第一四話 討伐隊の帰還
そうして腐餓鬼が、わずか三十分ほどで死人の村を蹂躙し、死人たちを丸呑みにして、死人の死体をくっちゃくっちゃと咀嚼していると、腐餓鬼の背後から鋭い怒気を含んだ剣線が振るわれる。
腐餓鬼の視覚から振るわれた剣線は、腐餓鬼の背中を切り裂いて、一メートルほどの刀傷をつける。
「ぐがぁっ!?」
いきなり背後からの予想外の攻撃に、腐餓鬼が怒りと痛みのないまぜになった悲鳴を上げながら、裏拳を放つように背後に向かって拳を振り回しながら振り向いた。
しかし腐餓鬼に攻撃をしてきた者は、素早く後ろに飛び退り、腐餓鬼の攻撃の射程から抜け出ていた。
腐餓鬼が死人の村を蹂躙し、死人たちを丸呑みにしていたためにそのおこぼれにあずかりレベルを上げていた俺の気配探知によると、腐餓鬼を攻撃したものたちの数はざっと4名。腐餓鬼が死人の村を襲うきっかけになった腐餓鬼に襲い掛かってきた数と類似していた。
どうやらこの連係パターンからして、敵は先に徒党を組んで腐餓鬼を襲ってきた死人たちの仲間のようだった。
死人は狩りをする。
まぁ狩りといっても、主に自分たちより弱いもの(おもに食物連鎖の最下層にいる餓鬼)を狩るだけだ。
そう言った理由から、この前も餓鬼の進化形である腐餓鬼を狩ろうと攻撃を仕掛けてきたのだろう。まぁ返り討ちにしてやったけど。おもに腐餓鬼が。
で、今回腐餓鬼が死人の村をいともたやすく蹂躙できてたのは、多分餓鬼を狩る死人たち。いうなれば村の戦闘部隊が不在だったためだろう。で、村を蹂躙した直後に運悪く死人たちの戦闘部隊が、村に帰還し、今回腐餓鬼と鉢合わせしてしまったのだった。
そうした経緯をもって、今腐餓鬼は、死人たちの戦闘部隊に相対していた。
死人たちの戦闘部隊は、相当戦い慣れしているらしく、自分たちよりはるかに巨大な腐餓鬼を見上げながらも、一切臆さずに骨のような刀を振りかざしながら、連係して立ち向かっていく。
まず、先ほど腐餓鬼の背中に一撃入れたほかの死人と毛色の違う黒刀を腰に差した死人が、先陣を切る。
死人(多分リーダー)が、裂ぱくの気合の掛け声とともに、腐餓鬼の真っ正面から黒刀を振り上げて切りかかる。
腐餓鬼はそれをかわそうと、右に体を移動させる。
そこにすかさず別の死人が骨の刀を居合い切りの要領で解き放ち、腐餓鬼の右腕に剣打を浴びせる。
が、腐餓鬼の皮膚は死人のリーダーと思われる黒い刀ならいざしらず、骨の刀程度では腐餓鬼の腕を斬り落とすことはおろか引き裂くことすらできずに弾かれてしまう。
そこへ腐餓鬼の左拳の一撃が、居合を放ってきた死人に向かうが、それをまた別の死人が腐餓鬼の左腕に骨の刀を叩きつけて、攻撃の防ごうとするが、ここは腐餓鬼の地力が勝り、腐餓鬼の左拳を受けた死人は、居合い切りを繰り出した死人と共に、吹き飛ばされ、岩盤に体をしたたかに打ち付けてダウンする。
地に倒れ伏した二体の死人に喰らいつこうと、腐餓鬼が頭から突進するが、その突進は、腐餓鬼の頭を水平に両断するように、眼前にいきなり現れた黒い刀によって、阻まれる。
その間にも、腐餓鬼の左拳によって弾き飛ばされた死人のうちの一人が、ヨロヨロとおぼつかない足取りで立ち上がった。
どうやら、岩盤に直接激突しなかった方の死人は、ダメージを受けはしたが、未だ戦えるようだった。
といっても、腐餓鬼の右腕を切り落とそうと居合切りを繰り出してきた死人の方は、一緒に飛ばされた死人と岩盤に挟まれたために絶命していたようだった。
