第三十話 獄炎鬼③ 決死の覚悟

 ……おいおいいくらなんでも、レベル1でHP 1150の四桁って、おかしいだろ? 


 しかも、素早さ以外のステータスが、どれもこれも俺を圧倒的に上回ってんし、さらに無機物破壊スキルって、完全に俺、ピンポイントで狙われてね?

 

 それにこの獄炎鬼と俺のステータス差から見て、一撃でもまともに喰らえば俺一瞬であの世行きじゃね?


 唯一の救いは、俺の素早さが獄炎鬼の素早さの三倍以上あることだけどさ。


 そもそも、俺がワンターンキルされる相手で、火耐性の上位互換ぽい炎耐性になっててさ、只でさえ炎耐性高いのに、怒り補整で45ってなに? 45って? 俺の呪力27なんですけど? 俺の攻撃1ダメージも通らないんですけど? もしかして、俺どう足掻いてもつんでんの? 


 今までさ、わけわからない地獄みたいな世界にいきなり放り出されてさ。死に物狂いで強くなってさ。ようやく炎獅子まで進化してさ。さあ安全確実な餓鬼相手にレベルを上げて、これからこの地獄世界をの旅でもしようかな~と思ってた矢先こんなわけわからん無敵の化け物がいきなり出てきて詰んじゃうの俺? 


 そりゃあさ。餓鬼や餓鬼王たちのいた階層に、火をつけて、蓋をして蒸し焼きにしたのは俺だよ? 卑怯なやり方でレベル上げようとしたさ。けどさそれって仕方なくない? そもそもそれってさ。俺を地獄世界に落としたやつが悪いんだしさ。


 俺だって本当は、あんな卑怯なやり方やり

たくなかったんだよ。


 けど仕方ないじゃん。


 いくら炎獅子に進化したっていっても、あれだけの餓鬼や腐餓鬼に餓鬼王がいたんだよ? 


 まともにやりあったら勝ち目なんてあるわけないしさ。


 だから仕方なくだよ仕方なく。それなのに俺を恨んで目の敵にするなんて酷くない? 


 まあさ狩られる方からしたら当たり前なんだけど、けど納得いかねえ。素早さだけ、上回っててもダメージ通らねえような、勝ちの目が一切ないなぶり殺し確定の無理ゲーなんて、認めねえ。


 俺は認めねえし、納得できねえんだよね。


 目の前に絶対に勝てない化け物の存在を突きつけられた俺は、獄炎鬼を睨み付ける力を強めた。


 そして先ほどまでの弱腰はどこえやら、なにかが吹っ切れた顔をすると、この体から言葉は発せられないために、決意のこもった言葉を、頭の中で、思考の中で、吐き捨てた。


 いいよ、やってやんよ。


 この無理ゲークリアしてやんよ


 俺は非情な理不尽を突きつけられ、自分の根っこにある負けず嫌いな性格と、闘争心を呼び覚まされ、先ほどまでの逃げ腰態度がなりをひそめたかわりに、俺は炎獅子の瞳に燃え上がるような強い意思の光を宿すと、目の前に君臨する絶対的な王者。獄炎鬼に死闘を挑むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る