第七十話 奥多摩村の戦い⑧ 激戦
「桧山流一の太刀『飛燕』っ」
気合一閃、玲子は一足飛びに俺の体に肉薄すると、居合抜きの要領で腰に差していた鞘から目にも止まらぬ速度で刀を一閃させる。
今まで目にしたことがないほどの速度で振るわれて、自分に迫りくる刀を見た俺は、体をのけぞらせつつ何とかかわした。
だが、今度は完全にかわし切れなかったのか、ちょうど胸のあたりを横一文字の剣線によって切り裂かれてしまう。
完全に予想外の玲子の剣速とその切れ味に。
悲鳴じみたというよりかは、俺は驚きのこもった声を上げる。
「グガッ!?」
なぜなら、この火吹き人に進化して以来。常時発動スキル『炎の壁』を貫通して、初めてダメージらしいダメージを喰らったからだ。
だが俺に驚きに浸っている時間はなかった。
なぜなら、俺に一の太刀『飛燕』を入れながらも、すぐに二の太刀と、一気に勝負を決めるつもりなのか、次々と玲子が追撃してきたからだ。
「桧山流二の太刀。『蓮華』」
玲子の繰り出す剣げきが縦横斜めと縦横無尽に、無数の刃を繰り出してくる。
しかもそのどれもが、俺の体を覆う硬い岩肌を切り裂く威力を持っていることは、一太刀目で傷をつけられたことから、何となくだが俺にはわかっていた。
そのため俺は、スキル『集石』で周辺に漂う石や岩を集めて、幅十センチ。縦四十センチ。横二十センチほどの幾つもの簡易的な石の盾を作りだして、それを玲子の剣げきを防ぐ盾としたのだが……。
俺の作りだした石の盾は、まるで薄っぺらな紙切れのように、玲子の斬撃によってあっさりと切り裂かれてしまう。
くそっマジかよ!? なんなんだこの女!? 化け物か!?
思わず本物の悪鬼で、化け物側である俺が突っ込みを入れてしまうほどに、玲子の斬撃の威力はすさまじかった。
というか、常時発動スキル『炎の壁』は何をしてやがる! あのスキルなら、俺の間合いに入り俺を切り裂こうとする刀ぐらいならば溶かすことができるはずだ! なのになんで刀は溶けねぇ! なんで俺にこいつの斬撃が届く!?
俺は常時発動スキル『炎の壁』を越えて飛び掛かってくる玲子の斬撃に徐々にだが、焦りを覚えていった。
考えろ。この状況を打開する策を、奴の剣術を封じる術を。
剣術を封じる術? 待て。そういえばあいつはこの場に現れてから今までいくらでも陰陽術を使って、遠距離から俺を狙撃することができたはずだ。
ならなぜしなかった? いや出来なかった? だとしたら奴はほかの奴らみたく陰陽術を行使できないんじゃないか? いやこれほどの手練れだ。その可能性は低い。が、奴が今の今まで陰陽術を行使していないのも事実だ。
それに確か陰陽師の中には、陰陽術を習得するのではなく、刀剣術に特化した術者もいると、どこかで聞いたことがある。
だが奴がそれとは限らない。
しかし、あの年でこれだけの剣術が扱えるってことは、奴が剣術特化な可能性はかなり高いはずだ。
だとしたら、奴を刀ではどうしようもない状況に追い込んで叩くことだ。
それしかこの一方的に防戦一方に追い込まれてる状況を打破する術はねぇ! と思った俺は、頭を冷静にして奴を倒す策を考え始めた。
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