馬を手に入れます。 05
さて、準備完了、すべてがオールグリーンだ。
《じゃあ、ワールドマップを使用して目的地を考えよう》
(よし、最初は魔王城を見学しに行こうぜ!)
いやいや、魔王城は最後の観光地だろ、他のクラスメート達の屍を楽しみながら魔王との握手を堪能して帰りましょうぜ。
《帰るまでが旅行です。魔王様は褐色の巨乳お姉さんを所望します》
(いや、物語的に色白のロリだろ)
それは神のみぞ知る世界だ。わかる? 神様くらいしか魔王様の肌の色なんてわからんわ。
《じゃあ、おまえはどんな魔王様をご所望だよ?》
(語学系の性癖を知りたい)
まあ、二十歳くらいのお姉さんが一番だな!
《ありきたりだろ、もう少し捻ろうぜ》
(でも、語学系の良いところはありきたりいいだからな)
おまえら死ねよ。
「兄者、最初はどこに行くの......」
「どこ行きたい?」
「......ノーランド山脈。わたしの故郷」
「遠いな、馬でも買うか?」
馬っていくらくらいするの?
《サラブレッドじゃなければ百万くらいじゃ?》
(安いのは五十万くらい?)
なら、一匹買っとくか、徒歩とか体育会系のオイラでも嫌だわ。
《だが、金に余裕がなくなるぜ?》
(そこはカジノ一択だろ)
ルーレットで三束程、稼ぎますか。
《ルーレットは確率論でどうすることも出来んぞ》
(大丈夫、私は運がいい)
それに、物語的にここで全財産を無くすとか今時の物語じゃねえだろ。
《そんな希望的観測に頼るなよ、いつか墓穴を掘るぞ......》
(理系先生はこういう時は真面目なんだから)
まあ、理系だからな。
《おまえら理系を馬鹿にしてるだろ......》
「馬を買いに行こう」
「お馬さん?」
「だが、すこし金が足らん。カジノに行くぞ」
「......ギャンブルはダメだよ」
「勝てばいいのさ、勝てば」
猫耳ロリのジト目いただきました!
《ありがとうございます!》
(我々の業界ではご褒美です!)
2
「コロンビア!」
「コロンビア?」
なんか、直感で緑(0)に賭けたら三十六倍の額で帰ってきた。ああ、鞄が重たくてしゃーない。
《お前達の悪運に悪寒がしたよ......》
(理系、文系は時に理に適わないことを平気で起こすんだよ......)
理系もそれを理解しようぜ、確率は絶対じゃない。時に確率は酷く乱れる。
《安全策を取るのも人生だぜ?》
(安全は快楽を伴わないぜ)
それ、シャブ中と同じ思想だから、文系。
「景品を覗いてみよう。なにか欲しいものあるか?」
「無い」
まあ、子供が欲しがるような物は何一つ無いからな。
《大人が欲しがるような穢れたものは大量にあるんだがな》
(子供は大人の汚れを注意深く観察するからな......)
「じゃあ、馬を買いに行こう」
つか、三千八百万もあったらそれなりのサラブレッド買えるだろ。
《サラブレッドは競争する馬だから長旅には不向きだぞ》
(まあ、それでもそれなりの馬を買いましょうぜ)
なら、三千万くらいのを買いましょう。
《妥当だな、正直、重くてしゃーない》
(札束って案外重いんだよな)
それに、福沢諭吉が書かれてないから玩具にしか見えないしな、使うのに抵抗が無いんだよ。
『《(だよなぁ~)》』
「あ、暴れ馬だ―!!」
「勇者様に贈呈される馬が逃げ出したんだ!!」
「誰か! その馬を止めてくれ!!」
うわ、なんか、物凄く大きくてカッコイイ馬いるじゃん。あいつ買おうぜ!
《でも、勇者様に贈呈される馬なんだろ?》
(私達も勇者だ。聖剣持ってるし)
《いや、それ、聖剣の忘れ形見だから》
聖剣に変わりはない。これは完全に聖剣だ。
「さて、馬を手懐ける方法を知ってるか?」
「えっ? 何で服を脱ぐの......」
「馬は金属が大嫌いだ。だから――」
パンツ一丁で餌を与える。
《まあ、金属大嫌いだからな、馬って》
(じゃあ、餌を買って手懐けるか)
露店に並んでいた人参を購入して暴れている馬に近付く。
「おまえ、俺の馬になれ」
あれ? 普通に人参食ってやがる。
《もしかして、腹が減ったから暴れてただけかよ......》
(まあ、でも、落ち着いたからいいんじゃねぇの?)
「つか、本当にお腹すいてただけ? 勇者の馬になりたくないとか、そういう理由じゃないわけ??」
やべぇよ、これ、本当に空腹で暴れている馬だよ......。
《じゃあ、こいつ、もう暴れないから手懐けられない》
(ああ、シャブ中がゾロゾロと......)
