出会

 「あの日もそうだったんだよ、君が祠の後ろでもたれ掛かっているのを見つけたんだ」

 「あらそうだったのかしら?ぜーんぜん覚えてないわよ」

 

 そういうことにしておけばいいのさ。


 「それから記憶のほうはどうなったのさ」


 「相変わらず一日しか持たないらしいわ…でも最近、文字は覚えることができるようになったの」


 「前も言葉は最低限覚えていたから記憶以前の問題なのかもしれないね」


 「でも、文字も覚えられるようになったから日記を書いているの。だから思い出すことはできなくても思い返すことはできるのよ?」


 彼女は少しだけ自慢げに胸を張ってアピールしてくる。

 はいはい、わかってますって。


「よしよし、えらいですね~うんうん」


「もう、こどもじゃないっつーの!」

 まんざらでもないようだ。


◇◇◇◇◇◇◇


 僕は道に迷ってしまった。

 なんとなく空を見上げながらぶらぶらと歩いていると泉のほとりにたどり着いた。


 そろそろ、引き返そうかと振り向くと森の木々が道を塞いでいた。

 なぜだろう、来た道がどこにも見つからない。


 家の近くにある雑木林ならすぐにどちらから来たかわかるのに。

 この森は僕を帰れないようにしようとしているんだ…


 そう思うと涙が込み上げてきた。


「うええええええええええええええええええええええええええええええんんん」


「よしよし、大丈夫だから泣かないで?」


 温かい手の感覚が頭に触れる。


 何分間が経ったろうか…

 次第に近くに人がいることに対して少しだけ安心感を覚え、涙が止まった。


「君は誰?」


「私は乙木、篠宮乙木。きみは?」


「僕は、ようすけ。みなづきようすけっていうんだ」


「…」

 乙木は無反応でこちらを見つめてくる。


「君はどこから来たの?」


「わかんないけど、たんぶんここ」

 ポケットから乙木はくしゃくしゃの紙を取り出した。

 そして紙を広げ、地図のようなモノを「うち」というところを指さした。


「この地図落書きみたいでぜんぜんわかんないよ?」


「ふん!馬鹿にはわかんないのよ。私自作の天才的な地図だもん。ついて来ればわかるわよ」

 それまで静かだった乙木はよほど地図を馬鹿にされたのが気に障ったのか声を張り上げて否定する。

 


 道に迷っている自分は帰るにも帰れないし、それに一人にされるとまた心細くなってしまうと思い僕はしぶしぶついていくことにした。

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