第七十一話 奥多摩村の戦い⑨ 罠

 俺の移動速度を軽く上回る玲子の剣げきに翻弄されながら、俺は後ろに下がり続ける。

 

 石の盾なら切り裂けるか。なら、これならどうだ。大っ『集石』!


 俺は先ほどまでの『集石』にかける呪力を増して、俺と玲子との間に、小型トラックほどの巨大な岩山を作りだすと共に、その岩山に手を触れて後方に跳躍した。


「ふんっ児戯だな。桧山流剣術三の太刀『岩石砕き』!」


 玲子が大上段に振りかぶった両手持ちの刀から、力強い三の太刀『岩石砕き』を繰り出すと、俺が呪力増しの集石で作った岩山がたったの一太刀で豪快に叩き割られた。


 マジ!? と驚くのが普通なのだろうが、まぁ原理は未だにわからないが、俺の『炎の壁』を越えて俺の体を切り裂いたり、俺の『集石』で作り出したいくつもの石の盾をまるで薄紙のように切り裂いてきたのだから、このくらい想定内だ。


 そう、俺はこの岩山で玲子を足止めしようとかを考えていたわけではなく。剣術に相当な自信を持っている玲子ならば、この岩山をかわすのではなく。確実に斬りにかかるだろうと思ってこの岩山を作り出していたのだった。


 そして、玲子は俺の予想通りに岩山を切り裂いた。


 それも一太刀で。


 だが、俺は岩山を発動させて、完成した後。岩山に『手』を触れ『火線』を発動させて岩山の中を溶岩の塊と化していたのだ。


 つまり岩山を切り裂いた玲子に、当然岩山の中に満たされていた溶岩が降り注いだのは言うまでもない。


 しかも逃げ道を塞ぐように、すでに俺は地面に両手をつけて玲子と岩山を囲むようにして『火線』を張り巡らせていた。


 もちろん俺の張り巡らせた火線からは、炎の柱が立ち上っている。


 そう、玲子は自分の腕を過信するばかりに、俺の罠にはまり逃げ道を封じられ、自分の刀が切り裂いた岩山から溢れ出す溶岩に呑み込まれたのだった。


 あっつい本気でやっちまった。


 けど仕方ないか。今回はあの女が強すぎて、はっきり言って余裕がなかった。


 それにもしも俺が六花戦の時のように、できる限り相手を傷つけないように戦ったとしたら、多分足元をすくわれる。


 それだけの実力をあの女は有していたのだから仕方ない。


 にしても、どっかで聞いた名前だし、見た顔なんだよな? 六花にしても、玲子にしても? けど思い出せない。きっとこれが前世の記憶みたいなものなのだろう。


 できれば、前世の知り合いかもしれない相手を、俺も殺したくなんてなかったが、今回ばかりは仕方ない。と思うことにした。


 だが、俺の予想外の出来事が起こる。


「ハアアアアアアアッ桧山流剣術『風神演武』!」


 へ!? 思わず予期していなかった光景に間抜けな声を上げた。


 なぜなら、火柱で囲んで、溶岩に呑み込まれたはずの玲子が火柱と溶岩すべてを、竜巻を発生させるような剣術によって、吹き飛ばしたからだ。


 ……マジ……かよ。さすがに、火柱や溶岩を剣術で吹き飛ばされるとは、まったく予想していなかった俺は、玲子のありえない剣技に面食らってしまう。


「はぁはぁはぁ」


 とはいっても、さすがにあの量の溶岩や火柱を一気に吹き飛ばすのは、玲子でもきつかったのか。玲子は刀を地に着け、体を支えながら、肩で荒い息をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る