱ぎ出している。

優月「し、失礼しました……!」

 大慌てで教室から飛び出す。

優月(び、びっくりした……。わざとじゃないとはいえ、男子が着替えてるところに居座ってたなんて……)

 それも好きな人の見ている前でだ。

 色々な意味で罪悪感を覚える。

龍次「あ、優月さん。何も持たずに出てきたでしょ。ほら、鞄」

 自分の着替えも済ませないまま渡しにきてくれた。

龍次「さすがに中は見てないからこれで合ってるか分からないけど」

優月「き、気を遣わせてしまって……すみません……」

 龍次の態度は優しいままだが、相当イメージダウンしたのではないか。

 ただでさえ地味だというのに、悪い印象だけ強めていたのではどうしようもない。


優月「はぁっ……、はぁ……」

 優月の体力だとグラウンド四周はなかなか厳しく、一周した時点で息が上がっている。

 脚に霊力を集中させれば少しの間だけ速く走れるのだが、そんなことをしては身体が持たない。

 代わりに呼吸の補助に使っているとはいえ、そもそも運動自体が苦手なのだ。

 優月が走り終える頃には、みな他の運動に移っていて、そこに加わるタイミングを探すことに。

優月(あぁ……。やっぱりかっこいいなぁ……。龍次さん)

 身体を動かす姿に思わず見惚みとれてしまう。

 元より体育の授業にちゃんと参加することは諦めているので、想い人の一挙一動を目に焼き付けることが優先だ。

 女子だけの時などは気が重いばかりで休みたい衝動にも駆られるが、毎回だと教師に目を付けられそうなのである程度自重している。

 ただし水泳の授業は小学校の高学年以降一切出ていない。

優月(龍次さんはわたしなんかにも親切にしてくれるけど……、好きになってもらうのは無理だよね……)

 優しく声をかけられると勘違いを起こしそうになるが、一方的に良くしてもらっておきながら下心を見せれば幻滅されるだけだろう。

 もっとも、幻滅という表現が適切なほど好印象とは思えないが。

 いずれにせよ龍次と恋人になれる恵まれた人物は一人。他の者は自分より断然マシだったところで思いを遂げるには至らない。

優月(龍次さんは……、どんな人が好きなのかな……?)

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