第83話  せんべい職人

生徒会長ミロが何者かに襲われている昼下がり。鈴木海は、自宅のリビング、カーペットの上で、全裸で腹筋運動をしていた。この世界は、レベル至上主義なので腹筋運動をしたところで腹筋がバリバリに割れるだけだが、海はいつ裸になってもいい様に一生懸命腹筋をしていたのだ。


「2001....2002....2003....あぁ~数えるのめんどくせ~」


自堕落な海は、数えるのがめんどくさくなり腹筋運動を終了する。まだまだ余裕で腹筋できそうだったが、もうそろそろ飽きてきたのでやめたのだ。


「はぁ~次は腕立てでもするか...」


海が腕立ての姿勢に入ると、リビングのソファーに転がる妹楓が、変なものを見るように海を見る。


「お兄ちゃん何やってるの?病気なの?」

「病気とは何だ!?病気とは!?」


海が食い入るよう楓に言う。


「だってお兄ちゃんが努力してるところなんて見たことないもん...病気以外に何があるって言うの...」

「お前僕をバカにしているのか!!僕の信念は友情・努力・勝利だぞ!!」

「嘘くさ...ていうか絶対嘘だよね...お兄ちゃんの信念なんて無情・変態・セッ〇スでしょ?」


楓は、銀色の髪を指でいじりながらどうでもよさそうに言った。


「兄はもう怒りました。怒りましたとも…。」

「お兄ちゃん沸点低い...器小さい、情けない...」

「楓...何か俺恨みでもあるのかな?」


海が額に青筋を立てながら中指を立てる。


「だって最近お兄ちゃん私に構ってくれないじゃん...」


楓は、薄い艶やかな唇を立てて不服そうに言った。


「構ってほしかったのか?」

「うん...何処か行こっ?」

「仕方ない、要望を言いなさい」


海が、楓の方に向き直る。楓もそれと同時に嬉しそうに海に微笑み、横になっていた体を起こして、ソファーに座る。海の角度からは、楓の履いているラフなモコモコの短パンの隙間から黒色のパンツが覗き見える。海は、もちろんそれを凝視しながら楓の話を聞くことにする。楓はというとそのことに気付いていながらも仕方ないな...このバカ兄は...と思いながら話を切り出すのだ。


「私、せんべいが食べたい。無性にせんべいが食べたいの...」

「せんべいか...確かに懐かしいな...せんべい。日本にいたころ、お前せんべいばっか食ってたもんな」

「そう、せんべい。あの味が懐かしくて、愛おしくて仕方ないの」


楓がせんべいを思い出しながら、指を唇に当てて少し唾液をちらつかせながら言う。


「そうだな。せんべいでも食べに行くか。どこにあるかは分からんが探しに行くとしよう」

「うん!!行く!!」


海は、立ち上がり服を着るのだった。楓は、全裸で海が出かけることを危惧したがさすがに服を着たので少し安心したのであった。





10年後…


カレビ帝国商店街は今日もにぎわっていた。中でもにぎわっていたのは「SENBEI」という看板が立った屋台だった。


「へい、らっしゃい!!せんべい二枚追加ね!!」


店主の鈴木海が裏でせんべいを焼く従業員に指示する。


海はあれからせんべいを職人になっていたのであった。


                        

                           ~完~



ご愛読ありがとうございました。




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