死角 中編

 彼がそういった考えに至ったのは小学2年生の頃だった。


 その頃から誰にも見られない場所を欲していた彼は、ある日、かくれんぼをすることになった。別にやりたくはなかったが、参加しないとイジメられるから仕方なくやった。これまで大木は誰にも見つからない場所を真剣に考え、探し、ここだと思う場所に隠れたが、すぐに見つかってしまっていた。


 大木は面倒くさくなり、その日、彼は、鬼役の子が校門前で数を数えている間にすぐ側の茂みに隠れた。見れば、すぐに誰かが隠れていることがわかるような場所だった。さっさと見つかってしまえば、その後は構われずに済む。なら、こっちの方がお得だ、と、考えたのだ。


 カウントが終わる。同時に鬼役の子が動く。彼は真っ先に大木のところに向かってきた。

 当然だ。こんなの隠れているとは言わない。これでいい。これで後は構われずに済む。

 しかし、鬼役の子は、大木が隠れる茂みをスルーして他へと行ってしまった


「あれ?」


 当然、大木は不思議に思った。何故、スルーしたのだろう? 

 

 気が付かなかった? いや、そんな訳はない。こんなにもわかりやすい場所が気付かないはずがない。

 わざと気付いていないフリをしているのか? いつでも捕まえられるから後回しにしよう、という考えなのだろうか。

 それはあり得る話だ。しまったな。こんなことなら普通に隠れておけばよかった。

 

 しかし、大木の予想とは違い、いつまでたっても彼は見つからなかった。大木以外の全員が捕まっても、彼は見つかることはなかった。他の参加者全員が探しているが、誰も大木の隠れる茂みの方には気付かないようだった。

 

 大木はだんだんと怖くなっていった。

 何故、誰も見つけられないのか。自分はこんなにもわかりやすい場所にいるのに。 

 もしかしたら、自分は死んでしまっているのではないか。だから、誰にも気付かれないのか。そんなことまで考えた。


 キンコーンカンコーン。


 休み時間終了のチャイムが鳴る。他の生徒たちはその音を聞いて、そのまま教室に帰ろうとする。大木は思わず、茂みから出た。

 すると、


「おっ。大木! そこにいたのか? 全然気づかなかったぜ!?」


 大木はようやく見つかった。大木は日常に戻ることができた。

 それからまた何度かその茂みに入ったが、その時のように誰にも見つからないという現象は再現されなかった。


 大木はあの時のことを、こう考えている。

 あれは死角だったのではないか。

 あの時だけしか発現しなかったが、あの場所はまさに死角だった。あの場所は条件付きの死角だったのだ

 大木は考えた。

 

 そんな場所があるなら、絶対に誰にも見つからない、どんな状況でも見つからない、そんな本当の意味での死角があるのではないだろうか。

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