第十話 食事

 腹が減った。


 この世界に生まれ落ちてから始めて、腹が減った。


 しかもとんでもなく。


 これが飢え。という奴なのだろうか? そんな俺の視線の先には、元餓鬼だった。腐餓鬼が喰らったお肉の山。


 ・・・・・・


 いやいくら腹が減ったといっても・・・・・あれはな・・・・・・思いながらも、俺の視線はお肉の山である餓鬼山から一向に離れようとはしなかった。


 あのこれ・・・・・・俺が食いたいわけじゃなくて、なんつーか。あのお肉の山もとい餓鬼山に妙に食欲を刺激されるわけで・・・・・・


 ゴクリと、大火に進化した俺は、火の玉にはないはずの喉を大きくならした。


 これってやっぱ進化したのが原因か? 進化すると多量の栄養を欲するために大量の食べ物が必用とか、よくラノベとかに書いてあったし、今がまさにそれか。


 俺は、自分の状態を冷静に分析しながらも、腹のそこから沸き上がる食欲。いや食欲を通り越した飢えに抗うことができず、それはしてはいけない。そこにいっては行けない。それを口にしては行けない。と思いながらも、俺の考えとは裏腹に、俺の火の玉ボディは、お肉の山である餓鬼山に向かっていた。


 そして数秒ののち、我知らずに俺は、無意識に餓鬼山で餓鬼の死骸を貪っていた。


 かぶりつくかぶりつくかぶりつく。


 ムシャムシャムシャと、咀嚼する。


 呑み込む呑み込む呑み込む。


 今までの飢えを払拭するかのように、腹に詰め込む。


 ゴクリと何度めかのえんかする音を響かせて、ようやく俺は、落ち着きを取り戻した。


 やっちまったよりによって、人間型のモンスターである餓鬼を喰らっちまった。


 俺は、人型のモンスター餓鬼を、喰らい腹は満たされたものの人としてのなにかを失ってしまったのだった。


 俺は、諦めに似たため息を突きながらも、餓鬼の地肉で汚れた口許を手の甲でぬぐう。


 ん? 手の甲? そういつの間にか火の玉である俺に腕が生えていたのだ。


 腕がある。俺は自分に腕が生えたことの喜びにうち震えるとともに、この腕を使って餓鬼山の血肉を貪ったのかと思い吐き気を催したのだった。


 やってしまったことは仕方ない。


 俺は、モンスターや妖怪と呼ばれる類いなのだ。


 こうしなければ生き残れなかったと思い込み。俺は無理矢理に自分を納得させた。


 そして、先ほど極度の飢えにより、無意識に餓鬼山の血肉を貪ったというのに、未だに俺の腹は満たされてはいなかった。


 今度は俺は自らの意思で残っている餓鬼山へと向かう。


 一度やってしまったのだ。今さら飢えを我慢しようというモラルは、今の俺にはなかった。


 俺は餓鬼山にたどり着くと、目の前に積み上げられている醜い餓鬼の死骸の山を見つめながら、目を閉じた。


 そして進化により新たに得た両手を餓鬼山に向かって突き出すと、意を決して餓鬼の死骸へとてを伸ばし、掴み、口に放り込んだ。


 だがいつまでたっても、生の血肉を咀嚼するような味覚や食感は、俺には訪れなかった。


 ん? どういうことだ? 確かに俺は餓鬼の死骸に手を伸ばし、口に運んだはずだ。だというのに、餓鬼の血肉を口にいれた食感はおろか、感覚すらないなんて? 

 そう思いながらも俺は恐る恐る視覚の感覚を開いた。


 それから自分の抱いた疑問を払しょくするために、先ほど行ったことと同じことをしてみる。


 つまり、俺は自らの空腹を満たすために、餓鬼の死骸を手に取り、自分の口に放り込んだのだ。


 視覚の感覚を開いて、自分の一連の動作を見つめていた俺は、ある飛んでも事実に行きついた。


 それは、俺が餓鬼の死骸を手に取り、自分の口元に持って来ようとする過程で、餓鬼の死骸が火力を増した俺の炎によって炭化し、俺が口許まで運んでいる間に灰となって、俺の手からすり抜けて、腐餓鬼の胃袋のそこへと落ちていったからだ。


 このことから推測するに、どうやら俺は物を掴んで食べることができないらしい。けれども、俺は先ほど餓鬼の死骸を貪った。おかげである程度腹も満たされた。

 

 う~ん。いったい何がどうなっているのだろう?


 俺は訳がわからず悩み始める。


 そして幾ばくかの時間が経過したとき、ふと一息つこうとして、俺は思わず俺の体から漏れでる炎に引火して燃え上がる餓鬼の炎を少し吸い込んでしまった。


 炎を吸い込んでしまい俺は、思わず炎を口から吐き出そうとするが、そこであることに気づく。


 あれ? 今なんか一瞬。腹が満たされなかったかと。


 俺は今自分のみに何が起こったのかを必死に思い出してみた。


 今俺がやっていたのは、悩んでいたで、一息つこうとして餓鬼に引火した炎を吸い込んでしまった。


 もしかして⁉ 俺は火の玉だ。だから、物質ではない。その証拠にチートだとかってに思い込んでいたスキル『物理無効』がある。


 だが『物理無効』は、逆にこちらからも、物質に触れない。ということは、体の構造上俺は普通の飯は食うことができない。なら俺の飯は何か? なにも食べなくても生きていける? いやそれだと先ほど経験した進化時の飢えが説明できないし、先ほど飢えて我を無くして餓鬼の死骸を貪って、飢えが引き意識を取り戻したのはおかしい。ならば俺の食べ物はいったいなんであるか? 


 俺はある確信を持ちながら、見える範囲の餓鬼山を自分の進化した体で通過して燃え上がらせた。


 燃え上がった炎は、当然の如く俺をも包み込み腐餓鬼の胃袋内を火の海と化した。


 それから俺は、ある実証実験を開始した。


 そう、俺は火の海と化し腐餓鬼の胃袋内の炎を思いきり飲み込んだのだった。


 こんなことをすれば普通の体ならば、体の内を炎が蹂躙し、内蔵といわず体の肉と言う肉。骨と言う骨が、焼かれ、熱せられた血液は沸騰し、蒸発していただろう。


 だが俺の体は火の玉。炎そのものなのだ。


 だから俺の体の中は炎に蹂躙されず、内蔵も肉も骨も焼かれず、血液も蒸発しなかった。


 まあ元々ないものは、焼けないし、蒸発もしないんだけどね。


 で、この自分の体を使った実証実験によりわかったことは、俺の体は物質を食うことができない代わりに、俺が燃やした物質の炎を俺が食べることができるということだった。


 そのおかげで今は進化による飢えや、先ほど感じた空腹感はなりを潜めている。


 それからもう一つ副産物として、わかったことがある。


 俺の体が炎なのかどうなのかは、わからないが、俺の体は炎に包まれると、HPが回復するらしい。


 多分最初のころ。HPが回復したのも、レベルアップによる恩恵でなく、ただ単に俺が、燃やした餓鬼の炎の中に俺がいたおかげだった。可能性があるこのことはまた要検証だ。


 こうして、俺の体の構造が少しわかったのだった。


 追伸。

 

 俺が腐餓鬼の胃袋の中を火の海にしたことで、腐餓鬼の奴が三日三晩腹を押さえながら苦しんでいた。


 俺を食った報いだ。


 ざまあと俺が内心ほくそ笑んだのは、腐餓鬼の奴には内緒だ。




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