第3話

 結局、昨日はあのまま床で寝てしまった。床には飲んだ覚えもない空の缶が数本転がっている。酔った勢いでのヤケ酒。またやってしまった。

「腰、痛い」

 カーペットを敷いただけの床にタオルケットを握りしめたまま寝ていたのだ。体中が痛むのも当然だろう。幸いにしてコンタクトだけは外していたようで、目が開かないという事態は避けられた。


「うわ。ひどい顔」

 シャワーを浴びる前に鏡を覗き込むと、荒れに荒れた顔が写っていた。ファンデはすっかり剥げて、目の周りにはマスカラとアイラインが張り付いている。挙げ句、髪はぼっさぼさで、一見すると化け物のような見た目だ。


 わりかし、しっかりしていた萌がこんな風になったのは、大樹と付き合ってからである。それまでは飲んで帰って来ても、きちんとシャワーを浴びて、清潔にしてからベッドに入らないと気分が悪かったものだ。もちろん酔い潰れるなんてこともなかった。

 彼とのことがあってから、ストレス発散とばかりに量が増えたのは事実だ。もっとも年を取って酒に弱くなったからかもしれないけれど。


 時計を見ると、九時ジャストだった。カーテンを開けると、すでに朝日とは言えない日差しがさんさんと降り注いできて、その眩しさに目を細めた。

 今日は特に予定はない。しいて言えば、明日のデートの店を探すくらいだ。それもネットでちゃちゃっと調べればいいだけだから、このだらしないスウェット姿でも誰にも文句は言われまい。


 萌は冷蔵庫から出してきたミネラルウオーターを、テーブルにあったコップに注いだ。カラカラの喉を冷たい水が一気に通り抜けていき、気持ち悪さが少しばかり良くなった。

 パソコンを立ち上げようとテーブルに向かうと、その横で緑色のランプが点滅していた。何気なしに携帯を開くと、またメールが来ている。大樹だ。

「そっか。昨日無視してたっけ」

 何気なく操作したものの、中身を見る時は段階になって、やっぱりためらった。


 嫌な予感がする。そしてこの勘は大抵当たる。

 萌はゆっくり深呼吸すると、慎重にボタンを押した。


『おつかれさま』おなじみの挨拶。その下はどうだろう?

『昨日は寝ちゃったのかな?体調は大丈夫?あのさ、本当に申し訳ないんだけど…明後日のこと、変更できないかな?時間だけでいいんだ。昼間に少し予定が入ってしまって…夕方からなら平気だから、ごはんでもどうかな?』


 気付いたら、携帯はベッドの上に投げ付けられていた。かなり強い力でそうされたようで、布団が一か所だけ深く沈んでいる。

「うそつき」

 萌は埋もれた機械に向かって、大声でそう怒鳴りつけた。

 やっぱり、大樹は何も変わっていない。少しでも信じようとした自分がバカだった。夢を、見ようとした自分の甘さに腹が立って仕方ない。

 萌は怒りのまま、携帯を手にして、履歴の最後にあった相手に電話をかけた。

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