第三十一話 獄炎鬼④ 融合スキル『火炎竜巻』

 ほんのわずか、一秒にも満たない時間を使い。俺が獄炎鬼と戦う覚悟を決めている間にも、『獄炎放射』や『獄炎火球』の連続攻撃を受けてなお、俺が生存していることに気が付いた獄炎鬼が俺に向かって『獄炎火球』を解き放ってきていた。


 自分に迫りくる『獄炎火球』を視界にとらえた俺は、ステータス上唯一獄炎鬼に勝っている素早さを生かして、素早く横に飛び退り、難なく迫りくる『獄炎火球』をかわすことに成功していた。


 俺がかわした『獄炎火球』は、俺の蒸し焼き攻撃によって強度の弱まった地面にぶち当たると、そのまま土を塗り固めて作られたような階層の地面をジュウジュウと溶かして白煙を上げながら、地面に直径二、三メートルほどの巨大な穴を作り出していた。


 俺は獄炎鬼の放ってきた攻撃スキル『獄炎火球』の空けた大穴に視線を向けながらも確信する。


 やはり、素早さならば、俺の方が獄炎鬼よりも、優っているのだ。


 だから、たとえ一撃でもまともに喰らえば一瞬で焼き尽くされる運命だとしても、一撃でも喰らわなければ俺に死が訪れることはない。


 そのことを確信した俺は、自分の速度を生かしながら、獄炎鬼に向かって地を駆け始めた。


 もちろん獄炎鬼が、自分に向かってくる俺の侵攻を阻もうとしないはずがなかった。


 そのため獄炎鬼に向かう俺に向かって、獄炎鬼の『獄炎火球』による攻撃が次々と繰り出されてくる。


 だが俺は、獄炎鬼の二倍以上ある速度。素早さという唯一絶対の武器を使って、獄炎鬼の攻撃スキルの雨霰(あめあられ)をかわしていった。


 俺にかわされた獄炎鬼の攻撃スキルである『獄炎火球』たちは、次々と階層の天井や壁、地面に人間の大人ならば数人が通れるほどの大穴をあけていった。


 俺は獄炎鬼の攻撃をかわしながらも、火球が地面にあけた穴の中から、生き物が蠢いているような音をかすかに耳にしたので、ちらりと視線を向けて穴の中をのぞいてみた。


 俺の覗き込んだ穴の中、つまり下層にいたのは、これでもかというほどの階層に溢れかえる数の餓鬼の群れだった。


 そして餓鬼の群れは、本来あるはずのない突然できた上層階とをつなぐ穴を目にして、そこから上へと這い上がろうと、まるで巨大な人間ピラミッドのように仲間を足蹴(あしげ)にしながら蠢いて(うごめいて)いた。


 俺のいるここが最下層じゃなかったのか? てっきり餓鬼に腐餓鬼にボス格の餓鬼王たちがひしめき合っていたから、ここが餓鬼洞の最下層だと思ってたんだが、どうやらそれは俺の思い込みだったらしい。


