1-6.挑発

『こちら陽鞠、同期完了しました』


ヘッドセットから声が聞こえてくる。


『こちら大和、準備できてるっす』


『こちら綾乃、ポイントに到着。ライフルの準備するからもう少し待ってくれ』


「こちら華澄、了解した。私も準備完了。綾乃が終わり次第作戦を開始する」


『『『了解』』』


時折、拡声器の音声と男の怒鳴り声が聞こえる。

犯人は相変わらず聞く耳を持っていないようだ。


『あの、かすみちゃん?』


「どうした大和?」


「あやの先輩の黒のレザースーツはわかるんすけど、

かすみちゃんのそれ着替える意味あったんすか」


自分の服を見てみる。作戦用に作った白のドレス。たんぽぽ作。


「言いたいことわかるけど色々あるのよ、防刃防弾、色々と仕込めるし」


『ドレスである意味は』


「それはない」


『話してる所悪いが準備できた。いつでも行ける』


「分かった、陽鞠、何かある?」


『ないですよー』


「よし、作戦を開始する。大和、私も居るし後ろでは綾乃もライフルで狙ってくれてる。安心してやって頂戴」


『了解!』


ガタタン、と工場の門が開かれる音。

大和が中に入っていく。


「おい!誰だてめぇ!」


犯人の大声が聞こえる。


「魂魄管理局の大和っす。すこしお話しません?」


「うるせえなんだてめぇ!早く出ていけや!」


「お、落ち着いて落ち着いて、ほら腹減ってないっすか?ご飯持ってきたんすけど」


「メシ?」


声色が変わる。


「何持ってきたんだ?」


「えっと、鈴々亭のチャーシューメンっすね」


「……よこせ」


「え?」


「俺に渡せってんだよ!ほら、早く!」


暫くして麺を啜る音が聞こえてくる。


「効果抜群だなおい」


綾乃の呟きがヘッドセット越しに届く。

陽鞠が犯人のSNSを調べて


「ここのラーメンばかり食べてるみたいですし用意してみたらどうです?」


と、言うので準備したみたが。

相当お気に入りらしい。


『班長、今なら気が逸れまくってます!行っちゃってください』


「オッケー」


陽鞠からの指示と同時に裏口から入り込む。

迷うこともなく人質が見えるところまで来れた。

奥ではもう食べ終わったのか、大和と犯人が話している。


「そんなにうまいんすかそこのラーメン」


「そりゃもう、なんつーかコクというか深みというか……」


人質の一人がこちら気づいたのでしぃーっと唇に指を。わかってくれたのか強く頷いてくれる。


「こちら華澄、予定通り到着。いつやってくれても大丈夫」


すると大和が突然話題を変える。


「そもそも何でこんなことやってんすか?」


「うっせえな。金だよ金。借金返さねえと」


「借金って何に使ったんすか?」


「競馬に競艇にパチンコスロット……まぁいくらでもあるわな」


説得する気なのだろうか?


「でもこんなん結局捕まりますよ?いいんすか」


「大丈夫だよ、俺には力があるしな」


「力?」


「知ってんだろ?加熱能力だよ。今時金属加工には必須だって言うから取ってやったのに……給料安すぎんだよ。

でもまぁ、いいんだ。役に立ったしな。

さっきも二人、これで焼いてやったんだよ」


私の頭の上の紙束がいきなり燃え散った。

人質から短く悲鳴が。


「加熱能力……」


大和がまたもやおかしなことを言い出す。


「俺にちょっとやってみてくださいよ」


「『『は?』』」


陽鞠、綾乃、犯人と変な声が。私も思わず顔を出して大和の方を見た。


「お前、何冗談言ってんだ?」


「あ、どこ狙えばいいかわかんないすか?

じゃあここで」


とか言って右腕をつき出している。

困惑していた犯人が徐々に苛立ち始める。


「おい、てめぇなめてんのか?どうせ俺にできねぇとか思ってんのか?」


大和は答えない。


「聞いてんのか?おい、無視してんじゃあねぇよぉあぁぁぁ!!?」


遂にキレた犯人。

大和の右腕に精神エネルギーが集まるのが見える。

陽鞠と綾乃が避けろと叫ぶが動く気配がない。

体勢を低くする。

できれば温存したかったけど、こういう時の為の能力だ。


小さな声でその名を呟く。


「先観眼」

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