第八十七話 炎呪縛の鎖(えんじゅばくのくさり)

 そして、俺が六花を助けられるかもしれない手段を見つけ、実行に移した頃。


 とうとう六花を取り囲んでいた大鬼である餓鬼王を含んだ餓鬼の群れは、もう辛抱たまらないといった感じに、牙をむき出しにした口を大きく開くと、誰が合図したわけでもないのに、一斉に六花の血肉を貪ろうと襲い掛かっていった瞬間、六花の体は、炎のように燃える鎖に巻きつかれて、空中に放り上げられたのだった。


 六花を救い出したのは、陰陽師たちが俺を拘束しようとして、俺の体や腕に巻き付けた呪縛符を、俺が見よう見まねで模倣して作り出した新たなスキル。『炎呪縛の鎖』だった。


 ようは俺が炎獅子時代に生み出した複合スキルの作り方の応用だ。


 スキルとは、たとえ持っていないスキルであっても、スキル同士を組み合わせて新たなスキルを作り出せるものだということは、俺が炎獅子時代に作り出した複合スキル『火炎竜巻』を偶然作り出した時にわかっている。


 だとしたら、構造さえわかればまったく新しいスキルも作り出すことができるのではないか? と思い至った俺は、陰陽師たちの使っていた呪縛符の呪力の流れや構築の仕方などを何とか思い出して、実際にぶっつけ本番で『炎呪縛の鎖』を作り上げて、六花を餓鬼包囲網から救い出したのだった。



 鬼のような形相で周囲の鬼たちを薙ぎ払いながら、大鬼や餓鬼たちに囲まれていた六花のもとに駆け付けようとした玲子は、俺が六花を餓鬼包囲網から救い出したのを目にし、ほっと安堵の吐息を吐き出しつつ、少しばかり無理をしていたのか。六花のもとに急ぐ足を緩めた。



 そして、六花を餓鬼包囲網から『炎呪縛の鎖』を使って何とか救い出した俺は、体にまとわりついてくる餓鬼を無視して、鎖を使い空中にほうり上げた六花を、何とか炎の鎖を操作して、安全圏に下ろそうとするが、その時空から先端が鋭く尖った白い鳥の羽のようなものが無数に降り注いできた。


 降り注いできた無数の白い鳥の羽は、空から降り注ぐと共に、俺や玲子や六花に群がっていた餓鬼王や牛鬼に馬鬼たちと、百を超える餓鬼の群れの頭上に容赦なく降り注ぐと、次々に餓鬼王や玲子の『飛燕』に腕や胴体を切り裂かれた牛鬼や馬鬼の体に突き刺さり、致命傷足りえる傷を与えていった。


 そして、炎の壁に行く手を阻まれている餓鬼の群れやすでに村に侵入した数が優に百を超える数に膨れ上がった餓鬼の群れを串刺しにし、体の小さな餓鬼たちを、地面に縫い付け絶命させた。


 白く凶悪な鳥の羽が降り注ぐ中、玲子は六花の方を気にしながらも、さすがにこの状況下で、大鬼たちや餓鬼たちの相手をしながら、六花のもとに向かう余裕はないのか。


 玲子は自分に向かって降り注ぐ白い凶器を、周囲の餓鬼王や牛鬼や馬鬼といった大鬼たちや餓鬼たちの相手をしながら、時に神刀で切り裂き。時に大鬼たちを盾代わりにしてかわしつつ、六花のもとに向かう隙を伺っているようだった。


 

 で、俺はと言えば。空から降り注ぐ無数の白い鳥の羽のような凶器から、反射的に自分の身を護ろうとしたのだが、俺の右腕から延びる炎の鎖の先に六花の体が繋がっていることを思い出した俺は、自分の身を守ることを放棄した。


 なぜなら、俺が新たに作り出した新スキル『炎呪縛の鎖』は、自分の身を護りながら制御できるほどに、俺はこのスキルを熟知していなかったためだ。


 そのため俺は、自分の身を護ることよりも、六花の体に巻き付けた『炎呪縛の鎖』の制御を優先した。


 もちろん残った左手は、六花の体の付近に向けられている。


 それはもちろん。俺や玲子や六花。そして、餓鬼王や牛鬼に馬鬼や餓鬼の群れに無差別に降り注いでくるこの白い鳥の羽のような凶器から、六花の身を護るためだ。


 俺は右手で六花の体に巻き付けた『炎呪縛の鎖』を注意して操作しつつ、残った左手で六花を護るように『集石』で作った石の壁を展開させる。


 六花を護るように俺が作り上げた石の壁は、まるで白い凶器から六花を護る石の傘のように広がり、六花を大鬼や餓鬼たちのいない地上に下ろす間。何とか護り切ることに成功していたのだった。


 六花が俺の集石の作り出した石の傘によって、『炎呪縛の鎖』に巻きつかれたせいで、多少のやけどはおったものの。無事に地上に降ろされたのを目にしていた玲子が、上空から降り注いだ白い鳥の羽のような凶器によって、餓鬼たちが一匹残らず駆逐されたために、白い凶器を浴びても何とか生きている動きの鈍くなった大鬼たちの動きを見切ると、大鬼たちを無視して六花の元へと駆けつけていった。


 玲子が六花のもとに駆けていくのを見た俺は、これで六花の方はもう気にしなくても問題ないだろう。と思いつつ、俺は六花を護るために防御を捨てて、先ほどの攻撃に身をさらした自分の体を見下ろした。


 先ほどの攻撃を防御せずにまともに受けた俺の体には、十を超えるほどの白い鳥の羽。否、白い鳥の羽に似た、大小さまざまな先端が鋭く尖った白い骨が、体の所々に突き刺さっていた。


 まぁ運がよかったのは、俺には常時発動スキル『炎の壁』があったために、先端の鋭く尖った白い骨をまともに受けたといっても、俺の体の周りに張り巡らされた『炎の壁』の効果で白い骨の先端が俺の体に到達する前に融解されて、俺の体の奥深くに突き刺さらなかったことと。


 俺の体が岩のような体をしているためかどうかはわからないが、痛みというほどのものがほとんどなかったことだった。


 自分の体に突き刺さっている骨を抜こうと思った俺は、体の所々に突き刺さった骨に手を伸ばし、掴んで引き抜こうとするが、体に突き刺さった骨を掴むことはできるものの。思うように力が入らず、体から骨を引き抜くことができなかった。


 そればかりか、六花を無事に救い出したことで張っていた緊張の糸が切れたのか、俺は体から急激に力が抜け落ちる感覚に襲われると共に、その場に膝をついてしまっていた。


 は? どういうことだ? 


 俺が体に突き刺さっている骨を引き抜く力を得られず、また自分の意思とは関係なく地面に膝をついてしまったために混乱していると、ひどく落胆したような声が上空から俺の頭上に向かってかけられた。

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