森に住まう民2
頭の中に意思を飛ばしてきていたのが目の前にいる彼女という事実に、本堂は彼女たちもまた自分と同じ境遇であったのだろうと推測していた。
「そうか・・・君たちもそう・・・なのか・・・」
ザ・リークの所業に対しての怒り、それを阻止できなかった自身への怒り、彼女たちが体験した過去への哀しみ、そのそれぞれが本堂の感情を昂らせ、無意識にその手を強く握りしめていた事にさえ気づかないでいた。
そんな中
『あなたは 何者ですか?』
という問いといえる内容が、頭の中に響き続けていた。
本堂は、先ほどまで昂った感情すぐさま落ち着かせ、まずはその問いに対しての返答を出すべきだろうと行動に移す
「本堂」
下手に言葉を混ぜる事をせず、単的に回答するのが良しと判断し、問われた事に対する内容だけにを返す。
その返事に対して、彼女ら二人で何か相談をしている風に見えるのだが、二人が口にしている内容に関しては本堂が知る由もできないでいた。が、再び頭に響く内容には
『あなたは ホンドウ ?』
という、先ほど本堂が口にした言葉が含まれている事がわかり、多少なりとも通じてはいた事に良かったという思いが続いた。
そうして、さらにもう一度、自身に対して指をさす恰好で
「本堂」
と、意思表示を行う。
その内容をみて、再び二人が会話をしたのちに意思が飛んでくる
『あなたは 危害加える 私たち?』
「いや、それは無い」
その問いに対して、反射的に首を横に振りながら返事を返すのだが、彼女らからの何かしらの反応は帰ってこなかった。
お互いが、何言う事もなく再び沈黙がなされたが、次に入っきた意思の内容で、本堂はある程度納得はした。
『正しい 手の平 むける』
『間違い 手の甲 むける』
『あなたは 危害加える 私たち?』
どうやら彼らには首を横に振るというジェスチャーで意味は通じないのだろうと、本堂は理解し再び先ほどと同じ質問に対し、今度は胸元で手の甲を相手に対して向けつつ
「危害を加えるつもりはない」
その言葉と、先ほどの指示を受けた内容から、ようやく訝しげな視線が多少なりとも緩和された気がした。
ジェスチャーともハンドサインとも呼ばれる内容が、本堂の知る内容と異なるという認識になったのが、ふと「お前は短絡的な思考が勝手に走りすぎる傾向がある。もう少し観察する目を養うべきだ。それと知識も必要だがな」という苦笑しながら、自身に対し注意を投げかけてくる懐かしい言葉が記憶からよみがえる。
そういう文化的な差異があるとは聞いた事はあったのだが、いざ自身が首肯での意思表明動作が通じない文化圏だとは思いもよらなかったことに、本堂は再び海外であることを痛感していた。
そんな本堂の思いとは異なり、彼らから送られてきたものは
『助け ありがとう』
という、礼ともいえる意思と、手の平をこちらに向けきている行動と内容であった。
「いや、気にする必要はない。他に怪我をしている様であるならば・・・と言っても通じないか」
本堂としては、彼らの命に別状がないのであれば、それでいいという認識であり、その事を伝えようと思ったのだが、相手に対してその意思が伝わらない事に対し、多少のジレンマを感じていた。
『私たち 行く』
本堂のそんな考えとは裏腹に、彼らはこの場を去ろうという意思を伝えられた。
その意思を伝えられた本堂としては、同じ境遇の相手に対して放っておくという心境にはなれないでもいた。
そのため、彼らに同行しようという事を伝えたいのだが、どうやって伝えたら良いのかと思案もしていたが、その方法を思いつかないでいた。
そうこうしていると、彼ら二人は起き上がると先ほどの怪人が逃げ去った方向とは真逆の方向へ向かって移動し始める。
本堂としては先ほどの意思を伝える方法を結局は思いつかないままでいたが、とりあえずはほおってはおけまいという考えと、二人の後を付いていけば何かしら現状の情報が得るものがあるのでは?という、妥協にも似た考えを思いつき、多少心証が良くないと思われるかもしれないが、この際、致し方ないという事で、そういう行動をとる事にした。
**********
先行する二人に対し、一定の距離、相手を視界にとらえれる距離を開け、本堂は彼ら二人を気に留めつつも周囲を警戒しながら後を付いて歩いていた。
歩いている二人を見ていると、まるで無防備ともいえるぐらいの様相にも見えてしまい、ザ・リークの怪人の追撃が来てしまえば、まず間違いなく後手をとってしまうのではなかろうか?という印象さえ受けてもいた。
そんな折、本堂の頭に再び意思が飛んでくる
『なぜ ついてくる くるな』
その伝わってきた意思は、拒絶という感情を抱くほどの内容であった。
説明をしようにも、説明をする術を持たない本堂にとっては、どうやって弁明をするべきかと悩んでしまったが、そんな時、本堂の研ぎ澄まされた臭覚が、微かに焦げた臭いが風上から漂ってきている事に気付いた。
焦げた臭い、怪人に襲われた二人が向かう先、そしてザ・リークという存在
本堂は、二人が向かうこの先に何かしらの場所があり、「まさか!?」という嫌な予感という物を携え、その焦げた臭いが漂ってきている方に向かって走り出す。
『そちらに いくな!』
二人がいる方向から、そんな拒絶ともいえる強い意思を置き去りにしながら・・・
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○ちょろっと世界設定コーナー
ハンドサイン例
手の甲を相手にみせる:いいえ、拒絶などの意味
手の平を相手にみせる:はい、受諾などの意味
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