3-4 全力打球
「ジン、嫌な予感がする」
「奇遇だなノボル!俺も今、それを考えていたトコロだッ」
ジンは不敵に笑んだまま、しかし息を呑んで言う。
「ヤロウどもには『ユイツブキ』が無いと言ったが——」
「ああ、そうだね……ちゃっかり隠し玉を持っている!!」
レイゴオウは足をしっかりと地面につけ、様子を探る様な咆哮を煙の山に浴びせた時、二体の怪獣はスピーカで口々に不平を言った。
『よくわからんけど、よくも俺達の邪魔をしてくれたな』
『このダサダサずんぐりむっくり』
「ず……ずんぐりむっくり!!!」
ハリネズミの言葉に、ジンの顔が電撃を受けたように凍りつく。
「そう言われて許せんのはこっちのが……百倍くらいだ……それに、貴様ら!!人様の領域に勝手に入り込んどいて何が『俺達の戦い』だ!!聞こえのいい言葉は、現実を押し流すためにあるんじゃあないぞッッ!!!」
ジンの雄叫びがレイゴオウの咆哮とシンクロする。
『うるせー!よくわからんから、お前の事を吹き飛ばしてやるッ!!』
ハリネズミが高速回転しつつ、カンガルーの前に躍り出た。カンガルーは拳を、その後ろで構えている。二体が何をしようとしているかは、容易に合点がいった。狙うべき照準は、しっかりとレイゴオウに向いている——
『行くぜェェェェェ必殺ッ!!』
カンガルーの拳が、前方の丸くなったハリネズミに命中する。
火花。
拳が打った先でしかし、ハリネズミ・ボールは高速回転しながらも、離れない。2つの怪獣が口々に言い合う『技名』が、スピーカごしに反響。
『暴』
『龍』
『怪』
『球』
『烈——』
赤い火花を後方に散らしながら、ハリネズミは浮きながらにしてその回転数を、この上は無いという程に上げ——
『『ダァァァァァァンッッ!!!』』
閃耀!
風景は、ほんの一瞬色を反転させ。
ハリネズミ・ボールはカンガルーの拳から射出される!
巨大なトゲの塊が、レイゴオウを一直線に捉え、飛んでくる。
恐ろしい光景だ。ノボルはレイゴオウの脚を一歩下げる。
「怖がるな……」ジンの穏やかな声。「俺達は既に、レイゴオウに乗っているッ」
銀色に光るレイゴオウの瞳。
その右腕が『レイスィクル』諸共、光るオーラに満たされる。
オーロラを液体にしたモノが充填されていくかのようだ。その光景は!
「「レイスィクル・オリジン、発動ッッッ!!!」」
腕と、刃がついたトンファーとの「結合部」が軸となって、90度、180度と回転!
腕は完全に、剣となった。
片方ではあるが、腕から刃が伸びたその風貌は、獣の皮を被った剣士。ノボルはそう思う。
レイゴオウはどっしりと脚を構え、腹の前に刃を添える。
その真ん中に向かって、ハリネズミは高速回転しつつ——刃に貫かれる。
という幻想。
ノボルには見えた。
しかし……
ジンの、敵を狙い確実に仕留めると云うブレない視線に対して、ノボルの魂は別のモノを見た。
あのガイタスに乗った、子どもの声だ。
それを意識した瞬間に、レイゴオウの刃の先っぽは、ブレた。
ノボルの迷いに、干渉され。
ハリネズミはそれに貫かれる事無く、その面を滑り。
レイゴオウの頭上を飛び越え。
ビルの向こう側へと消え、大きな爆発を巻き起こした。
レイゴオウはゆっくりと振り返り、その結果に驚き、唸り声を震わせた。
「ノボル、お前」
ジンが囁いて、ノボルを見据える。
無音。
ノボルはジンの言葉に何も答えず、前を見ている。俯く事もせず。
深い息と汗。
鼓動に似た動作音が、二人の間の沈黙を際立たせる。
『コノヤロウッ!!』
背後から転がり出るハリネズミ。
レイゴオウはそれを巨大な背びれでいなした。背びれの固い面がハリネズミの動きを吸収し、カンガルーの方へとそれを返してしまう。レイゴオウへの追撃に走り向かっていたカンガルーは、その唐突な挙動に対応できない。カンガルーの頭部でハリネズミはバウンドし、再び煙を巻き上げながら、両者は倒れ伏した。
「ならば」長い沈黙の後、ようやく判断に至ったという顔で、ジンは口を開く。「ノボル、今のは『ファール』としようッ!!!」
「……ファール!?」
レイゴオウは腕を横に傾けた。刃のしのぎの部分を水平に向けるように、である。まるで、バットを構えているような姿に、レイゴオウは成った。
『何をする気だ!?』レイゴオウに訊くホノカ。
「ヤロウのタマを撃ち返せない程ヤワなバットじゃないって事さ、俺達のはッ!!」
「でも——本当に耐えきれるのかッ!?」
振り返るノボルに、ジンは笑顔で返す。ノボルは怪訝な表情を浮かべながらも、その笑顔に頼る事を決めた。
「「よしッ!!!」」
立ち上がるカンガルーとハリネズミを、六つの瞳が睨みつける。カンガルーは、「ハリネズミの前に」立った。ハリネズミはその後ろで再び烈々たるローリングを始め、先程よりも物凄い回転を保ったままで、カンガルーの背中にぴったりとつく。
「フォーメーションが逆だ!」
ノボルが叫ぶ。
ジンは汗一つ垂らさないで、不敵に笑む。
何が来るのか?わからないままで、カンガルー型のガイタスは、飛んだ。カンガルーは高く突き上げた足のつま先を、振り子のようにする。そのキックが当たる先に丁度転がってきたハリネズミを正確に狙い——
あろうことか、蹴った!
ボールとなったハリネズミは、炎を纏い。
拳より、蹴りだ。そう言わんばかりの勢いを増しつつ、
バットとなったレイスィクル目がけて、迷うことなく飛び込んでくる。
「反則技だろうがァァァァァァァッッッ!!!」
憤怒を爆発させるジン。
その弾丸のようなトゲの塊を、二人はしかし逃げずに受け止めた。
激しい地鳴り。
風圧に飛ばされた、灼けたコンクリートが、レイゴオウの脚やら胴やらを叩き付ける。
ボールは振り抜く途中で止まったレイスィクルから、離れようとはしない。
「このままレイスィクルを叩き折るつもりかッ!!」
「そのようだな……ガイタスの『装甲』は同じマテリアルでできている上に、このタマは高速回転している!圧倒的アドバンテージ……しかしな……単純な足し算もできんのかッ、ノボル!!!」
「単純な足し算!?」
「フフフ……それがわからんようでは」
「まさか……ハリネズミに乗っているのは一人、レイゴオウに乗っているのは二人、一人体二人だから勝ってるとか言いたいのでは!?」
「……」
一瞬、空気が止まる。
「あの……えっとな、まあ、その通りだァァァァァァァッッッ!!!」
ジンとノボルは焼き切れそうな腕を振り抜いて、とうとう、トゲの塊を打ち返した!レイゴオウの背後のコンクリートは簡単に剥げるタイルのような断片となって、一度に多くが飛ばされた。こちらに飛んできた時より物凄い炎の渦を纏いながら、ハリネズミ・ボールはカンガルーに到達し——爆発した。
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