これで残る死人の数は、三。一人減ったとはいえ、まだまだ油断はできない状況だった。
それにしても、思ったより腐餓鬼の動きがいい。ほんの少し前ならば、ほんの少し連係を取られただけで翻弄され、全く対応できずにやられていたからだ。
それが今はどうだ? 死人たちの連係についていけているというほどではないが、何とか対処できている。どうやらこの様子からして、腐餓鬼は先の連係の教訓を生かして、頭が悪いなりに戦っているようだった。
先ほどの突進をした際に、黒い刀が眼前に飛び出してきたために、額を薄く切り血をにじませながら、腐餓鬼が怒りの咆哮を上げた。
「があああああああああああああっっ!!」
腐餓鬼のスキル『威圧』だ。
腐餓鬼の放った威圧によって、残った死人の撃ちの二体が、恐怖に体をこわばらせて動きを停滞させる。
そこにすかさず、腐餓鬼が襲い掛かるが、残った一体の黒い刀を手にしている死人によって阻まれる。
どうやらこの黒い刀を持った死人は、ほかの死人たちよりも、明らかに実力が上のようだった。
黒い刀を持った死人は、腐餓鬼のスキル『威圧』によって動きを停滞させているほかの死人を護るように、立ちふさがった。
この黒い刀を持った死人がいる限り、腐餓鬼は『威圧』によって、動きを停滞させている死人たちには近づけない。かといってこのままにらみ合いを続けても、いずれ『威圧』の効果が切れて死人が動き出すのは目に見えていた。
腐餓鬼と死人たちとの戦いを、気配探知によって観戦していた俺は、このままだとジリ貧だと思い重い腰を上げようとするが、それを遮るかように腐餓鬼が動いた。
黒い刀を持った死人と睨み合いを続けている腐餓鬼は、何を思ったのか一歩後ろに引いた。
そして、にやりと顔を笑みの形に歪ませると、己の背後。正確には、左斜め後方に鎮座していた大岩を両手でつかみ持ち上げると、スキル『威圧』によって動きを停滞させている死人たちに向かって投げ放ったのだった。
投石というよもやそんな頭を使った行動を腐餓鬼がとるとはまったく思っていなかった死人は、ちっと舌打ちをしたかとおもうと、仲間の死人たちに向かって投げられた岩に向かって加速する。
死人は岩の前まで来ると、はっ気合の声を放ち、飛んできた岩を一刀のもとに切り伏せようとしたが、さすがに岩の方が黒い刀よりも頑強だったのか。黒い刀で岩を何とか受け止めたものの。その場に動きを縫い付けられてしまう。
そこへ、にいぃっと嫌らしい笑みを浮かべた腐餓鬼が現れて、岩を受け止めた死人の脇腹を右拳で思いっきり殴りつけた。
腐餓鬼に殴りつけられた死人は、ぐはっと呼気を吐き出しながら10メートルほど吹き飛んで、朽ち果て崩れ落ちた家屋の瓦礫の中へと落下していった。
これで邪魔者する者がいなくなった腐餓鬼は、スキル『威圧』によって、未だに体の動きを停滞させている二体の死人を生きたまま喰らい始めたのだった。
そして、腐餓鬼が死人の村を蹂躙し、死人たちを駆逐したのをどこからか聞きつけた餓鬼が、腐餓鬼のおこぼれにでもあずろうというのか、死人の村に溢れかえった。
「ぐおおおおおおおお―――っっ!!」
骨の刀を持った二体の死人に止めを刺した腐餓鬼が、怒号のような雄たけびと共に進化の光に包まれる。
光が収まったその後には、死人の村を蹂躙し、死人の戦闘部隊を退けたために、大量の経験値を得て、餓鬼王に進化した腐餓鬼の姿があった。
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