会議2
伝令が部屋から出ていくと、ざわつきがふたたび始まった。
そのざわつきの内容は、先ほどの捕虜の件についてや、森人に関する内容、先の戦果における状況など様々な事がそれぞれの人物たちの間でささやかれていたりした。
ただ、上座に座る人物だけは、目を閉じてその場をまるで観察するかの様にただただ押し黙っている形であった。そのそばに立つ人物も、周囲への視線を回しているだけで、その口をその場で開くこともなかった。
しばらく、その様な状況が続いた時、
「失礼します!森人の方をお連れしました!」
と、先ほどと同じ人物の言葉が投げかけられると、先ほどのざわつきが一瞬で消え去った。
静まり返った中、「入れ」という声が響くと、伝令と共に一人の女性がその部屋へと入ってくるのであった。
女性は、周囲へと視線を一瞬だけはわせたかと思えば、ある一点、いやはっきりと上座に座っている人物に対し、その手のひらを胸に当て一礼をした動作のまま言葉を発する。
「エル族が娘、リティルと申します。」
「私が、この砦の責任者となる、グレイツだ。長旅であったとは思うが、状況の説明を願いたい。」
「・・・はい。」
周囲の厳しい視線が降り注ぐ中、リティルという女性はその身に着けている部分から、何かしらの物を取り出す。
その行為に対し、周囲の人物から警戒という行動がなされるが、その責任者と言われる人物だけは、それらを介することもなく、涼し気にその行為を見守っていた。
「この書簡を・・・代表に直接渡せと言付かりました。内容に関しては、聞き及んでおりませんので、仔細を聞かれても答えかねると思っていただければ。」
「わかった。さっそく確認させてもらおう」
そういうと、その書簡は近くの兵が受け取ると、そのままグレイツに対して手渡された。
グレイツは、その書簡を受け取ると腰から短刀を取り出しては、蝋で封をなされていた書簡を開け、中身を検めていった。
その書簡の内容に関して、周囲の者達はどういった物かという想像を掻き立てられてはいたが、その想像を口にすることもなく、ただただ口を閉ざして静寂を作りあげているしかなかった。
一通り、書簡の中身を閲覧したかと思えば、隣に立つ人物に対してその書簡を手渡し
「なるほど・・・どう思う?」
と、内容に書かれている事に対して、いや、まるで書かれていない事に対しての見解を求めている様でもあった。
「拝見します。」
許可をとり、その内容を読みだすと、その表情は徐々にではあるが渋くなってきていた。
その光景を見ていた周りの一人、先ほど口論をしていた人物から声が発せられる
「どういった内容なのですか!?グレイツ殿!」
「ふむ・・・要約すれば、援軍を派兵してもらう事はかなわないという事だ。」
「なんですと!?」
その男は、まるで周囲の代弁をするかの様に、大声で驚きをあらわにする。
グレイツの傍で立っている人物は、グレイツから発せられた内容に関して一瞬、驚きともいえる表情をしていたのだが、それに気づいた者はほとんどいなかったであろう。
なにせ、その驚きと共に、周囲の関心はただただそこで礼の状態のまま立っている女性、リティルへと視線が移動していったからだ。
「どうなっているんだ!!先の協定を反故するとでもいうのか!!」
「・・・!」
と、その怒気のままに発する言葉に気おされたのか、リティルは少し驚く様に体をびくつかせてはいたが、
「おちつけ、彼女に責はあるまい。それに、こちらに派兵できなかった理由もしっかり書いてある。」
「いったい何があるというのですか!ただ単純に臆病風に吹かれただけでしょう!!」
その怒気は、机を強くたたきつけるという行為で、周囲の人物たちの声をも止めるには十分であった。
「いいから黙って聞け・・・。」
グレイツから発せられる言葉は、低くそして重く、それは回りに対して威厳というよりも、威嚇といったものを感させるものでもあり、周囲はただただ黙す事しか出来ないでいた。そして、壱拍の間を空けた後、今度は彼らすらも衝撃な内容が発せられた。
「彼女らの皇都が落ちた。」
「・・・はぁ?!」
怒気な状況から反転し、不思議な事を聞いたともいえる内容であった為か、あまりにも素っ気ない言葉となって発せられた
