幽月邸と3つの約束
伏見沙織
プロローグ
あの日の約束は僕は片時も忘れたことはない。
小学生の時に僕は叔父の別荘に遊びに来ていた。
別荘の周りは温泉地というわけでもなく、ただひたすらに森が続いていた。
車でやってくるときずっと窓の外を眺めていたが森が途切れることはなく幼心に「この森は魔女の森でどこまでいっても抜けられないんじゃないか」と少し怖かった覚えがある。
でもなぜかそういう時に限って子供というのは好奇心と自制心との釣り合いが取れなくなってしまうのである。
小学生の僕は寝床につく前に外に出て空気を吸いたくなったのだ。
都会育ちの僕にとってはまったくの暗闇というのは恐怖の対象でありながら、好奇心の対象でもあった。
さすがに両親にばれてはマズイと思った僕は一階の窓からこっそりと家を出た。
ただただどこまでも遠い暗闇の中に入った。
◇◇◇◇◇◇◇
大人になった僕は同じ別荘へとやってきた。
だが、今回は一人だった。
別荘のことを叔父に数年ぶりに聞いたとき、別荘はすでに引き払ったとのことだったのでここまでは車でやってきた。
ただ、ここからは道のない真っ暗な森である。
むしろ今のほうがすこし恐ろしささえも感じるのはなぜだろうか。
約束のせいというのもあるが、「あの人」に会うのは何度だって嫌である。
静寂に包まれたその森を5分ほど入っていくと小さな泉がある。
その畔には何もないように見えるが一つだけ目につくものがある。
小さな祠。
それが僕らの待ち合わせ場所。
「そこにいるんだろ、乙木」
「私の名前知っているのね…ということはあなた、水無月洋介ね」
「よく覚えていたね…」
「それはこの日をずっと待ってたんだから、あの日のように…」
そう、あの日もそうだった。
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