あんたって、もしかしなくてもロリコン?
商業都市を抜けてしばらく歩く。商業都市から学園までの道はコンクリートの道と道の両端には木が植えられており、それが林道をつくっていた。特に長いわけではないため、目の前には立派な西洋風の建物が見えている。連なっている木々はピンク色に染まっており、雪のようにチラチラと道に舞っている。
「桜の木か。そういえばここって人工島なんだろう?」
「そうですよ。海底の奥底に元々は陸地だったと思われる山があったらしく、それを地盤にここに人工島を造ったそうです」
「へえ、日本ってある意味すげーな」
「ものを発明するのは苦手ですが、あるものを発展させる能力は大の得意としている国ですからね。私たちアンドロイドも日本が最初に造ったのですよ」
「それって発明が苦手って言えなくない?」
「いえ、私たちはあくまでロボットからの延長線上の存在なので、私たちは開発されたわけではないのです」
「なるほどな。基礎をつくったのは別の国だが、それを発展させることができるのが日本って国なのか」
「そういうことです」
なかなか筋が通っている。アンドロイドでも自分の意見をいうことができるのか。衛はマナミの話を聞きながら桜が舞う学園までの道を歩いていた。腕は既に解放されており、今は別々のペースで歩いている。しかし、衛の前には必ずと言ってもいい程、マナミが前を歩いている。しかも必ず衛の視界に入るように、決して死界に入らないように。
しばらく歩いていると、大きな正門が見えてきた。こちらもやはり西洋風の立派な門であり、石垣で造られているところを見ると、高級感が漂ってくる。向かって右側の門の柱には、大理石で造られた看板が埋められており、そこには『美浜学園』と大きな字で掘られていた。マナミは歩みを止めて看板の前で立ち止まる。それに釣られるように衛も歩みを止めた。
「さて長くはなりましたが、ここが目的地であり、桐ヶ谷さんが通うこととなる美浜学園ですよ」
「ここがアトランティスにある学園の一つ……か」
比較的最近に造られた学校ではあるが、それに似つかないような風格が漂ってくる感じがした。これが本州にあったとしたならば、果たして入学金だけでいくらお金が飛んでいくことになるのだろうか。改めて無償でこのような学校に通うことが出来ることに感謝しなくてはならないな、と衛は感じた。
「それじゃあ私はここまでです」
「え?学園の中も案内してくれるんじゃ……?」
「それがですね。先方との条件で記述されていなかったんですよね。私としましては非常に残念でなりません」
肩をがっくりと落とし、本当に残念そうな顔をする。しかし、衛としては安心できるような条件だった。もし、このまま彼女に案内されていたら転入早々にロリコンのレッテルが貼られるかもしれないからだ。そんな思いは先ほどの街中だけにしてもらいたい、と衛は思った。
マナミの話に出てきた先方というのは間違いなく入間のことなのだろう。ということは、また別で学園の中を案内してくれる生徒がいるってことなのだろう。同じようにアンドロイドの娘なのだろうか。それともアンドロイドではなく、実際に通っている生徒なのだろうか。もしかすると先生かもしれない。ありとあらゆる考えが衛の中の思考を巡っている。今はマナミのことは全くとして考えていない。
「そうなのか。それは残念だね」
「……ちょっとだけ棒読み気味なのが納得できませんが、言っても仕方のないことですよね。すみません。ちょっとだけ端末を貸してもらっても構いませんか?」
「端末?」
「入学案内書とともに入っていた透明な長方形のものです」
「ああ。あれって端末だったんだ。本州で言うところの携帯って認識でいいのか」
「そうですよ。まさかとは思いますが、それを本州にある家に置いてきたとは言いませんよね?」
「それはないよ。ちょっと待ってくれ」
衛は背負っていたリュックを降ろして中を漁り始める。大きい荷物は手で持っていた大きな鞄に入れており、携帯などといった小さいものはリュックに背負っていた。しばらく漁ると、マナミが説明していたものと同じ透明な長方形のものを取り出し、それをマナミへ渡す。マナミがそれをいじり始める。しばらくしていじっていた端末の電源を切り、衛へと渡す。
