第六十八話 奥多摩村の戦い⑥ 反撃

 というか、このまま攻撃を受け続けたところで何の進展も得られそうにないと踏んだ俺は、ようやく重い腰を上げることにした。


 まず、俺は自分の体と右腕を拘束している六本の不可視の鎖を左手で握り込むと、力任せに引きちぎって明後日の方角に向かって投げ捨てた。


「なっ!?」

 

 俺に引きちぎられて、投げ捨てられた不可視の鎖に呪力を流し込み俺を拘束していたと思い込んでいた陰陽師たちは、皆俺が鎖を投げ捨てた勢いに抗いきれずに、あらぬ方向へと飛んで行ってしまう。


 まぁ飛んで行ったといっても、投げた方向は田んぼがある方なので死にはしないだろう。


 次に俺は腰をかがめて右手で地面に触れると、スキル『火線』を発動させた。


 俺の発動させた『火線』は、今度はしつこく冷気を吹き付けてくる雪ん子の浮かんでいる空間の真下まで火線を走らせて、火柱を上げると雪ん子を一瞬で塵も残さず焼き尽くした。


 俺が発動した『火線』によって、焼き尽くされた雪ん子は、断末魔の悲鳴も上げることなく自身を構築していた粉雪と共に蒸発していった。


 まぁ蒸発したといっても、雪ん子も元々は俺と似たような存在であるために、しばらくしたら雪のあるところで復活するだろうが。


「へっ!?」


 俺がほんの少し動いただけで、自分と陰陽師たちが命がけの決意で臨んだ攻撃が、すべてあっさりと無に帰すこととなった六花は、間抜けな声を上げてボーゼンと立ちつくすこととなった。


 まぁ実際のところは、陰陽師たちが不可視の鎖を俺の体と右手に絡めてきた時に、不可視の鎖を力任せに引きちぎることもできたし、六花が雪ん子をこの場に呼び出して、雪ん子が六花の命令を受けて俺に冷気を吹き付けてくる前に、俺は『火線』を使って六花によってこの場所に呼び出された雪ん子を瞬殺することもできた。


 なぜ俺がそうしなかったのかというと、ただ単に六花を怖がらせたり、六花と完全に敵対したくなかったからだ。


 もし仮にだが俺が、俺の体や右手を拘束していた不可視の鎖をあの場であっさりと引きちぎったら、六花の気持ちはともかくとして、六花を護ろうとする陰陽師たちは、俺に死に物狂いで挑みかかってきて、なんとしてでも俺から六花を逃がそうとするだろうし、そうなれば俺とて陰陽師たちに容赦することができなくなって、陰陽師たちを殺さないまでも、半殺しぐらいにはしていただろう。


 そして、もしそうなった場合。


 せっかく会話できるかもしれないと思っていた六花と俺は、完全に敵対してしまうはずだ。


 もしそうなれば、もう俺は六花と二度と会話できなくなってしまうだろう。


 そう俺はなぜかはわからないが、自分が多少のダメージを受けようとも、六花と会話できるようになるかもしれない可能性を優先したのだった。


 まぁその試みも、半ば途中で諦めることにしたんだが、その理由は俺の気配探知が警報を上げるほどの大物が、この場へと物凄い速度で近づいてきていたからだった。

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