来訪
「なんでこんな時間に外に出てたの?」
「ん~覚えてない、起きたらぎゃーぎゃー泣いてる子供がいたから」
お前こそ子供だろっとイラっときたけれどグッと我慢する。
「ここが家だよ、たぶん」
「たぶんって…」
「だって名前とここまでの道以外はなにも覚えてないの」
そこは大きな洋館だった。
扉はどうやら裏口のようで正面玄関は反対側にあるようだ。
正面玄関から入ると親にばれて叱られるから裏口から入るのだろうと思い、特に疑問には思わなかった。
「たぶんこれ…」
乙木はポケットの中から小さなカギを取り出してカギ穴に差し込む。
鍵はガチャっと音を立てて開き、ノブを引っ張った。
中はキッチンらしき部屋でたくさんの調理用具や野菜や、何の肉かわからないが干し肉のようなものがぶら下げられていた。
中の様子を伺っていると誰かの気配がした。
「また新しいやつの首を切ったってさ、あの『首切りコック長』」
「いつ私たちもあぁなるかわからないね…」
背筋が凍りつく感覚を覚えた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ほんとあの地図でよくここまで帰ってこれたな」
僕たちはあの裏口までやってきていた。
今思うと、もしかしたら二人とも森の中で一生帰れなかったかもしれないと思いゾッとする。
道中はほとんど話すことはなかった。
もしかしたら乙木もすこしビビっているのかもしれない。
「今日は裏口から入る必要なんてないのになんで玄関口は嫌なの?正面から入るのは怖いから?」
「それもあるけどなんとなく、あの日を辿っていきたいんだよ。もしかしたら思い出すこともあるかもしれないだろ?」
そんなこと奇跡でも起こらない限りありえないことはわかっている…
「乙木、後悔はしてないんだな?今ならまだ引き返せ――」
「今更それはないから、そのためにずっとずっと私は待っていたんだから」
そうだよな、僕だってこの数年間ほんとに約束を果たすべきか考えてきた。
何度考えたって答えは一つしか出すことができなかった。
僕は絶対にここから乙木を連れ出しみせる。
さあ行こうか、「幽月邸」の中へ。
そして会いに行くんだ、あのヒトのところへ。
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