戦闘1

 機械式な音声が流れた後に、本堂の視界に映る内容が変貌した。


 いや、視覚に映る内容が変貌したという表現は間違っているといえるかもしれない。



 本堂の視覚情報は、その雲の動き、日の光、風になびく草木の揺れ、それぞれが写真の様に停止しているともいえる状況であり、その中でこちらへと向かってきている相手の動きは、まるで高速度カメラで写された映像の様に"ゆっくりと流れる"形で捉えていたのである。



 最初に変化を実感できる場所が、それは認識の高速処理化による視覚情報であった。



 ただ、はっきりと変化しているモノといえば、その視界の隅で「44.939」とデジタル表示される下桁のカウント数字がゆっくりと減っている部分であろう。

 それ以外の世界は、まるで動きを止めたとでもいう世界が広がっている感覚に捕らわれた。



 では、認識が加速したにすぎない状況であるが、その身体はどうだろうか?



 物理理論にて構成されている世界において、トライヴの周囲には空気という分子の集合体が壁となって存在しいる。

 その中で、認識が加速した状態で、身体もそれに"合わせようと動かせれる"としたらどうなるだろうか?



 結論からいえば、トライヴを包み込む空気という分子の壁は、まるで、常時液体の中にいるとでもいう抵抗をその身体にうける形となる。



 だが、そのトライヴが持ち得る出力を増加させる事により、常時負荷がかかる空気という粘性の高くなった液体の中を、常に出力し続ける事によって無理やり動かすことが可能となるのである。



 まさに力技とも言うべき行為であった。



 だが、本堂本人としては、そういう認識が加速された世界の中では、液体ともいえる身体への負荷がかかっているその中を、動作させようと動かす指令をその五体へと出すのだが、実際にはユックリと動かしている形にしかできないでいた。


 しかし、通常の認識速度世界にいる人間から見てみれば、トライヴが数十㎝をその瞬間に動かしただけで、肉眼でハッキリと形状を捉え続ける事は不可能となるほど、視覚認識が追い付かなくなるのである。



 そんな世界へと変貌した中で、本堂は迫りくる相手幹部怪人の脅威に対し、その抵抗となる空気の壁を力任せに突き破るイメージを構築しながら、相手へのカウンター攻撃にすらなりえない絶対な一撃を、その脚力による強力な推進力を使って、叩きこもうと突進とも言える動きをした・・・つもりだった。




「KIO !?」

「(なんだ!?)」




 幹部怪人の驚きは当然だろうが、その行動をとった本堂自身が驚いたのは無理はない。

 その脚力で放たれた突進しようとした本堂は、幹部怪人の横を通り過ぎ、背後に回ったかと思えば地面へと転がる様に突っ伏していたのであったのであった。


 それは、あくまでも第三者の視点による内容であろう。だが、本堂の立場にたってみてみると様相がガラリと変わる。


 本人としては、その軸足による移動を試み続けただけに過ぎず、その様な動作をし続けているつもりでいたのだが、その軸足への力加減が指令した本堂自身が"ありえない"と感じるぐらいの勢いを作り出していたからに他ならなかった。



「(うまく・・・制御できない・・・だと!?)」



 本堂が感じた事は、まるで初めて限界超越オーバーザリミットを発動した時に似通った感覚に近い状態であった。

 ドン・ガバメンとの戦闘の後からだろうか、違和感として存在していた思考に対して自身の動きがおかしい事には気づいていたのだが、それがいまこの状態になってハッキリとした兆候として認識する事となった。



「(ならば、馴らせるのみ・・・!)」



 残り時間という概念が存在する中、本堂は相手の動きを判断しながら、ゆっくりと流れる時の中で、その身体の力加減を調整するかの様に、さらに追撃を行おうとしてくる相手幹部の動きに合わせ、まずは大げさな動作ともいえる行動をとる。


 それは無駄な動作といえる代物であり、その内容はといえば移動しては停止を繰り返すだけの行為であった。

 この動作により、どの程度の力加減によってどう身体が動き、止まれるのか?という調整する為の経験を蓄積する為の行為であった。



 だが、本堂がその様な事を行っている時、本堂とは異なる驚きという意味を経験している者がいた。



「Kiam ombro klonado tekniko ! ?」



 本堂がとったその動作は、通常世界の相手にとっては多数の"残像"ともいえる幻影を作り出す形となっていた。

 それが結果として、本堂が見えている幹部怪人がとる動作は、本堂が"いない"場所へ攻撃を繰り出している形となっている風にしか見えなかったのであった。



 この繰り返す動作を行う事により、身体の動作加減を合わせこむ作業とも呼べる動きを続けていたが、カウントされている時間は刻一刻と減り続けており、35.000を過ぎようとした際、ようやくその状況に慣れてきた本堂は、反撃に移ろうと行動を開始する。





 相手幹部怪人が繰り出す斬撃をすり抜ける形で、その身体はスルリと抜ける形となり、さらにその右拳は引き手状態から、相手幹部の右横腹へとまるで吸い込まれるかの様に入ろうと迫っていった。




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○いつもの翻訳コーナー

※勝手な意訳です。


「Kiam ombro klonado tekniko ! ?」

 幻影だと!?バカな?!



○説明しよう!

 トライヴの変身形態の第二段階目となる限界超越オーバーザリミットとは、

 その変換炉に対して後付けとなる"ソフトウェア"で強制過給を無理やり行わせ、

 その変換炉が持ち得る限界以上の出力向上を行う方式である。

 また、その動作にはタイムラグが生じる為すぐに発動する訳ではない。


 だが、この方法には大きな欠陥があり、最大稼働時間を長時間維持すると、

 その変換炉自身が崩壊を始めだし制御不能となる。

 また、この能力を使用した後も変換炉が安定する為の時間を待たなければならない。

 最大運用時間は約60[s]。それ以上の運用が出来ない様タイマーが設定される。


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