第5話

 学生時代、大樹には仲の良い友達が一人いたらしい。過去形なのは、現在はその所在はわからないからだ。彼曰く、行方不明らしい。

 その彼には彼女がいた。こちらは確かに存在している。そう、散々大樹を振り回す、あの女だ。


 大樹は友人を交えて会ううちに、彼女と気心知れる関係になったらしい。あくまでも、トモダチノカノジョ、として。

 彼女は彼氏と揉める度に大樹に泣きつき、彼もその相談に親身になってきたようだ。そうするうちに、彼氏を差し置いても会えるような関係を築いた。それがスタートに違いない。


 これは萌の持論だが、彼氏との喧嘩を異性の友人に相談する女はろくなやつじゃない。涙を使って同情を誘うような女は、本気で悩んでなんかいない。ただ、悲劇のヒロインになって、慰められたいだけなのだ。もしくは次のターゲットとして狙っている場合がほとんどである。

 だから彼女との関係について、最初に話を聞いたときから、嫌な感じはしていた。多分、身近にいたら敬遠する存在だろう。そしてそれを見抜けないバカな男も心底軽蔑する対象だった。


 それがどうだ。そんなバカとどうしてか恋人となり、何度揉めてもずるずると続いてきてしまっている。


 萌自身、恋愛経験は多い方じゃない。人並みに付き合った経験はある。けれど、いつも受け身だった。

 相手から告白されて付き合ってみるものの、途中で冷めてしまうのだ。理由はわかっている。思春期の片思いからまだ立ち直っていないからだ。

 中学、高校と、ずっとずっと好きだった相手。実際、仲が良かったし、周囲からも付き合っていると思われていた。それなのに何度告白しても、答えはNO。しかもいつもはぐらかされる形で、はっきりした理由を教えてもらったことはなかった。

 大学進学というイベントで物理的な距離ができたことで、ようやく諦めるという選択肢を選んだけれど、それでも好きなものは好きだった。前を向こうと新しい出会いに期待したものの、気持ちが吹っ切れていないままだったから、当然恋人達とは上手くいかない。互いにぎこちなくなって終わるといったことを何度か繰り返していた時に、大樹に出会った。

 年も年だし、相手はそこそこ良いところの会社員。

 何事もなく順調に事が運んでいたならば、今頃はどうなっていたのだろう。もしかしたら例に洩れず、ダメになったのかもしれない。もしかしたら、トントン拍子に結婚にこぎつけていたかもしれない。

 現実はそのどちらでもなかった。

 萌は執着心という欲にとりつかれたせいで、結果、宙ぶらりんな状況に陥ってしまっているのである。

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