「はい。これで私の連絡先が入ったから何かあったら連絡してくださいね。仕事が入っていないときは必ず返事をしますから」
「なるほどな。そのための端末だったわけか。ありがとうな」
「はい」
嬉しそうに微笑むマナミ。その笑顔を見ていると、自然と口元が綻んでしまいそうだ。それが運の尽きだった。突然何かが落ちる音が正門側からしたのだ。恐る恐る見ると、そこには制服に身を纏った赤髪の女生徒が立っていた。髪は緋色と言ったほうが似つかうほどの色をしており、驚きの表情をしている目はガーネット色をしている。肌は綺麗な肌色をしている。少なくとも黄色人種なのだろう。ちなみにすらっとした肉付きのいい太ももを見てしまったのは偶然である。足元に落ちていたものを見るために視線を落とした時に自然と見てしまったのだ。
「あ、あんたって、もしかしなくてもロリコン……?」
彼女が発した一言目は衛にとっては言って欲しくもない一言だった。衛は悟った。ああ、俺の人生は、学生生活はこれで終わりを迎えたのだ。心の中で何かが大きな音を立てながら崩れていく気がした。
「ろり……?ねえ、ろりこんって何ですか?」
「そ、それは……」
しかもマナミからのダイレクトアタックが襲ってくる。いくら知識があるアンドロイドでも入っているのは必要な知識だけであるようだ。いらない知識は排除しているのだろう。緋色の少女からの変質者で見られるような視線に、マナミからの返答待ちを期待している好奇的な視線が衛を更に追い詰める。
「答えないのならここで今叫んだっていいのよ?」
「ちょっ……!?それだけは……!!」
「誰かー!ここに……むぐっ!!??」
「ちょっと乱暴だけど我慢してて!」
咄嗟に叫ばれまいと思い、衛は本能的に緋色の少女の口を手で押さえた。いきなり塞がれた彼女は流石に最初は驚いたようだが、しばらくして暴れるのが疲れたのかそれとも諦めたのか、緋色の少女は静かになった。衛はそれを確認してから塞いでいた口を開放した。
「……ぷはぁっ!!……はぁ……はぁ」
「わ、悪かった。だけど誤解しないで欲しい。俺は別にロリコンじゃない。安心しろ」
「そうなのね。あなたがロリコンじゃないのはわかったわ。それよりあなたが掴んでいるこの手を話して欲しいんだけど」
「え……?」
彼女の誤解は解けたものの、尚も彼女の声には怒気のようなものが含まれている気がする。おそらく彼女が言っているのは開放した手とは反対の手のことだろう。衛はもう片方の手を見る。その手はあろうことか少女の膨らみかけていた慎ましい胸を掴んでいた。少し握る力を入れると、膨らみかけているとはいえ、女の子特有の胸の柔らかさが手の感触から感じられた。時折、「んっ……」という艶かしい声が少女から聞こえてくる。マナミは「おぉ……」と声を出してから衛と緋色の少女をじっと見ていた。衛は咄嗟に手を離してその勢いで体も一緒になって離れた。
「ご、ごめん!!あ、謝っても許されるとは思わないけど……!!」
「よくわかってるじゃない。言い訳がましいことを平気でペラペラと喋った挙句、今度は私の口を塞いだ上に胸まで触ってきて……。何か他に言うことはないのかしら?」
正直、この場から早く逃げたいです。とは口が裂けてでも言える訳もなく、衛は考える間もなく、結論は早めに出た。少女の周りには赤い炎のようなものがチラチラと揺れているのが見えた。
「……大変、気持ちよかったです……」
「――――っ!!このど変態変質者ああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
少女が叫ぶのと同時に彼女の周囲にあった炎が激しく燃え上がり、その炎が少女の手に渡ると剣の形に変化した。そして鈍い音とともに衛の意識はここで途切れた。
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