父親はアレだが、母親は真面目な人が多い。 07

「ごめんな、二人で旅をする予定だったからこの程度の物しか提供できない」

「だ、大丈夫です! 盗賊達に食べさせられていた食料よりは豪勢です」


 幼女達のリーダー、アリアちゃんが先導して幼女達のことを守ってくれる。

《十才くらいなのに真面目で出来上がった子供だな、将来が楽しみだ》

(良いお母さんになるだろうね)

 にしても、最初の街、改め、最初の国に戻るとシャブ中やクラスメートと一戦交えることになるよな、正直、面倒くさいわ。

《でも、幼女達には変えられない》

(お母さん、お母さんって声を聞くと心を握りつぶされたような、そんな、辛さが巡るんだよ)

 まあ、いいか、聖剣の忘れ形見の壊れ性能を見せつけられましたし。


「干し肉と乾パン、缶詰、少量だが野菜スープ、これだけで足りるかな」

「お兄さん、良い人ですね......」

「兄者はそういう人だから」


 にしても、食料の調達をするのが面倒くさいよな、どうせ、指名手配とかされてんだろうし。

《正直、宗教上の関係で指名手配とか凄いよな》

(まあ、可能性の段階で階段だし、指名手配されてない確率に賭けようぜ)


「みんな、ご飯食べれた? 食べてない人は手を上げて」


 大丈夫なようだな、これで出発出来る。

《でも、子供の食欲は大人の数倍だ、早く帰ってお母さんの手料理を食べさせてあげないと》

(そらそうなんだが、この馬車の馬が遅いから、半日はかかるな)

 到着の時刻は夜の八時くらいか、変質者と間違えられないことを祈りたいな。

《まあ、人助けをして悪者と間違えられるのは人間の常だからな》

(人間の疑心は怖いものだ)


「お兄さん、名前はなんて言うんですか?」

「ん? 綿瀬浩二」

「じゃあ、親しみを込めてワタセさんって呼んでもいいですか?」

「あ、いや、俺の故郷は上が苗字、下が名前だから、親しみを込めるならコウジさんの方が正しいかな」


 アリアちゃんかわいいよ、ペロペロ。

《お巡りさん、この人です》

(通報しますた)

 おまえらも同罪だろうが!

《(てへぺろ♪)》


「......兄者のフルネームはじめて聞いた」

「いや、聞かれなかったから」

「ミャーとても怒ってる」

「ごめんなさい、お魚定食で許してください」

「許す」


 猫だな、

《猫だもんな》

(猫ですもんな)


「でも、お母さん達は大丈夫なの? 一応、攫われたんでしょ......」

「それは大丈夫です。私達は遊んでる時に攫われて......」

「じゃあ、全員知り合いなんだ」

「はい、全員仲良しなんです!」

「それはいいことだ。優しいお姉さんがいてくれてよかったね」


 幼女達は共感してキャッキャウフフと会話続ける。

《檻から出られた開放感と満足な食事を取れたという幸福感からの笑顔だろうな》

(幼女の笑顔は美しい)



 夜の八時くらい。

《ようやく到着》

(馬を操作するのも大変だな)

 幼女達は眠ってるな、どうする? 起こす?

《まあ、起こすしかないだろ、檻の中で寝られても犯罪者にしか見えない》

(じゃあ、起きてもらいますか)


「みんな、到着したぜ」


 ああ、幼女の寝顔は最高だが、眠たまなこも最高だな、トロンとしてやがる!

《ああ、最高だ。これでご飯三合は確実に食らえる》

(理系、甘いな! 私は五合だ!!)


「よし、みんな檻から出て、お母さんのところまで付いて行くから」

「ありがとうございます!」


 幼女総勢十二人を引き連れて街の中に入る。するとすぐに声をかけられた。


「ニーナ!?」

「ママ!?」

「嘘でしょ!? キャシー!!」

「お母さん!!」


 続々と幼女達のお母さんが現れて存在を確かめるように抱きしめるのだ。

《ああ、とても美しい絵だな、写真に残したい》

(だが、我々にはこの姿を残す術がない)

 理系、写真の作り方わかる?

《明治維新の頃のカメラ、ダゲレオタイプなら作れるが、風景くらいしか撮れないぞ?》

(フィルムカメラは流石に無理か......)