 そのことはまぁいい。大した問題じゃない。大した問題なのは、俺の今いる階層の下にもたくさんの餓鬼たちが蠢いている階層が存在しているということだ。


 ここで俺の脳裏にふとある考えが浮かぶ。だが、今そのことを考えている余裕が俺にはなかったので、俺は今できることに専念することにした。


 そう、今ここで、未だレベルが1の進化したての獄炎鬼を倒すことだ。


 俺は改めて決意すると、獄炎鬼に向かって地を駆ける足に力を込めて駆ける速度を上げた。


 獄炎鬼は自分に迫り来る俺に怒りの視線を向けながら吠えた。


「グガアアアアアアアーーッッ❗❗」


 獄炎鬼の咆哮は、俺への強い怒り、恨み、憎しみ、憎悪に満ち溢れていた。


 やはりこの様子からして、獄炎鬼はこの階層のボスとして元々君臨していたのではなく、俺がこの階層に蓋をして蒸し焼きにした餓鬼王の進化体のようだった。


 だが俺は獄炎鬼に対して一切の同情はしない。


 なぜなら、この地獄のような世界に常に弱肉強食が付きまとっているのは、俺がこの世界に転生してから、ここにくるまでの間に嫌と言うほどに味わってきたことだからだ。


 そう、腐餓鬼しかり、餓鬼王しかり、今まで俺が相対してきた奴らは、隙あらば俺を情け容赦なく殺そうとしてきた。


 だから、力がすべてのこの地獄世界にいる限り、俺は油断も同情も、一切しない。


 そう、今、決めた。


 そんな感じに獄炎鬼の『獄炎火球』をかわしながら、俺が獄炎鬼へと近づいて行くと、業を煮やしたのか、獄炎鬼が巨大な口元に炎を集め始めた。


 このモーションは広範囲殺戮スキル『獄炎放射』がくる。


 そう踏んだ俺は、地を駆ける足に力を込めて、更なる速度を絞り出すと共に、獄炎鬼と同じように、ありったけの呪力を口元に集め始めた。


 その数秒後。

 

 案の定俺の予想通りに俺を焼き尽くそうと、獄炎鬼の口から『獄炎放射』が解き放たれた。


 しかもご丁寧に、今度は俺が飛び上がって回避できないように真上から、吹き掛けてきた。


 だがこれは予想範囲内だ。

 

 俺は迫り来る『獄炎放射』に、向かって真っ正面から勢いよく飛び込んだ。


 もちろんありったけの呪力を込めた『火炎放射』を、自分の全面に吐き出し、『獄炎放射』の盾としながらだ。


 だがそれを知るはずもない獄炎鬼は、炎を焼き尽くす『獄炎放射』に、半ばやけくそ気味に飛び込み、灼熱の炎に飲み込まれた俺の姿を見ていたのか、口元に勝利を確信したようないやらしい笑みを浮かべていた。


 俺は『獄炎放射』を抜けるほんのわずかな間、体に『獄炎放射』の炎の熱さを感じつつも、ほぼ無傷の状態で獄炎鬼の放った致死性の高い『獄炎放射』の攻撃をなんとかかいくぐることに成功していた。


 『獄炎放射』をかいくぐった俺の目の前に現れたのは、一メートルは優に超すほどの獄炎鬼の野太い足だった。


 俺は炎の爪を立てて、獄炎鬼の体を足場にしながら、獄炎鬼の背後へと回り込むと、獄炎鬼の背中を足場に、思いっ切り飛び上がり獄炎鬼の後頭部に向かって、『大火』『炎の渦』『火炎放射』と、俺の持つありったけの攻撃スキルを、最大呪力のおまけつきの三連コンボで獄炎鬼に叩き込んでやった。


 俺の放ったありったけのコンボスキルは、互いに干渉しあって威力を増し始める。


 まず、獄炎鬼の頭部を包み込むように焼いていた『大火』を取り囲むように『炎の渦』が立ち上ると、『大火』の火と『炎の渦』の炎が互いに干渉しあって、その大きさを増した。


 『大火』の火は、直径一メートルを優に超える炎に。


 『炎の渦』は、太さ五十センチを超える野太い炎の渦へと変わっていった。


 そして最後の駄目押しに、俺の口から『火炎放射』が解き放たれる。


 俺の口から解き放たれた『火炎放射』は、互いに干渉しあう同じ呪力で作りだされた『大火』と、『炎の渦』を混ぜ合わせるように作用して、『大火』『炎の渦』『火炎放射』が、自然に融合し、巨大な炎の竜巻。融合スキル『火炎竜巻』を作りだしたのだった。


 そう俺のコンボスキル発動は、俺も予期せぬ融合スキルという新たなスキルを生み出したのだった。


 そうして獄炎鬼は、俺の背後から頭部を狙った強襲になすすべなく、頭部に『火炎竜巻』を食らい焼かれていったのだった。

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