5-3 再上陸
穴の開いた岩塊から現れたのは、10mほどの小さな怪獣だったので、入り口付近に居た多くのムゲンたちの(生体部分の)緊張は緩んでいた。尖った装飾を張り巡らせたその禍々しい星の様な怪獣は六本足で、尻尾にはサソリの様なトゲがついていた。動きはそう速くなく、ムゲンに装備されたテスラガン(電磁誘導で弾丸を射出する武器)で容易に対処できた。だが、様相がおかしくなってきたのは「その次」だった。「二体目」の、同じ形をした怪獣が現れたのだ。
その時イツキはアビンドスの中で、岩塊の中を探知していた。
入り口から出てきた怪獣と同じ反応がひとつ、ふたつ——
「これメンドイ事態だね」
イツキは慌ててスピーカに切り替える。
「オイッ、出てくるのを待ってないで、急いで『そいつら』を潰せ!あと『20体』以上、その祠の中には同じヤツがいるぞ!」
イツキはスピーカごしに叫びながら状況判断をした所で、舌を打つ。イツキの『アビンドス』に、小さい敵を想定し細かな対処が出来る武装は皆無に等しい。細々したガイタスや怪獣というヤツが、一番イツキにとって「厄介」なのである。
「艦長、『置き間違えた』か?」
コクピットの中で、イツキは爪をかじってうずくまった。三体、四体と増える小さな怪獣を睨みつけながら。
同時刻、岩塊から数キロ離れた『神代』の森林地帯。それは、海に面した『陸尾』と最も近い森林地帯だった。二機のムゲンはその中で待機任務を任されていたが、動物一匹として姿を消してしまったように居ない空間では、警戒する必要も無いだろう、二機のムゲンに乗ったキラビトはそう考えていた。なにしろ、ムゲンの頭部の高さは森林の高い木々よりも更に高いのだ。視界を阻むモノと言えば、海側に壁の様に立ちはだかる、堤防の様に聳え立つ小さい山くらいである。
「祠の方に行った本隊が応答しないんだけど」一方のムゲンに乗った男、バドが、もう片方に向かって内線通信で話しかける。
『ほっとけよ』もう片方の男、モンドウが気だるげに答える。きっとその口は菜食主義者のためのMRE(戦闘食)を咀嚼しているのだろう、とバドは予想する。『ほら、派手な爆音とかも聞こえないだろう?それは何も起こってないか、ごく小型の怪獣とかと交戦してるって事さ』
「艦長は宝を守る番の獣があそこに居ると言ったが」
『そのことだが……祠なんて狭苦しい所に、大型の怪獣がのうのうと獲物を待ってひっそりと生きていられると思うか? 俺はさ、ニンゲンか俺達キラビト向けを食い止める役割に過ぎない「ケモノ」じゃないかと思うんだ、大方犬とかワニとかそういうんじゃない?俺達ムゲンの敵じゃないって』
「支給されてるまともなブキはテスラガンくらいだけどな……なあ、それにしてもお前はいつもダルそうにしているが、どうしてこのソラゾクに入ろうと思ったんだ?」
『簡単な事さ……飯も住むところも保障される、おまけに強めのガイタスが手に入る。艦長が理想だなんだ掲げていたってここにいる殆どの奴はそんな考えでこの場所を単純に「居場所」にしている。そんなもんだろうさ』
「そうか、まあ俺もそんな所だ」
バドも苦笑気味に呟いた所で、遠くから聞こえる「音」に彼は気付いた。
「今の聞こえた?」
『森の方じゃないな』
「本当に?」
『ああ、山の方からしたような……』
それが本当なら、対処しなければならないのは俺達だ。バドは考える。
ドシン——
再び「音」が、今度は地面を突き上げる「振動」も連れてくる。
ドシン—— ドシン——
次第に近づく地の揺れに、バドは身構える。
彼の筋肉の緊張に、ムゲンは同調する。
ドシン——ドシン——ドシン——
「音」は益々鮮明になる。
遂には……
山のてっ辺から、巨大な顔が現れた。
顔面は、鎧を着ている。
般若の面の様な、恐ろしい形相。
怒れる眼光は、2つの怪獣を照らし。
二機のムゲンを呪いに掛けたかのように、動けなくする。
そして——
地平を震わし、食い尽くす様な咆哮がムゲン達を包み込んだのだ。
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