「皇都が落ちたからといって分都が落ちた訳でもなく、そちらの守りを固める為にこちらへの派兵が遅れるとの事だそうだ。ただ、期待はするなと。」
「・・・あれほど豪語していたともいえる森人の皇都が、こうもあっさりと・・・?信じられん・・・」
「難攻不落では無かったのか・・・」
「防御障壁すらどうなっていたのだ・・・?」
周囲が一転し、困惑ともいえる空気がつつみこみ、信じられない等のざわつきが起こる。
彼らにしてみれば、森人が住まう皇都とは難攻不落とも呼ばれる大森林といわれる深部に存在する物であり、その大森林自体が天然の防壁とも呼べる物として進軍を妨げる事に徹していた。
過去、その皇都へと進軍を行った国々の存在があるが、そのどれもがその大森林の見えない脅威にさらされる恰好となり、その思惑が成功した試しが無かった事があった。
「リティルとやら、その礼はもういい。それよりも、その陥落した詳細な内容が記載されていないが、ここらはどうなっているのか、何か聞いてはいるか?」
「はい、失礼します。私自身が見たという訳ではありませんが、皇都からの難民の話では、敵軍は空からやってきたという事で、現場は混乱したと。」
「空・・・?」
「はい。そう聞いています。」
「リティル殿、もっと詳しく聞かせて貰えませんでしょうか」
そう言うのは、隣に立っていた人物からであった。その詳細という言葉により、彼女は自身が得ている情報を報告しだす。
その内容は、カゴの様なモノが飛んできたかと思えば、その多数のカゴが皇都内へと降り立ったかと思えば、その中からは敵軍と思しき
幸い、降り立った場所が工業区画であった為か、居住区のほとんど住民を逃がすための時間が稼げた事と、皇族のほとんどは皇都を離れていた為に被害が無かった事が挙げられたが、それでも皇族の一部の安否が解らない状況と、防衛を主としていた者達のそのほとんどの生死は不明との事でもあり、それ以上の仔細は現場レベルには解らない内容であった。
「私も、聞き及んだ程度の物でしかありませんが・・・」
「いや、十分だ。それにしても・・・。空・・・か・・・」
「これは盲点でしたね」
この砦とて、防壁ともいえる場所を空から大挙された奇襲を受けるとなると、先の戦いの状況よりもさらにひどくなるのは目に見えている。
飛行系の魔物を使うという手も無きにしも非ずだが、それでも運べる人数や物量という物から察すれば、逆に数が多いはずなのだが、その数に対する内容がない事を踏まえれば、その可能性は低いだろうと推測もされた。
それなのに、彼女から伝え聞く内容かすると、下手すれば大隊ともいえる人材が運ばれているという恰好となる。そうなると
「・・・移動に関する魔法のたぐい・・・か?」
「そういえば、先の戦いにおいても、いつの間にか消えたと思えば別の場所に現れるという報告が上がってありましたね。」
「やはり、魔法の線か・・・リティル、その様な魔法に関して、森人としてはあり得るか?」
相手にも使えるのならば、こちらも使えるという思慮の元、グレイツはそう聞き出すのだが、
「私個人の意見としてならば、"ある"とも言えませんが、"無い"とも答えられないのが本音です。」
「それは何故に?魔術に長けると呼ばれる森人ならば、そういった物を持ち得ているのではないのか?」
「いえ、それは私たちが伝え知っている魔法とも異なる・・・魔族側だけが持ち得る魔法かもしれません。現に、その・・・我々が使う魔法の系統で感じられる"発動した"という感じが一切無かったという事も聞いております。」
「ふむ・・・森人も知らない魔法か・・・」
次の言葉を待つかの様に、周りの人たちはグレイツへと視線が注がれるが、その視線を介する事もなく思案を行っていた。そして、その思案した結果を発言しようとする前に、
「リティル、とりあえず部屋を渡そう。誰か彼女を女性宿舎へ
「はっ!」
「とりあえず、今日はもう遅い、一晩疲れをいやして、また明日話そう。」
「・・・わかりました。」
何か言いたげなリティルをよそに、グレイツは彼女を休ませるべく指示をだし、近くにいた衛兵に連れ立って彼女はその退室していった。