 まあ、期待はしてなかった。複雑だもんな、構造を理解していても、部品やらを作るのは。

《流石の俺でも、フィルムカメラを二三日で作り上げろと言われたら無理ですとしか言えないな》


「占いは本当だったんだわ! 青い服を身に纏った男と猫人族の少女が少女達を守りて現れる。男、対価を求めずして、休憩と少しの買い物をして街を去る」

「ありがとうございます! うちの娘を......」


 うん、マダム達の感謝はあんまりいらないかな、趣味じゃないので。

《俺達、ストライクゾーン狭いからな》

(でも、人妻じゃなければ余裕で手を出せる)


「わ、綿瀬!?」

「逃げた筈なのに何で!?」

「邪神の申し子か!!」


 うへ、予想通りの展開ですぜ......。

《でも、こいつらから逃げたら買い物が出来ないよな......》

(倒す? 大多数じゃなくて二人だし)

 でも、倒す=殺すだろ? 正直、人間は殺したくないでござる。

《不殺の誓いをたてたからな》

(そんなのたてたっけ? まあ、人を殺したくないのは確かだな)

 じゃあ、肉弾戦でどうにかするしかだな。

《でも、あいつら普通に剣抜いてるぜ......》

(まあ、私達はクラスで浮いてたし、ボッチだったし、殺しても問題無いか程度の考えなんだろ)

 人間って、そんなに簡単に人を殺せるような脳みそしてるんだっけか?

《少なからず、異世界では合法だから殺してみたいと思ってるんじゃね》

(人殺しが合法とか、アフリカの荒れた場所じゃないんだからさ......)


「ちょっと! 教会の連中がこの人を邪神の申し子なんて言うのよ!! この人は私達の娘を親切に送り届けてくれたのよ!?」

「だが、この男は邪神に魅入られた男なのです! 世界に悪い影響しか――」

「悪い影響を及ぼす人間が人助けをするわけがないでしょうが!!」


 母は強し、わかるんだね、ハッキリと。

《これでどうにかなりそうだな》

(マダム達のお陰で一日くらいは休憩出来そうだ)


「マリオさん、俺達はどうしたら?」

「邪神の申し子を殺してください!」

「OK、なら、早速......退いてくれない? 危ないからねお嬢ちゃん」

「何で人助けをした人を殺そうとしているんですか? 貴方達は気違いなんですか!」


 アリアちゃんがクラスメート二人の前に立って、行くてを阻む。

《やべぇな、こりゃ、下手すると殺しかねないぞ奴ら》

(幼女の命はショタの命三つ分、何時でも介入できるように聖剣の忘れ形見は抜いておこう)


「退け! そいつはエリアさんの願いを阻む奴なんだよ!!」

「神様の願いでも絶対に引きません!」

「面倒くさい......」

「おまえ! 何やって――」

「こうするんだよ......」


 聖剣の忘れ形見で刃を受け止める。

《流石はクラスで一番の異常者。成績優秀、才色兼備、だが、人嫌いで喋る相手は一人だけ、名前は晴山健一だったかね? で、隣の凡人は山下香だったか》

(子供に刃を向けるなんて人間じゃないな......)

 おい、こいつだけは殺すぞ?

《髪の毛一本残さない......》

(死に場所も選ばせない......)

『《(――この世界から完全に消してやる!)》』


「アリアちゃん、危ないからこっちに来て」

「ミャーちゃん......」

「兄者、物凄く怒ってる......だから、何よりも危ない......」

「コウジさん......」


 聖剣の忘れ形見を鞘に仕舞い込んで、ファイティングポーズを取る。

《殺したいのは山々だが、今更だけど子供の前で殺人はよくないということを理解した。殺しはしない。だが、八割殺しにしてやる》

(案外、私達って律儀だからな)


「武器を下ろしな......糞餓鬼共......」

「お、お祖母ちゃん!?」

「ったく、孫の帰りを喜んでたら、孫が勇者とかホザイてる糞餓鬼に殺されそうになってるわ、孫の命の恩人が殺されかけるわ、この国はどうなってんだか」

「婆様!?」


 ローブを着込んだ六十代のお婆さんが杖をついて現れる。

《アリアちゃんのお祖母ちゃんのようだな》

(なんか、シャブ中の反応を見る限り、結構な権力者のようだな)


「アンタ達、この糞餓鬼共を連れて早く消えな」

「で、ですが、この男は邪神の申し子ですぞ!!」

「確かに、この男からはその二人の餓鬼のようなエリア様の黄金の加護は感じられない。逆にアメジストのような紫色の加護が見え隠れしている」

「で、でしたら!」

「アンタ達忘れたのかい! 邪神の加護の色は漆黒、紫色では断じてない!!」


 紫色の加護? ああ、ハーデース様から貰った力のことね。

《つまり、俺達のことだな》

(まあ、少なからず私達はエリアとかいう神様に敵対する気は一切無いしな)


「......勇者様、ここは引きましょう。婆様は国の権力者、我々のような聖職者では、抗えません」

「......だが、奴は俺の剣を受け止めた。それは死闘を受けたということではないのか?」

「そら、女の子に攻撃しようとしてる奴を止めるのは当たり前だろうが、頭のネジ吹っ飛んでんじゃないのか?」

「いいだろ、合法的に人を殺せる機会なんだ。気持ち良く殺されてくれよ......」

「《(少なからず、子供を殺そうとする奴に殺される気は微塵もない!)》」


 ああ、腹立つ。何が死闘を受けただとか、合法的に人を殺せる機会だとか、気持ち良く殺されろだとか、何で俺に勝てる前提で話を進めてるんだよ、ムカつく! 子供が居なかったら確実に息の根を止めてるわ......。

《一人称が俺と被るだろうが、まあ、それくらいキレてるのはわかる。俺もキレてる》

(さあ、どうする? 殺すか......)

