ホラー短編小説② 死角
@tyama
死角 前篇
大木武史は誰にも見られない場所を探していた。誰も訪れることのない、絶対的な安息地。それを探していた。
彼は異常なほどに人を怖がっていた。他人が怖かった。他人とは敵であり、相容れないものだった。いつもいつも、自分のことを悪く言う。自分のことを疎ましく思っている。そうに違いない。他人が自分のことを見ている状況で、心が落ち着くはずがない。
だから、大木は誰にも見られない場所を探していた。
そこでなら自分は心を落ち着かせることが出来る。
そこでなら息を存分に吸うことが出来る。
だが、誰にも見られない場所なんてものは、なかなか見つからなかった。
あまり人が訪れない場所ならあった。街はずれの空き家付近だとか、使われなくなったトンネルだとか。大木は田舎住まいだったので、人気のない場所は沢山あった。
しかし、そういった場所も何時間かすれば、誰かはやってきてしまう。大木は何回も家出をしてそれらのところに逃げ込んだことがあったが、一日も持たずに警察やら学校の先生やらが見つけだし、そこから引きずりだされてしまった。
大木のいう誰にも見られない場所というのは、どれだけ周りの人間が自分を探しても見つからない、そういった場所のことを言っていた。
それはある程度、近所でなければならなかった。きっと日本のどこかには本当に誰も寄り付かない場所もあるだろう。だが、その場所が自宅から遠く離れた場所では意味がなかった。大木は別に死んでしまいたいというわけではなかった。生きるには、嫌でも他人と一緒にいなくてはいけないことは理解していた。
ただ、毎日の内数分でもいいから誰にも見られない場所にいたい、大木の願いはそれだけだった。
そう、数分でいい。それで、どうにか毎日を生きられる。
だが、その場所はそこから自分が出ない限りは、絶対に誰にも見つからない場所でなければならない。数分間、たまたま誰にも見られなかったのでは意味がなかった。
たとえば、そこで死んでしまったとして、その場合は永遠に誰も彼を発見できないような、そんな場所でなければならなかった。
もし、誰も来ないと信じて、しかし、そこに誰かが来てしまったら、きっと心が壊れてしまうだろう。だから、絶対に誰にも見つからない場所ではなくてはならない。彼はずっとそんな場所を探していた。
普通に考えれば、そんな場所など近くにあるわけがなかった。しかし、彼はあると信じて疑わなかった。
彼は信じていた。この世の中には死角というものがあることを。
死角。
様々な意味があるが、この場合は身近にありながら気が付かない事柄という意味での死角だ。
人は色々な場所をくまなく見ているようで、実は同じようなところを見ているものなのだ。人は千差万別ではあるが、共通項は必ず存在する。視点も同じで、沢山の人間がいながら気付かないということはよくあることだ
それを利用している人たちがいる。手品師だ。彼らは大勢の視線の中でたくみに視点を操り、誰も見ていないところで種を仕込む。人間なんて違っているようで、似たようなものなのだ。すぐ側にありながら、まったく見ない部分が必ず存在する。その場所こそ、自分が求める場所だ
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