約束

「ねね、これってさ誰かの日記かな?」

 そう言いながら乙木は『司書日記』と書かれた本を持ってきた。

 人の日記を見るのは少し気が引けるけども、もしかしたらこの家のこととかが書かれているかも知れない。それに乙木のことも。


 ペラペラとページをめくっていくが特に目立った情報はない。

 愚痴だったり、ちょっとしたポエムだったり、単純に日記だったり。

 と日記を読んでいると…

「コツン…コツン…」

「誰か来る…!?」


 何者かの足音はだんだんとこちらの部屋へと近づいてくる。

 この館の中央階段から見て右側にはこの書斎しかない!


「乙木、鍵を閉めて!」

 乙木は急いで鍵を閉めようとするが内側からも鍵で閉める仕組みのようだ。

 隠れようか…いや、この狭い部屋ではふたり分も隠れる場所はどこにもない。

 その時ふと本棚の下にある木の板に気づく。


「乙木これ!」

 僕はその木の板を床を滑らすように乙木にパスする。

 幸い毛の短い絨毯だったためにスムーズに木の板は滑っていく。

 それを乙木は素早くカンヌキのようにドアの取っ手に引っ掛ける。

 そしてそれとほぼ同時に…

「ガチャ…ガチャガチャガチャガチャ――」

「…!?」

 ドアがガチャガチャと何度も揺らされる事に僕の心臓もドクドクと必死に鼓動している。

 乙木は震えていた。

 頭を抱えてしゃがみこんで。

「怖い…怖いよ…」


「大丈夫…大丈夫だからね」

 小池のほとりで彼女がしてくれたように僕は頭を撫でながら声をかける。自分のことでいっぱいなのになぜか無意識にそうしていた。


「僕が絶対守ってあげるから、ずっと守る…だから大丈夫」

 そう口をついて出たのは潜在的意識からかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇

 その書斎は今は閉め切られているようだ。

 乙木の日記によると1年前に司書の男がやめてからは誰も手入れをしなくなり、そのままにされているようだ。

 

 入れないのはわかっているがなんとなく部屋の前までやってきた。

 ここで約束したんだよな。


 それは一つ目の約束。

 乙木との約束。


「僕が絶対に守る…か。我ながらイケメンだなおい」

「なお顔は…」

 よけいなお世話だっつーの!


「あのときはブルブルブルブル震えてたくせに」

「それはあれよ…あなたが頼り無さ過ぎるからよ」

 まあ実際あの時は俺もビビってしまって立っているのがやっとなくらいだったからな。

 扉に触れてみるとドアノブすらもほこりが付いている。

 

「そろそろ行こうか…」

「うん」


 僕らは書斎の部屋の前を後にする。

 そして反対側に見える部屋へと向かう。

『主人の部屋』と呼ばれる部屋へ…。

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