「邪神の申し子!?」
「わ、綿瀬くん!?」
「な、なんで裸なんだ!?」
ああ、面倒くさい、物凄く面倒くさい。
《てか、なんか物凄くカッコイイ装備に身を包んでるんだけど? 絶対にカジノで手に入れた装備じゃないよな......》
(勇者の装備だろ、勇者の装備さ、私達の聖剣の忘れ形見なんて鼻くそ程度なんだろ)
大丈夫、オイラ達にはロリな猫耳妹がいる。奴らには無いものだ。
《でも、その妹が物凄く嫌そうな顔で睨んでるぜ?》
(だが、これが正しい馬の手懐け方だろ)
「すいません、服着る時間貰っていいですか?」
「「「あ、どうぞ......」」」
案外優しいのな。
《優しい世界》
(悲しい現実)
『《(妹に嫌われたかもしれん)》』
「さて、馬を買いに行くぞ」
「あのお馬さんを捕まえるんじゃないの?」
「まあ、事態が事態だし、ね?」
正直、あの馬、絶対にオイラに懐かないと思うんだよ。
《正直、もう少しカワイイ馬がいいよな》
(いっそのこと、馬耳の女の子を馬にしよう)
『《(いや、オイラ(俺)(私)が馬になろう!!)》』
「さて、逃げますか!」
「死ね! 邪神の申し子!!」
地面に叩きつけられるシャブ中。
《流石は体育会系、投技も駆使するのか》
(体育会系がいなければ、私達、死んでるんじゃね?)
『《(わかる、わかる)》』
「そ、その短剣は......聖剣の忘れ形見!? カジノで三億エリア分のチップでしか換金出来ない最強の短剣ではないか!」
「いや、使ってないから、まだ、抜いてないから、投げ飛ばしただけだから、説明しないで、恥ずかしい」
「この人達、勇者とか頭おかしい発言してるね......」
「うん、シャブ中だから」
流石はドライな妹ミャー、シャブ中共の頭のおかしさを理解しているのか。
《まあ、頭おかしいからな》
(理解のある妹は嫌いじゃありませんことよ)
「綿瀬くん! なんで、なんで邪神に心を!!」
「ミャー、あの人、俺の先生だったんだけど、すこし抜けてる部分があるから可哀想な瞳で見ないであげて」
「うん、わかった」
あの先生は悪い人じゃないんだ。でも、人の話を真に受けるタイプなんだ。
《正直者がなんとやら》
(シャブを打つような連中の口車に乗せられて.......)
「じゃあ、面倒くさいから俺達行きますね」
「ちょ、その子はどうしたんだよ!? 誘拐したのか!!」
「いや、カジノで一発当てたから奴隷商で買って、今は妹にしてる。なあ、ミャー」
「うん、言葉の意味そのままにわたしは兄者の妹です」
「「「ど、奴隷だってー!?」」」
クラスの男子達が興味を持った。
《残念だが、あの奴隷商には、ミャー以外の美少女は存在しない。リザードマンとマーマンの姿を見て落胆するのだな!》
(貴様らの欲望は我が札束で終止符が打たれている!)
「信じられない! 綿瀬くんがそんな人だったなんて......」
こいつら、チンパンジー以下の脳みそしてるな、霊長類の恥晒しだわ。
《ミャーは俺達の奴隷じゃなくて妹、人権与えてますよ》
(難聴なんだろ、ラノベ的な)
「面倒くさい。物凄く面倒くさい。逃げるか」
「うん、それが一番だと思う」
「に、逃げるのか!?」
「逃げるよ、だって――物凄く面倒くさいもん......」
ミャーを抱えて逃げようとしたら元暴れ馬がツナギの襟首を掴んだ。
《やべぇよ、こいつは一応はあいつらの馬になる予定だったんだし、俺達のことを拘束して......》
(糞! こうなったら聖剣の忘れ形見で......)
『《(あれっ?)》』
馬がオイラとミャーのことを背中に乗せて走りだした。
「ど、どうしたんだよおまえ......」
「多分、兄者か、あのクスリが好きなオジサン達と自称勇者達、どっちが信頼できるかって考えたら、わたし達だったんだと思う」
「《(なるへそ)》」
そら、あんな変質者より青いツナギの良い男の方が背中に乗せたいよな。
《いや、絶対にミャー目当てだろ》
(でも、こいつ雌だぜ?)
『《えっ? 牝馬なの!?》』
「じゃあ、名前を決めるか。一応は俺と旅をしてくれるんだろ?」
じゃあ、三人で考えよう。
《雄だったら、考えんが、雌だから考えるわ》
(一応は馬でも雌だからな)
酷い男差別だな、ホモに掘られろ。
《(実質、掘られるのはおまえだけどな!)》
じゃあ、名前どうするよ?
《そうだな、ネリネなんてどうだ?》
(じゃあ、私はエリカで)
そうだな、オイラは......こいつ、人参好きだし、キャロット、愛称をキャロにするわ。
《おお、それいいな、単純だが、可愛らしい》
(賛成、語学系にしてはいいネーミングセンスだ)
おい、文系、それはオイラに対する挑発か?
「じゃあ、今日からおまえはキャロット、愛称をキャロにする」
「よろしく、キャロ......」
つか、札束が重いんですけど......。
《飯代とエサ代がかかるし、多めに持っておこうぜ》
(そうだな、こいつの食欲がどれくらいのものかわからんし)
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