その退室した後、グレイツは「他の者も今日は戦の後だ、休めるときに休むため今日のこの会議は終わらせよう。」と、会議という物を御開きにする故を伝え始めたのだが、
「し、しかし、グレイツ殿!あの捕虜の件に関しても即刻決めなければ!!森人すらも理解できない魔法というものが・・・」
「貴公の言い分は解らないでもない。だが、今のところその捕虜がどうこうしたという報告は未だ何も来ていない。ならば、今のところは問題は低いと判断できるだろう。」
「ぐっ・・・」
「いかに理解できな魔法を使用される可能性があろうとも、拘束は有効に働いているという証拠ともいえるのだろう。」
「た、確かに・・・そうなり・・ますが・・・」
それでも、納得はしていないという表情を出し、食い下がろうとしてくる相手であったのだが、
「はぁ・・・解った。明日までおとなしくしている様であるなら、また考えようではないか。もし、それまでに
「・・・わかりました。では私の分隊を警邏に回します。ソレは、かまいませんね?」
「解った。許可する。」
「では、警邏がありますので、これで失礼します。」
しぶしぶ納得した。という事でその場から速足でその場を後にする。
それに伴って、他の人物たちもその部屋から退室していき、その部屋には二人の人物だけが残った。
「良いのですか?」
「かまわんさ、あいつはあいつなりに周りのガス抜き役を買って出ていたんだ。それに乗ってやるのもまた必要なことだ。」
「そういう物ですか。」
「そういうもんだ。だが、しかし厄介な事になったな・・・」
「はい、先ほどの書簡の内容、グレイツ様が仰った内容と異なる点の部分と、森人へ救援を差し向けてほしいという要請の部分があるのですが、その点はどう致しましょう。」
そう、グレイツは先ほどの会議の中で、書簡に記載されていた内容をそのまま口にしていたわけではなかった。
そして、その事に関して書簡を持ってきたリティルという人物が、その書簡の内容を知っているかどうかというカマをかけてみていたのだが、あの様子では知っている可能性が五分五分、いや、どちらかと言えば知らないといった所であろうという判断を下していた。「彼女も使い走りという役だろう。」それがグレイツの認識でもあった。
「ウソは言ってはおらんだろ、要約とも注釈したしな。」
「確かに、それはそうですが・・・」
「いま内容を伝えて悪戯に士気に影響を与える必要もなかろう。そもそもこの砦で手一杯な状況なのだ。」
「確かに、今でも次が耐えれるかどうか・・・」
「そんな中で言う必要もなかろう。まぁ可能性は低いだろうが難民として来た時には、受け入れはしてやる様に手配だけはしておけ。」
「わかりました。」
「しかし、空からか・・・夜目が利く物に対して、空も警戒対象にいれろと命じておけ、こんどは空からの奇襲も気を付けなければなるまい。」
「それも手配しておきますが、同時に弓兵も待機要員としておきますか?」
「ああ、頼む・・・それと、捕虜の
その言葉で、何を意図せんとしているか理解したのか、苦笑ともいえる表情を出しながらも、
「ええ、解りました。では、さっそく手配しておきますよ。」
と、指示を受けた人物は、そのまま速足でその部屋を退出しった。
その姿を見届けた後、一人取り残される形になったグレイツは、森人が持ってきた書簡を蝋燭の火に近づける行為を行っていた。
しばらく、その様な行動をとっていると
「やはり・・・か・・・」
誰もいなくなった部屋の中で、そうグレイツは呟いていた。
その呟きの原因となっていたのは、不自然ともいえるぐらい空白の空いていた場所に、新たに浮き上がってきた文面が存在していたからであった。
「(A.E.D.という署名にエル族と名乗った娘・・・まさかとは思ったが・・・手一杯だというのに厄介事を持ってきてくれる・・・)」
と、顔をしかめるしかなかった。
なぜならば、そこに浮かんできた文には「”第六皇女 リティルを偽装し送りだす。うまく保護する事を願う。頼れる友Gへ”A.E.D.」と、元から書かれていた署名に対し、まるで合わさるかのように急ぎ殴り書きでもされたかの様な文字で記されてあった。
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