第一二話 寄生生活の危機
腐餓鬼の腹の中で、強制パワーレベリングをしていた俺には、新たに寄生のスキルが増えた。
なんか人聞きの悪い寄生虫のようなスキルだが、今は弱い俺の生きるための知恵が産み出したと思っておこう。
まあそんなこんなで、腐餓鬼の腹の中でうまい具合に、俺が寄生パワーレベリングをしていると、不意に腐餓鬼が、悲鳴に近い雄叫びを上げた。
「があああっ⁉」
俺は普段悲鳴など滅多に上げない腐餓鬼の悲鳴を聞いて、眉根を寄せる。まあもちろん眉毛何てないから、気分的な感じでだ。
で、腐餓鬼の悲鳴を聞いた俺は、辺りの気配を探知しようと意識を集中して警戒する。
腐餓鬼の腹の中から辺りを警戒してどうする? と言われるだろうが、俺はここ数日。腐餓鬼の腹の中にいつつ、外の状況を知ろうと意識を集中させていたために、自分のいる野外の気配を知ることができる気配探知スキルを得ていた。
そのために、腐餓鬼の体の外で起きている出来事が、どこぞの仙人のようにある程度感覚的に把握できるようになっていた。
まあ把握できるといっても、腐餓鬼の半径1、2メートル程度に腐餓鬼以外の気配があるかどうか程度だが。
で、俺は気配探知を介して知ることになった。
今、腐餓鬼の回りには、何体かの腐餓鬼以外の化け物などがいて、腐餓鬼がそれと戦っていること。
そして戦況があまり芳しくないことをだ。
腐餓鬼というのは、体はでかいが、餓鬼の進化体であるために、贔屓目に見てもあまり頭がよくない。多分知能的に言って、頭のいい個体でも、ネズミに毛が生えた程度だ。
とはいえ、腐餓鬼も進化体ゆえに、その力は強く。ここいら辺りの敵である餓鬼や死人程度に遅れをとるはずもない。ならばなぜ腐餓鬼が、遅れをとっているのか? その答えは俺の気配探知を介してみれば簡単だ。
どうやら腐餓鬼を取り囲み攻撃を加えている奴らは、数体で連係をとり、交戦しているようだ
残念なことに頭のできがかなり悪い部類の腐餓鬼の奴は、その連係に対応できずに、追い込まれているらしかった。
俺はこのままではまずいと思いつつも、腹の中から何とかして腐餓鬼を援護することはおろか、腐餓鬼の腹の中から、飛び出して逃げることもできなかった。
なぜなら腐餓鬼と交戦している奴らが、俺の懸念している腐餓鬼の『風圧』の上位スキルや『威圧』スキルをもっているかもしれないからだ。
それに、頭は悪いとはいえ、四体がかりとはいえ、俺が手も足も出ずに丸飲みにされた腐餓鬼を追い詰めているのだ。
腐餓鬼と交戦している奴らが俺より弱いはずがない。
その場合俺が腐餓鬼の腹の中から、飛び出した瞬間にやられる。
腐餓鬼に頼りきりの寄生生活で、すっかり弱気になっていた俺は、腐餓鬼を腹の中から援護するか、それとも腐餓鬼の腹の中から飛び出して逃げ出すか、決断できずにいた。
どうする? どうすればいい? 俺が迷っている間にも、俺の宿主である腐餓鬼は奴らに追い詰められていく。
何とかして腐餓鬼の腹の中から援護攻撃を行うか? それとも今すぐ腐餓鬼の腹から飛び出して逃げるか? または宿主である腐餓鬼を信じて、このまま事の成り行きを見届けるか?
たった数日まともな戦いから離れていただけで、生き残るために、強くなろうと決めていた俺の心は弱くなっていた。
そうして、俺が決断できずにいると、度重なる交戦の末に、とうとう腐餓鬼の巨体が、地面に膝をつく。
そこへ連係して腐餓鬼を追い詰めた奴等のリーダーと思わしき何者かが、腐餓鬼に止めを刺そうと、腹の中にいる俺にもわかるぐらいの殺気を放った。
俺はその殺気を気配探知によって、肌で感じながら俺は自分の末路を悟った。
今度こそここで俺は終わる。と、何もできず、ただ寄生している腐餓鬼の腹の中で、惨めに惨たらしく死ぬと。
嫌だなと思った。
死力を尽くし、戦って死ぬならともかく、ただ寄生している宿主である腐餓鬼が負けたから、ついでに俺も殺される。
それは嫌だな。と、俺は思った。
なんていうか、なんの抵抗もせずに殺されるのは、納得がいかない。
こんな死に方は受け入れられないと俺は強く思った。
そのとき不意に、ほんの数日前に自分が、自分の意思で決めた事を、俺は思い出していた。
決めたじゃないかあの時っ生き残るために強くなると! そうだ。俺は生き残るために強く、ならなければならない! ならば、コンナトコロデ寄生したまま、死ぬわけにはいかない!
俺の死ぬわけにはいかない! という強い想い。強い感情に呼応したかのように、俺の大火の体が火の勢いを強め燃え上がる。
完全に迷いを吹っ切り、もはや生き残ることしか考えられなくなった俺は、気配探知を駆使して俺ごと腐餓鬼に止めを刺そうとしている個体に向けて、今の俺の持てる最大のスキル『大火』にありったけの呪力を込めて解き放った。
俺が解き放った『大火』は、俺の住んでいる腐餓鬼の胃袋から食道を通って、腐餓鬼の口へとせり上がり、腐餓鬼の口から腐餓鬼に止めを刺そうとしていた個体にまるで火炎放射のように勢いよく降り注いだ。
腐餓鬼に止めを刺そうとしていた個体は、いくらなんでも腐餓鬼が自分の弱点属性である炎を口から吐き出すとはまったく思っていなかったのか、完全に不意を突かれて腐餓鬼を通して吐き出された俺の大火を全身に食らって火だるまと化した。
そして、あとは腐餓鬼に止めを刺すだけだと完全に油断していた奴らは、腐餓鬼に止めを刺そうとしていたリーダーらしき個体がやられてしまうと、あまりに予想外の出来事にその場で足を止めてしまう。
それが致命的だった。
例え腐餓鬼に止めを刺そうとした個体が不意打ちでやられたとしても、別の個体が、腐餓鬼に飛びかかり止めを刺していれば、この戦いは彼らの勝利で終わっていたはずだ。
だが、彼らはそれをしなかった。
いや、できなかった。
彼らは、あまりに予想外の反撃にあい群れのリーダーを失ってしまったがために、彼らは次の行動がとれなかった。
それが彼らの敗北へと繋がった。
そうして、リーダーをかき次の行動がとれなくなった彼らは、先ほどまでの連係がまるで幻であったかのようにして、瞬く間に腐餓鬼に生きたまま貪り喰われていった。
もちろん腐餓鬼に貪り食われ瀕死状態で胃の中に落ちてきた奴らを、俺が跡形もなく焼き尽くしたのは言うまでもない。
ちなみに奴等の正体は、死人だった。
死人とは、文字通り死んだ人の姿をし、ボロボロの死に装束を身に付けた者のことだ。
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