第一五話 餓鬼王

 灰褐色の肌に、これでもかというほどに盛り上がった筋肉。


 そして、六,七メートルはあろうかというほどの、岩山のように成長した。巨大で強靭な肉体。


 もはや進化した腐餓鬼は、餓鬼。という種族を超越するほどの力を得ていた。

 

 俺は腐餓鬼の腹の中から鑑定をかける。

 

 鬼の鑑定に成功しました。

 

 名前 なし

 種族 餓鬼王(がきおう)

 レベル 1

 HP650/650

 MP0

 攻撃力60

 防御力20

 素早さ3

 呪力0


 スキル 風圧拳レベル1

     大威圧レベル1


 ……これって、やばくね? 俺こいつの腹からますます出られなくなってんですけど、しかもスキル風圧が風圧の上位互換っぽい風圧拳になってるし、威圧も、大威圧になってるし、俺餓鬼王の腹の中から出たら一発じゃね? 


 餓鬼王を鑑定し、俺は俺に死亡フラグが立ったことを知った。


 どないしよ。


 そうして俺に、死亡フラグがたったころ。


 先ほどの腐餓鬼。否、餓鬼王の攻撃を受けたにもかかわらず、吹き飛ばされた瓦礫から立ち上がるものがいた。


 腐餓鬼に吹き飛ばされて、家屋の瓦礫の中に落下したために、体中に手傷を負った黒い刀を持った死人だ。


 もはや満身創痍とも呼べるほどの手傷を負った死人は、餓鬼王に進化した腐餓鬼を見て、苦虫を噛み潰したかのように顔を歪ませ、自分の仲間が元いた場所に視線を向ける。


 当然死人が視線を向けた先にいは、先ほど威圧を受けて動きを停滞させていた死人の姿はなく、その残骸のみが残されていた。


 それを目にして、死人はフルフルと体を震わせると、歯を食いしばり、突撃を始めた。


 今更進化し餓鬼王となった腐餓鬼に突撃をするなど自殺行為だ。


 俺は、死人の思考回路の浅はかさに、内心バカにしていた。


 だが、死人が突撃を開始したのは、餓鬼王となった腐餓鬼ではなく、餓鬼王が蹂躙した村のおこぼれにあずかろうと、この地に現れた数百に上る餓鬼の群れだった。


 あいつ何を……俺が強化された気配探知で、死人の行動を不審がっていると、ある考えが俺の脳裏に閃いた。


 まずい。そういうことか。死人の考えを読んだ俺は、内心焦りの声を上げる。

そう、奴は、おこぼれ目当てにこの場に集まった餓鬼どもを殺戮し、経験値稼ぎをしようとしているのだ。


 そのことにこの場にいた誰よりも早く感づいた俺は、餓鬼王の腹の中から声を上げる。


「おいっあの死人を今すぐ殺せ!」


 だが、巨大化した餓鬼王の耳に俺のか細い声は届かない。


「おいっ聞いているのか! 今すぐ奴を殺せ! でないと取り返しのつかないことになる!」


 だが、俺の声は進化で腹が空きまくり、おこぼれをあずかろうと、空腹でこの場に現れた餓鬼を片っ端から捕食しまくる餓鬼王には届かなかった。


 いや、よしんば届いたとしても、餓鬼王といえど所詮餓鬼。その頭の悪さは他の類を見ないのだ。俺の言葉などどこ吹く風と聞きはしなかっただろうが。


 俺の声など一切耳を貸さずに、この場に集まった餓鬼たちを餓鬼王が捕食していると、とうとう進化分の経験値を得たのか、進化の光が死人の村に灯った。


 気配探知外からでもわかるほどの圧倒的鬼気。


 そう、それは餓鬼王に勝るとも劣らぬほどの鬼気を孕んだ強者の生まれた気配だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る