 駄目だ、子供にトラウマを植え付ける気は微塵もない。

《そうだ、俺達は奴のような見境の無い殺人は求めていない》

(すまない、忘れていたよ)

『《(望みは女の子の笑顔のみ!)》』


「すまないが、今日は引いてくれ。俺は子供に血を見せたくない主義なんだ」

「自分の血をか?」

「それもある。だから、おまえを殺せないし、殺されたくない」

「弱いな」

「弱くていい、子供の未来をより良いものに出来るのならな」


 聖剣の忘れ形見で攻撃を受け止め、間合いを取る。

《これがバトルジャンキーってやつか?》

(こいつもシャブを打たれたんだろ)

 ありえるな、多分、覚醒剤なんて生温い!

《C21H23NO5!》

(つまりは!)

『《(ヘロインだよな!!)》』


「受けるだけじゃあ、死に近付くだけだぞ?」

「近付いてねぇよ!」


 一撃、二撃、三撃、攻撃をすべて聖剣の忘れ形見で封殺し、奴が疲れる瞬間を待ち続ける。

《どんな人間も体力の限界が存在する》

(これだけ攻撃を何度も繰り返せば、絶対に息切れする筈なんだ)


「そこだ!」

「グフッ......!?」


 剣撃を弾いて鳩尾に左の拳を叩きつける。

《これで戦闘不能だ》

(制服を着ていたことが間違えだったな......隣の山下みたいに鎧を着ていたら、ワンチャンスあったかもしれないのにな......)

 倒れこんだ晴山の右手を蹴り、剣を地面に落とす。

《それを左足で弾いて、手に届かない場所に》

(そして、襟首を掴み)


「アリアちゃんに謝れ! おまえが命を摘み取ろうとした女の子だ!!」

「ぐうっ......」

「俺の命を狙うのは許してやる。だがな――俺の命を狙うために誰かの命を奪おうとするな! このキチガイが!!」


 シャブ中に向けて晴山を投げ飛ばす。

《カッコイイな、俺達......》

(最高にクールだぜ)


「アリアちゃん、一応は奴は俺のクラスメートだから、許してやってくれ......」

「あ、あの、コウジさん......」

「ごめんね、本当にごめんね......」


 頭を撫でてその場から立ち去ろうとする。

《本当に、クスリを打つ連中の脳内の回路を疑うわ》

(クスリ、ダメ、絶対!)


「あれ......なんか力が入らない......」


 ドバドバと血液が脇腹から流れ出てるんですが、これは?

《確実に刺さってますね、ダガーナイフ......》

(これ、確実に......)

『《(ヘロイン野郎の仕業だよな......)》』

 意識が消え失せる。


「お祖母ちゃん! 回復魔法を!!」

「今のうちだ......山下、奴を殺せ......」

「晴山! だ、大丈夫なのか......?」

「いいから、殺せ......奴は確実にエリアさんの願いの邪魔になる。殺さないと――この世界が壊れる......」


 山下は息絶え絶えになっている晴山を抱えて、綿瀬を殺すかどうかを考える。

 決心がついたと同時に母親達が綿瀬の盾になるように手を広げる。


「子供の命の恩人を殺させるわけにはいかないね!」

「それに、この子もまだまだ子供。あんた達みたいな質の悪い悪餓鬼と違って――筋の通った子供だよ!!」

「帰れ! もう二度と教会になんか行くか!!」

「旦那の御布施をやめさせます」


 宗教とは脆いもので、信仰が薄れる気配がしたら必ず聖職者が止めに入るものだ。


「これ以上、信仰が削がれたら我々はお終いです......帰りますよ勇者様......」

「......すまない晴山、命令だ」

「......次の機会に必ず殺す」


 三人は足早にその場から去った。


「本当、最近の糞餓鬼は躾けがなっとらん」

「お祖母ちゃん、コウジさんの怪我、治る?」

「兄者......」

「一応は国一番の魔導師兼ね、占い師じゃ、この程度の傷ならものの数分で治せる。それに、この坊主の体、酷く丈夫に出来ておる。見た目はヒョロイが、中身はちゃんと出来上がっていて、筋肉が刃を止めておる」


 まあ、出血性のショックで気絶してしまっているが。


「これで大丈夫、一日安めば出発できる」

「ありがとう、ございます......」

「こいつの妹か、大丈夫、目が覚めたら何時もの兄貴が現れる」

「兄者......」

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