敗者復活、巻き起こせ嵐 for dream
三回戦、メタル三銃士ジミーが操るレッド・ヒンデンブルグ(鉛の飛行船)の超重量級の機体と超音波でアクティブソナーの誤動作を誘発するという反則スレスレの攻撃に苦戦した天翔は、第二戦でメテオが使っていた戦術を採用。動きの鈍いレッド・ヒンデンブルグの上空を取ると下降気流で一箇所のプロペラを狙い打ちした。巨大ドローンは悲劇の飛行船のようにゆっくりとバランスを失い、最後は自らの巨体を支えきれずに地上へと墜落。ここまでドローンメイズのアルドローノン、ドローングランプリの大スター、ゴウ・クロサワの操るマッハ・ゴウを寄せ付けなかった巨人はここで倒れた。
三回戦、続く第二試合ではゴウ・クロサワと並ぶドローングランプリの人気者にして奇抜な衣装のドラァグ・クイーンとしても有名なドローン・ジョーとスベランカーが対戦。ドローン・ジョーは本大会でのレギュレーションにより美少女メカニックのボヤキちゃんが生み出す今週のビックリドッキリメカを封じられながらも、ジンバルを垂直に伸ばしたポール上に固定した豚もおだてりゃ木に登るスタイルで相変わらずエンターティンメント性の高いバトルを展開。会場内外の観衆を大いに沸かしたが、なぜかリキシが滑りだすという原因不明のトラブルに見舞われ、あえなく自滅。不思議な事に、ここまでのスベランカーの対戦相手、一回戦を闘ったドローンバレエのプリマ、アンナ・ドロノワ、二回戦の対戦相手、メタル三兄弟のマーティ、その二人も、ドローン・ジョーと同様のトラブルに見舞われ自滅していた。
第三試合は謎の少女バトラー、クインビーと公家スタイルのバトラーおじゃま丸の対決。おじゃま丸のドローン、マスオノエボシは下に長く伸びた触手を振り回すという、これも反則スレスレの必殺技で勝ち上がってきたが、触手をギリギリのところで避けるクインビーのドローン、バンブルビーの巧みなマヌーバーで逆に自らの触手によってリキシを払い落としてしまうという屈辱的な敗北を喫した。
そして三回戦は最後の一戦を迎えようとしていた。
「迎え撃つはシードチームとしてここからバトルを始めるチームX、そしてそれに挑むのは敗者復活を賭けたバトルロイヤルに見事勝ち残ったドローンバトラーあらしこと石山嵐選手とメテオ選手のチームです。本大会の敗者復活戦では敗者同士二組が連携して新たなチームを組みバトルロイヤルに臨みましたが、いやあ、メテオのキュムロニンバスを操る石山嵐選手の技が冴えました」
「バトルロイヤルではシンクロチームの機体を操るドローンバレエのプリマドンナ、アンナ・ドロノワさんの想像力あふれるマヌーバにも目を奪われました。残念ながらゴウ・クロサワとエアDは棄権でしたが、あの二人が組んだとしても嵐君の動きを制することは難しかったのではないかと思いますね」
「さあ、そしてチームXとの対戦ですが、チームXの機体は従来のドローンとは大きく異る設計思想の下、ドローンの姿勢制御における新しい提案を実現したとの情報が届いておりますが」
「まだ正体が明らかにされていませんからね。このチームも非常に楽しみです」
「ありがとうございます。では、ここでCMをどうぞ」
「タカシくん、大丈夫?」
医務室で横になるタカシの枕元で天翔は心細げに声をかけていた。
「大丈夫。心配かけてごめんね」
タカシが力無く微笑んだ。
「先生、タカシくんは、タカシくんは大丈夫なんですか?」
「ハッハッハ。キミは友達思いだね。大丈夫だよ、そうだろ、ええっと?」
「青空高志です」
「そうだ、青空くんだ。キミ、寝不足だろ? 顔見りゃわかるよ。何時間寝てないの」
「すみません。もう4日寝てなくて」
タカシの声はかすれ気味だった。
「ええ! タカシくん、そんなに寝てなかったのかい?」
「ごめん、天翔くん。ボク、この大会の準備で寝てる暇がなくて」
「ダメだよ、小学生はちゃんと寝ないと」
若い医師はタカシを責めてはいなかった。
「それと、キミ、ご飯もちゃんと食べてないね」
医師に指摘された途端、タカシの腹が大きな音を立てた。
「タカシくん!」
「天翔くん、本当にごめん。でも、ボク、この大会でどうしても勝ちたかったから」
「でも、だからって」
天翔は唇を噛んだ。タカシがここまで追い詰められていることに気がつけなかった自分が不甲斐なかった。
「キミ、空乃くんだっけ、キミはバトルの準備は大丈夫なのかい?」
「先生、今はそんなこと言ってる場合じゃ」
「ううん、天翔クン、先生の言うとおりだよ。ボクのことはいいから」
「でも……」
医務室に備え付けられたモニターにはドローンバトラーあらしとチームXのバトルが映しだされている。このバトルが終われば次は天翔がスベランカーと闘う番だ。
「早く行かないと」
タカシが起き上がろうとした。
「タカシくん。動かないで。でも、タカシくんがいないとボクは……」
自分がどれだけタカシに励まされていたか、それを思い知った天翔の目から涙がこぼれ落ちた。
「ダメだよ、天翔クン、ボクがいなくても天翔クンは闘える」
モニターから流れてくるかすかな音声でも会場が大きく盛り上がっているのが分かった。特別観覧席で頭を抱えるメテオが映し出された。どうやら勝負はあったようだ。
「タカシくん……、ボク……」
「天翔クン」
タカシがうなずいた。
「わかった。ボク、ひとりで闘うよ」
天翔は袖で涙を拭いながら立ち上がった。
「ごめんね……、天翔クン……」
その姿を見て安心したかのようにタカシは目を閉じた。すぐに寝息を立て始めていた。
「先生、タカシくんをよろしくお願いします」
「ああ、起きたら何か消化のいいものを食べさせるよ」
ついに準決勝。
天翔は医務室を出ると廊下を走った。
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