最高のライバル
見えない攻撃
「本大会も、準決勝と決勝の三試合を残すのみとなりました。ここまで勝ち上がった4名、空乃天翔くん、スベランカー、クインビー、シードのチームX。異種目のスターたちが次々と姿を消す中で勝ち残った精鋭たちですが、鳳博士、ここまでのバトルをどうご覧になりましたか?」
「シードのチームXは別として、他の三名が勝ち残ると事前に予測した方はいなかったでしょうね。恥ずかしながら私も考えてもいませんでした。空乃くんとクインビーちゃん、あ、失礼しました、クインビーさん、このふたりはとにかくマヌーバ(操作)が素晴らしい。もちろんドローンの改造も工夫を凝らしていますが、バトラーの技量という点では申し分ありません。ドローンそのものよりもテクニックで勝ち上がる、まさに理想的なドローンバトラーですね」
「鳳博士、スベランカー選手はいかがでしょうか?」
「ああ、彼は……、どうなんでしょうか、通常の大会ではそれほどの成績を残していないんですが、本大会では対戦相手が次々に自滅するというラッキーもあってここまで勝ち残ってきたようですね」
「運が良かったと」
「そうは言っていません。運も実力のうちです」
「なるほど。ここで入ってきた情報です。どうやらネット上の生放送ではクインビー選手がドローン・ジョー一味のメカニック、ボヤキちゃんと人気を二分しているとのことです。生放送中に投稿されたコメントによりますと、『クインビーたん萌える』、『グラサンとマスク取ったら絶対美少女間違いなし』、『いや、むしろグラサンとマスクこそ正義』、『オレは絶対ボヤキちゃん派』、『ボヤキちゃんもっと活躍して欲しかった。スベランカー許すまじ』等々、特に先ほど三回戦のクインビー選手登場の場面では弾幕で何も見えなくなるほどのコメント量でした。彼女たちの活躍でドローンバトルの人気もこれからますます盛り上がってきそうです」
「いやあ、本当に素晴らしいですね」
リキシをセットするスベランカーの後ろ姿を天翔は真剣な眼差しで追っていた。タカシと医務室に行ったのでスベランカーとドローン・ジョーの対戦は見ていない。一回戦二回戦もタカシの調子が悪くてひとりでモニターで見ていた。対戦相手の自滅はどうしても不自然に思えてならない。
スベランカーは落ち着いた様子で自分のドローン、PLAYER01を起動した。静かなドローンだ。天翔も遅れてスカイランナーをテイクオフ(離陸)。ここまでスベランカーに怪しいところは見つからない。ひとつだけ気になることがあった。すごく匂うのだ。元々ドローンバトルではプロペラのベアリングに使われるグリスや潤滑剤の匂いが漂う。けれど、それどころではない。ガソリンエンジンを搭載した大型のラジコンのような匂いがする。
スベランカーは緑色のレーザー光線で仕切られたバトルスペースの上限一杯まで上昇した。そこでじっと動かずに様子を伺っている。一回戦二回戦と同じ態勢だ。積極的に攻めては来ない。そのうち相手に異変が起こる。
天翔は集中していた。このまま異変が起こるまで待っている気はさらさら無い。かと言って無理に攻めてもどうなるかわからない。こんな時タカシくんがいたら、そんな考えを必死で追い払う。
また、強く匂いが漂ってきた。
その瞬間、天翔はスベランカーの秘密に気がついた。オイルだ。これはオイルの匂いだ。そしてその源はスベランカーのドローン、PLAYER01だ。
確かめる手はひとつしか無い。
天翔は一気に下降した。
「ああ、空乃くんのリキシが今までスベランカーと対戦したバトラーたちと同様に不安定になっています」
「なんでしょうか、滑っているようにも見えますね」
リキシが滑っている。天翔は必死でドローンを操作していた。方法は分からないが、スベランカーは間違いなくオイルを散布している。それを食らった対戦相手のリキシはツルッツルに滑ってしまう。タカシがエアDにインスパイアされたプログラムを組み込んでくれていなかったら一貫の終わりだった。
既にオイルを食らってしまった以上、勝負を長引かせることは禁物だ。
天翔は勝負に出た。
「おおっと空乃くんのスカイランナーが一気に上昇だ。PLAYER01の下降気流に巻き込まれかねない、かなりな危険な位置を垂直に上昇していきます。そして回り始めた。回転速度が上がっていきます。これは、メテオのような下降気流を作り出すのか。いや、回転は逆周りです。反時計回りだ。すごい勢いで回転しながらPLAYER01のすぐ脇を通過。それ以上上昇するとバトルスペースからはみ出して反則となってしまいます。が、ギリギリで止まった。止まった。回転しながら止まった。そして、ああ、スベランカーのリキシが不安定になっている。どういうことでしょうか、今までスベランカーと対戦したバトラーたちと同様に、いや、今度はスベランカーのリキシが不安定になっています。そこに空乃くんのスカイランナーが突っ込んでくる。避ける。スベランカーが避ける。空乃くんのリキシが、いや、スベランカーのリキシが落ちた。空乃くんのリキシも落ちた。ほぼ同時だ。地面に先に落ちたのも同時だ。これは判定か、判定か。いやあ、大変なバトルになりました!」
審判団の協議による結果は意外なものだった。
「判定の結果は、なんと、スベランカー選手の反則負けです! 審判団によりますと重大なルール違反があったとのことですが、詳細については追って発表が……、ああ、スベランカーが逃げ出した!」
PLAYER01を抱えて逃げ出そうとするスベランカーを関係者と警備員たちが取り囲んだ。
それを待っていたかのように観客席の一角で騒ぎが巻き起こる。奴は偽物でオレが本物のスベランカーだと騒いでいる。他の場所でも、また別の場所でも、あちこちで自分がスベランカーだと観客が騒ぎ始めた。皆、スベランカーと同じガイ・フォークスの面を被り、黒いマントを羽織っている。
「これは大変なことになりました。あ、スベランカーが!」
取り囲まれていたはずのスベランカーがPLAYER01にぶら下がり宙に浮かんでいた。ゆっくりと上昇し、同じ面を被った男たちが集まった観客席の一角に飛び込む。スベランカーは一度だけステージの天翔のほうに顔を向けた後、マントを大きく翻し、男たちと一緒に出口に雪崩れ込み、そのまま姿を消した。
混乱の中、天翔は医務室に向かっていた。タカシのことが心配だった。
「先生、タカシくんは」
息が上がっていた。
「ああ、少し寝てからプリンを10個ぐらい食べて、ついさっき出てったよ」
「ええっ、じゃ、ここには」
「いないよ」
モニタの中では似鳥アナが次のバトルの開始を告げていた。混乱は思ったより早く収拾したようだ。画面には落ち着いて準備をすすめるチームXと慌てた様子のクインビーが映っている。
ポケットのスマホが鳴った。メッセージだ。タカシからだ。
(天翔クン、ごめん。ボク、どうしても今そこにいられない)
「どういうことだよ、タカシくん」
天翔は呆然とスマホを見つめた。
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