森に住まう民1

 トライヴこと本堂には、サイボーグ化されるにあたり、主だった言語の習熟が容易になる機能が付加されていた。


 これは世界征服をもくろむ「ザ・リーク」の技術陣が追加していたものであり、それを使用する事によって言語理解は容易となる機能なのだが、その能力に関しては、本堂自身が知る前、つまり洗脳改造を受ける前に組織から脱出に成功したために、本堂がトライヴとしての機能が如何ほどの物かを理解できない部分があったのも災いしていた。



 ただ、先ほど述べた能力が使用出来る出来ないにしろ、本堂にとってみれば、いま、この状況の情報は彼らから得るしかないのである。



 特に先ほどの怪人たちが現れた状況など、この白人の二人を襲ったのも自分の様に改造を行うための素体にしようと企んだ可能性が高いのではないか?と、自身の体験からそういう考えに至るのも仕方ないことでもあった。


 そして、自分と同様にその組織から脱出を図ったのではないのか?という考えにも至る。

 それならば、撤退した先ほどの怪人たちがトライヴとしての情報をザ・リークに報告したという恐れがあり、対策をとらた状況で追撃に来るという可能性が浮上してくる。



「しまったな・・・」



 そうなってくると、この近くにザ・リークの拠点が存在している事にもなる。




 襲われていた彼らがどういう状況であったのかは容易にわかるものではないが、怪人に襲われた以上なんらかの関与が起きている事はまず間違いないであろうと本堂は考えた。

 そうなれば、まずはこの場を離れるのが賢明であろうと思うのだが・・・



 彼らからは先ほどからこちらを警戒するかのように訝しげな視線を向けられ続けている。



 それもそうであろうか、いまこの本堂の恰好といえば、どちらかといえばザ・リークの怪人と等しい物であり、そうなれば追手と思われても仕方がない。


 それならば、こちらが危害を加える意思が無い事を伝えなければ、この警戒心を解

かなければ、話が先に進まないのではなかろうか?と



 そう本堂が判断すると戦闘モードを解除し、いつもの姿へと本堂は戻り相手に対して両手を挙げて何かしらを行う事をしないという意思を表現し、対話を行おうと試みる



「君たちに危害を加える気はない、私は本堂ホンドウという。本堂だ・・・」



 そう自身を指さしながら言葉にするが・・・



「・・・」

「・・・」



 彼らからの反応の変化は見受けられない。


 先ほど耳にした言語は、本堂がもっている知識の中の物とは異なりすぎているので、通じないのは当たり前の事であろう。


 いや、反応は一応あった。変身を解除した際に初めて見たとでもいう驚きに近い変化はあったが、すぐに元にもどっただけでもあった。


 だが、それでも本堂は、彼らに対しては危害を加えるつもりもないことをなんとか伝え、そしてこの場を離れることが重要である点を伝えねばと、身振り手振りで何とかしようと思った矢先、本堂の思考に何かしらのノイズが走る



「ぐっ・・・な、なにが起こっている・・・」



 痛みという物が起きている訳ではないが、めまいの様な平衡感覚が狂うとでもいう様なそんな感覚にさいなまれた、

 以前、この様な能力をもった怪人と戦った記憶がよみがえる。



「ま、まさか・・・精神感応テレパシスト怪人・・!?」



 過去、トライヴが戦った怪人に精神感応テレパシストを扱う怪人というのがいた。

 こちらの脳に直接意思志向をたたきつけ、こちらの判断を鈍らせるというマインドコントロールに近い能力をもった怪人であったが、戦闘能力はさほど強い物でもなかった、だが、戦闘を主とする怪人との共闘となると、その能力はトライヴとしての機能を著しく削ぐのには十分な能力だったのである。


 その時と似た現象が自分に起きている。それはつまり、その能力を持った怪人がこの近くに来ているという事に他ならない。


 あの時は、一緒に戦ってくれた友がいたのだが、いまはその存在はいない。



「まずい・・・援軍をつれて戻ってきたか・・・?」



 本堂は、その場を離れるという事を断念し、迎撃をするべく周囲に注意を払う事にした。


 先ほどから頭の中に響くひどい違和感がさらに強った時



『あなたは、何者ですか?』



 そういう言葉の様なものが聞こえた様な気がした。

 いや、それは言葉というにはいささか変なのである。


 本堂の改造された聴覚に入ってきた訳ではなく、直接頭の中にそういう認識が発生したとでもいうのか



「誰だ!!どこにいる!!出てこい!!!」



 その言葉で出てくる可能背はほぼないだろうが、相手に対しては「気づいている」という意思表明にはなるだろう。


 警戒する構えをとりながら、正面、側面、背面、そして上空と、順次に目くばせをしながら辺りを伺い続けるが、視認できるのは遺体のままの怪人と、先ほど治療を施した二人の白人がいるだけである。


 だが、先ほど頭の中に響いた言葉は、それ以外の存在をこの林の中にいる事を示している。


 ならば擬態している可能性はゼロではない。過去にもそういう怪人がいた事があったのだ。「警戒しても、警戒しすぎる事は別に悪い事ではないぞ」とは友の言葉である。

 その言葉を思い出しながらも、本堂はそばにいる二人を護らなければと、焦りが出てくる。


 そんな時、再び頭の中に響くものがあった



『近くにいます。』



 そう認識した方向、否、認識させられた方向へと視線を向けると、先ほどの白人の女性が自身に手を当てて、本堂を睨んだままそう何かを口にしていた。


 が、耳に聞こえる言葉とは裏腹に、頭の中に響く言葉は、先ほどと同じ認識に陥る。



『あなたは、何者ですか?』



 その言葉を発する元を知った時



「君は、改造されてしまった・・・人間だったのか・・・」



 本堂の目には、怒りとも悲しみともいえる感情が現れ、無意識に拳を強く握りしめていた。



 彼らがザ・リークから逃げ出してきた者たちであると、本堂は確信した。


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