リティル2

 陽の光が沈み、辺りが薄暗くなっている中、魔法の光源とする灯りが道を照らし、月明りが周囲を照らし始めていた中を、リティルは促されるままに歩を進めさせられていた。


 進んでいる間も、お互いが会話を行う事もなく、ただただ照らしていた場所へと歩くことだけを強要されている恰好でもあったが、その行きつこうとしている方向が砦の中でも主要区画としては離れているともいうべき場所へとすすめていた


 そこには、いままでの建物とよばれる物とは異なり、煉瓦や木材とも違う灰色の壁が垂直と水平になっており、あまりにも四角い為いままで砦の中で見てきた建物の中では、かなり異質な物でありすぎるとリティルは感じていた。



「あれは・・・?」


 気が付くと、そう問う様に言葉を発しており、先ほど自身を連れ出す様指示した男が答える。


「森人でも知らないのか?学者様が言うには、過去の遺産や遺跡とか言ってたがな」

「遺跡・・・」



 遺跡。

 太古に栄えた旧文明とよばれる者達が残した遺産とも呼ばれる物が存在すると呼ばれている。

 それらの遺跡の形状は種々様々であり、見たこともない金属がふんだんに使用されている物もあれば、朽ちる事もしていない木造の様な・・・いや、生きているとでもいう物ですらある。


 リティルの住んでいた国においても、その存在は確認されており、神聖という扱いにされており、かなり高い役職でなければその場所に入れない禁制区とされている物もあった。



 そんな遺跡と呼ばれる物が、この様な辺境とも呼べる砦がある場所に存在していたのが不思議でならなかった。いや、逆なのだろうと、遺跡があったからこそ砦が作られたのであろうと考えを改めていた。



「まぁ、遺跡といっても特にコレといった遺産があるわけでもない建築物という物には変わらん、せいぜい有効活用させてもらっているだけだがな」



 そういいながら、その遺跡の外側ともいえる入り口の歩哨に声をかけ、「こっちだ」と案内されるまま遺跡の中へとついていった。

 つれられる様に遺跡の中に入ったリティルではあったが、入った瞬間に今まで感じたことのないような違和感を強く感じていた。

 それは、まるでこの中では魔素ともいえる魔法の類の元となる要素が一切感じられない、いや、"存在できない"とでもいう様な、そんな感覚に蝕まれていた。


 それに伴い、いつもその肌に感じている精霊などの囁きそのものの感覚までもがそぎ落とされ、まるで自身の身体が無防備にされているかの様な、そんな感覚に蝕まれてしまい、寒気とは違う何かを感じ取り、両腕で体を抱えたままその場にで歩みを止めてしまった。



 何かとは何か?

 リティルにとって。それは異質としか思いつかずにいた。



 辺りを見回すも、そこは灰色の壁と天井が存在するだけの建物ともいえたのだが、その空間の中にはったリティルは、まるで別の世界に入り込んだかの様な錯覚にさえ感じるほどであった。



「ん?やはり"クル物"があったか。」



 こちらの状況を察したのか そう男が答えてくる。


「この遺跡に入ると気分が悪くなったりする者が出てくるからな。この遺跡には、何かしらのそういった物がアルんだろう。ま、それ以上は何もないがな」



 そう言ってはいる本人たちも、少し顔の表情が優れてはいない程度であり、リティルの様に魔素や精霊と共に生きているのが当たり前となっている者にとっては、何もない空間・・・たとえるならば、空気の薄い空間とでもいうのだろうか、それぐらいの負荷がかかるものでもあった。



 ただ、この男たちに関しても種族がらの違いだからこそ、そこまで鋭敏な感性を持ち合わせていないだけであり、気分が悪くなるという程度でもあったため、森人たちに対してもここまで鋭敏に体調を崩すものとは気づいていなかった。



 そんな場所へを案内すること自体、何を企んでいるのかとリティルは警戒を強め始める。


 危害を加える積りは無いといってはいたが、その言葉を信じる事はやめておくべきだろうと考えをしていた時、ふいに向かう先から声がかけられてくる。



「おや?こんな時分に、こんなところで・・・何をなされるおつもりですかな?ヴィドクン卿」



 奥の扉から、複数人の兵士と共に、一人の男性がそう連れ出してきた男に対して問いただしていた。その姿とその言葉を聞いた男は、舌打ちと共に「面倒な奴にあってしまった」と小さくつぶやいていた。



「・・・警邏の一環だ」

「ほぅ・・・それはそれは、ヴィドクン卿自らとはさすがですね。それにしては、なぜ森人の方をこの様な場所に?」

「・・・警邏のついでに、不慣れだろうと砦内部を案内をしていたまでだ。」

「なるほどなるほど。」

「そういう貴様はなぜここにいる?特に用はないだろう?」



 お互いが、お互いの出方をうかがうかの様に


「いえいえ、いくら捕虜といっても、食事は必要でしょうからね。それと、警備のモノたちへの差し入れも兼ねています。」

「差し入れ・・・だと?」

「ええ、何せ、魔族に類する捕虜がいるのですから、警備の方たちへの英気は必要でしょう。士気にかかわりますからね。」


 と、同行していた物のかごの中にあるワインの瓶が二つをその前に差し出す。


「なかなかに良いものでしてね・・・あぁ、そうだ、リティルさんもこれからご一緒にいかがですか?客人として、もてなす用意をさせているはずですので、ここはグレイツ殿の顔を立たせるという事で・・・いかがでしょうか?」


 と、軽く笑みをこぼしながら会話をさせない速度で答えてくる。

 どこもおかしくはない、おかしくはないが、どこかおかしいという雰囲気があたりを包む。

 そんな雰囲気の中、リティルは先ほど気になった魔族に類するという点に関して言葉を発しようとするのだが、


「わ、私は・・・

「そうですね、警邏の続きをされているヴィドクン卿には、このワインをお渡ししておきしょう。では、リティルさんいきましょうか。みんな、いくぞ」

「「「「はっ!」」」」

「では、失礼します。」

「・・・っ!」


 その言葉をさえぎられるかの様に、逆に遺跡から出ていく集団に囲まれる形で、リティルはその場を後にする格好となった。



 ヴィドクン卿としては、グレイツ卿の顔をつぶすわけにもいかず、連れ出されていく姿をただただ見ているだけしかできないでいたが、その姿見えなくなったころ、何かしらのモノが壊される破壊音が、その遺跡よばれている建物の中に鳴り響いていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る