1-1.ピーピング

「ではまず、魂魄研究の歴史についてだが。まず27年前、これは今も魂魄研究の第一人者であるリーゼンス・アルバ博士が提唱した……」


広い部屋にかしこまった声が響き渡る。


ここは無鍔大学の第二講義室。

そこそこの偏差値の私立大学であり、今行われているのは全国でもまだ珍しい魂魄学の講義だ。


「……すなわち魂魄とは生物の持つ精神エネルギーの集合であり……」


だがここに座る私、羽月華澄(うづき かすみ)の目的は珍しい講義ではない。


「部屋の広さの割には、あまり埋まってないな。人気ないのかしら?」


「聞くからに退屈ですもんねぇ。とりあえず見るからに怪しい人は居ないですね」


「そう怪しい人が居ても困るだろ……ふわぁ、眠くなってきた」


両隣にすわるのは七峠陽鞠(ななとうげ ひまり)と笠宮綾乃(かさみや あやの)。二人ともに同僚で、部下だ。


「……また人格や精神、いわゆる心にも魂魄は深く関係しており……」


教授なのか、頭の寂しい人の話が続くなか、陽鞠の持つ端末に反応が。


「反応アクティブです!コードはP-0174。位置情報によると……あの人ですかね?」


指差す方向には男子学生が一人。周りに座っている他の学生は居ない。好都合だ。


「私もついていくか?」


「大丈夫だと思う。年のために観てから行くわ」


そうして目を瞑り能力を使う。うん、問題ない。


頷くと同時に席を立ち、男子学生の近くへ。


「よって今の時代、どのような人でも超能力に等しい……どうかしましたかお嬢さん?」


教授が私に気づいた。周りの視線が私に集まる。男子学生も私を見て目をぱちくりさせている。


無駄に注目されている気がするが仕方ない。懐から手帳を出して突きつける。


「魂魄管理局違法魂魄対策課直接執行部だ。今も使ってるそれについて聞きたいから、同行してもらえる?」


さっ、と男子学生の顔が青ざめる。

そして周りがざわつくと同時に飛びかかってきた!


が、観た通り、問題なし。

左手に隠し持った銃を抜き、一発、二発。

乾いた発砲音と共に倒れる男子学生。


「覗き魔確保っと……ん?」


辺りが異様な雰囲気に包まれている。ざわめきは消えて誰も喋らない。見渡せば怯えた学生達。


「……あっ」


理由に気づいて素早く銃を隠してニッコリスマイル。


「だ、大丈夫ですよー?麻酔銃ですよ?死んでませんよー?」


改心の笑みでも雰囲気は変わらず。

どこからかため息と笑い声が聞こえる気がした。

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