#2:サスペクト・ヒーロー

連行1

 立ち尽くしていた本堂の視界には、あれほどいた怪人兵団の姿を捉える事は無く、その立ち尽くす周辺の地には、元怪人だった屍とも言えないモノが周囲に存在するのみであった。



 それは、戦いが終わった事を示しているに過ぎなかった。



 死屍累々が残る場の中心で、紅色の鎧姿の一人の人物が佇んでいる恰好だったが、周囲を一通り警戒し終えた本堂は、とりあえずの難は去ったと判断し、トライヴとしての状態を解除し、大きく深呼吸を行う。


 状態を解除する行為は、先ほどの負荷に対しての安定時間をとるという意味もあり、むやみやたらとトライヴの能力を使用続ければ、その分、安定時間が短縮することもない事を理解していただめであった。



「彼奴らの後を追うべきか、いや、しばらく時間を置いたほうが無難か・・・」



 追撃をするにもその姿を晦ませた場所が解るわけでもなく、また、どこか周辺に潜んだとも思えない。


 ならば、限界超越オーバーザリミットが再使用できる万全を期してからでも遅くはないのではなかろうか?という考えをしていた時、風切り音とともに突如として棒が本堂の顔のそばを通り過ぎ、地面へと突き立てられた。



「なっ!?怪人の気配が無かったが、気を許しすぎたか!?」



 何者かの襲撃であるというのは咄嗟にでも理解できる事でもあるが、先ほどまで警戒していた周囲状況からは怪人らしき気配も何も感じなかった状況からの不意撃ちともいえるその内容に、本堂は再び緊張の糸を張り巡らせ、警戒しながらもその突き立てられた物を確認する。


 そこには、先ほど棒と評しはしたが、それは矢羽と思しき装飾が施されている部分があり・・・つまり、それは矢という物であると推察できた。


 それが突き刺さった角度から、本堂はソレが飛んできた方向へと視線を向けると、何時の間に存在していたのか、こちらに矢を番った者達が複数いる事を確認ができたのである。


 本堂の視覚にとらえた相手は、数十人という人の集まりであり、その姿は見るからに怪人という姿恰好でもなく、その衣装や被り物も最低限の身体の保護を目的としている恰好であり、それ以外はどこかしら弓術を嗜んでいるかの様な皮製品に身を包んだ姿恰好をしていた。


 しかし、確認した相手からは、まるで殺気や威嚇の様な雰囲気を醸し出しており、注意を払った矢先に再び足元近くへ、その番えていた矢を射られる形となっていた。



 確かに、先ほどの戦闘を見ていたのならば、彼奴怪人たちの幹部等と同じと思われても仕方ないと、本堂は過去に体験した事柄とを重ね合わせ、ここで逃げてしまえば、彼奴等の仲間と思われてしまう可能性が高い。ここはまず、その誤解を解くべく、近づいてくる相手に対し、敵意が無い事を伝えようと試みる。



「ま、まて、私は敵ではない。味方だ!」

「LEVI LA BRAKO!」



 本堂に対して声を荒げて何かを言ってくる代表らしき人物からそう命令の様な言葉が投げかけられたが、何を言っているのかを理解できないでいた。

 しかし、その怒声ともいえる言葉には、何かしらの警戒をしているという感じを本堂は受け取ってもおり、ここはまず世界共通であろう"抵抗はしない、敵意もない"という意思表示をするべく、その両手を上に挙げる恰好をとり言葉を発しようと試みる。



「Ne movas!」

「私は敵ではない。わかってほしい。」

「Savos!」



 そう声を荒げる人物は、弓を番えたまま首だけで仲間へ合図を行い、こちらに対して何かしらの指示をすると、それに対応するかの様に近くにいた人物たちが本堂へと急ぐ様に近づいていく。

 そして、そのまま本堂の腕をとると、拘束具らしきものが本堂の両腕の自由を奪う形となっていった。



「ま、まて、話を聞いてくれ」

「Savos dil!」

「敵ではない!信じてくれ!」

「Savos dil vin!Sbiroj de Satano!」



 その行動に対して、自分には危害を加えるつもりはないという意思を再度表明するが、その意思を理解してもらえる事もかなわず、その腕と首とをさらに縄で固定させられる恰好となっていく。



「頼む、話を・・・」

「Savos!」



 それでも、何とか意思疎通を試みようとする本堂であったが、その試みが功を奏する事もなく、



「Marŝi!」(歩け!



 周囲を固められ、棒らしきもで背を押されて、さらに縄によって連れ出される。

 それはまるで、犯罪者を連行するかの様な恰好であった。



 しかし、そんな中、本堂といえば、



(これぐらいの拘束ならば、トライヴに変身すれば問題なく解けるが……)



 周囲を取り囲む人々の、今すぐにも殺害せんとも言えない空気を読み取ってしまった本堂にとっては、この誤解をいかにとるかという考えにおよび



(彼らへの心証を考えればいた仕方ない、今はおとなしくしておく事が余計な誤解を招かない事にもつながるだろう)



 と判断し、相手に促されるがままに、縛られたまま連行されていくのであった。




──────────────────────────────────────

○翻訳コーナー

※意訳です。


「ま、まて、私は敵ではない。味方だ!」

「LEVI LA BRAKO!」(手をあげろ!)



「Ne movas!」(動くな

「私は敵ではない。わかってほしい。」

「Savos!」(黙れ!



「ま、まて、話を聞いてくれ」

「Savos dil!」(黙れと言っている!

「敵ではない!信じてくれ!」

「Savos dil vin!Sbiroj de Satano!」(黙れと言っている!この魔王の手下め!)



「頼む、話を・・・」

「Savos!」(黙れ!



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