第八十六話 六花の諦めと玲子の焦り

 鬼たちの六花に向けられる気配が、明らかに今までの物と変わったのを察知した玲子が怒声を張り上げる。


「六花ああぁぁぁっっっ!!!」


 六花は自分の血の匂いを嗅ぎ、血走ったような目で自分を見つめる鬼たちに囲まれたこの状況下では、さすがに自分が万に一つも助かる可能性はないと、諦めきったような困ったような笑顔を玲子へと向けた。


 玲子が最後に見た六花の顔は、玲ねぇ生き残れって言ったのに、生き残れなくてごめんね。と言っているような少し困ったようなはにかんだ笑顔だった。


「腐れ外道どもがぁっどけええぇぇえっっ!!! 桧山流一の太刀『飛燕』!!!」


 六花の困ったような笑顔を目にした玲子が、腹の底から怒声を張り上げながら、六花のいる方角にいる自分の行く手を遮る大鬼たちに向かって、本気の『飛燕』を解き放つ。


 玲子が放った『飛燕』は、鎌鼬(かまいたち)の様な飛刃(とうじん)を生み出すと、牛鬼と馬鬼の胴体を半ばまで切り裂き双方の左腕と右腕も、斬り飛ばし、後方にいた餓鬼たちの首を斬り飛ばし、六花へと続く道を切り開いた。


 六花の元へと通じた道を、玲子が全速力で駆け抜けようとするが、斬った傍から未だ健在な餓鬼王や餓鬼たちが、すぐに六花へと通じる道に湧き出してきて、せっかく六花へと通じる道を、玲子が切り開いたにもかかわらず、切り開いたはずの道は、瞬く間に鬼たちによって塞がれてしまっていった。


 このままではどう考えても、どのような手を使っても、いつもの速度を発揮できない玲子が六花の窮地に間に合いそうになかった。


 玲子が確実に間に合わないということは、俺が六花を助けなければ、六花は生きたまま自分を取り囲み襲い掛かろうとしてきている餓鬼王や腐餓鬼や餓鬼たちの餌食になるしかないだろう。


 仕方ねぇな。ここまで面倒を見たついでだ。ここで六花を見捨てるってのも後味が悪いし、何とかしてやるか。


 ただ問題なのは、この距離からどうやって六花を助ければいいか? ということだ。


 俺の持っている攻撃スキルで、餓鬼王を倒せるスキルといえば『火拳』だが、これは六花に襲いかかろうとしている餓鬼王との距離があるから無理だ。


 とすると、遠距離攻撃や群れの駆除に適した『火線』になる。


 だが、これも駄目だ。


 餓鬼の群れや腐餓鬼程度ならば多分問題なく倒せるが、そもそも炎の壁を乗り越えて来た餓鬼王には通じないだろうし、それに餓鬼の群れに『火線』なんかを使ったら、餓鬼たち同士が燃え移りまくって、餓鬼たちに周囲を囲まれている六花が丸焼きになっちまう。


 だとしたら、残る手段は『集石』で六花の周りに陰陽師たちにしたような岩山を築くことになるんだが、『集石』で作る岩山は、さすがにあれだけ密集していたら、六花だけを石で囲むことは不可能だ。


 あと残ってる手段といえば、『集石』を応用した『石礫』を使うぐらいしかない。


 しかし餓鬼はともかく腐餓鬼や餓鬼王が、ただの石礫で倒せるとは到底思えない。かといって、石礫で六花に向かわないように、餓鬼王や腐餓鬼たちをけん制したとしても、うまくこちらに注意を引けるとは限らないし、下手をしたら餓鬼王や腐餓鬼たちの怒りを買って、今よりも六花を取り巻く状況が悪くなっちまうかもしれない。


 どうする。どうすればいい? 俺は思考を加速させながら、脳内で考えを巡らせる。


 餓鬼王や餓鬼たちを倒して、助けるのが駄目なら、後は上空か地中から何とか六花を助け出すってことになるが。俺は空を飛べないし、地中にも潜れない。


 まぁ俺が飛べないとにしても、何とかして六花を餓鬼の包囲網の中から、引っ張り上げる手段でもあればいいが、それすらない。


 ん? 引っ張り上げる? いや、待てよ? そういえば比婆や護衛陰陽師たちの使っていたあれなら、もしかしたら、この状況下でも、あのちょいと抜けてるお馬鹿な陰陽師見習いの六花を、助けることができるかもしれない。


 六花を助ける手段を思いついた俺は、すぐさまそれを実行に移すことにした。

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